どこから手を付ければいいのか。
映画の学校で映画を見せて解説するという授業を担当しているのだが、ここ3週間、毎回事件が起こっている。3週前は出席の件。オンラインシステム出席を取るのだけれど、そこで出席していないのにちょうど授業が始まる時間にログインして「出席」というボタンを押す事案が発覚。2週前は映画を上映している間に、映画を観ずにスマホでゲームをしていたという事案が発覚。1週前は映画を観た後に批評文を書かせるのだけれど、その内容を映画のレビューサイトから完コピしていたという事案が発覚…。3週続けてなのでさすがの僕も少しばかり凹んでいる。
この中でいちばん悪質なのはレビューの完コピ。これは相手のいることでもあるし、完璧な虚偽で完璧な違法行為なので、ことの進み方と学校の捉え方によっては除籍扱い、就職先の内定が決まっている場合は内定取消などの処分に処される場合もあり得る。出席していないのに出席していたように虚偽申告したというやつも場合よっては除籍扱いもあり得る。なにしろ、どちらも確信犯だから。わかっていてやっているというのがタチが悪い。
しかも、レビュー完コピに関しては、本人に「今回の批評文、よく書けてたね」と声をかけたというアホっぽい経緯がある。すると、本人が「いやあ、今回は自分で書いてないんですよねえ」と笑っている。「まさか、コピペじゃないだろうなあ」と返すと「そうなんすよ!」と来た。
いやもう、嫌だよ。ほんと、こういうのがいたずらとか出来心じゃすまない話なんだってことをどうしてこいつらは19歳や20歳になって理解していないんだろう。
だけど、僕がいちばん傷つくのはやっぱり映画を見せている最中にゲームをしているという奴ら。これはもう一定数いるんだけども、普段はことさら目を見開いて監視するようなマネはしていない。ただ、気付いたときには注意をする。ただ、こいつらのスマホで繰り広げられるゲームの方がゴダールよりもスコセッシよりもホン・サンスよりもウォン・カーウァイよりも彼らの心を捉えているのかと思うといたたまれない。しかも、そいつらが映画監督志望だったりする。
他の大学で同じように講師をしている人に聞いても、現状はたいして変わらないらしい。バレるようにやっているだけ、可愛らしいとまで言われる。でも、このままでいいわけがない。さて、どこから手を付ければいいのか。いや、放置という手もある。というか、ほとんどの先生たちは注意もしなければ見て見ぬふりをしている。でも、それだともっとやりにくくなるはず。そう思って、なるべく目にしたときには注意するようにしているのだが、もうちょっとしんどくなってきた。
教育が悪いとか政治が悪いとか、なんなら家庭が悪いとか言われるけれど、どこか一部が悪くなるなんてことはあり得ないので、全部が悪いんだろう。そして、全部が悪いんだな、ということがほとんどの人に知られるようになってきた感覚がものすごく強い。こうなると、正直、どこから手を付ければいいのかがわからないのだ。これまでにいくつか、こういう事態をやり過ごす手を考えてきた。
手段1/自分の目の前にいるまともな奴だけを相手にする。
しかし、これがそういう奴がいないと地獄と化す。さらに、まともな奴が意外にダメな奴の影響を受けやすかったりする。そうすると、そいつを囲い込むという手に出る必要がある。が、囲い込まれた相手は自分が特別扱いされていることに敏感になり甘え出す。これはこれで危険な行為。
手段2/アホのふりをする。
もう本当はこれがいちばんいいのかもしれない。やることだけやって、アホのふりをする。気付かないふりをして、よその子がどうなろうと知らないふりをしておけばいい。でもなあ。それが出来ないからこんな仕事してるんだよなあ。正直、それが出来る先生もたくさんいるので羨ましい。というか、そういう先生たちは教えるということの本質を見極めていないので、適当な知識をばらまくだけで相手が受け取っているかどうかなんて気にしていない。いいなあ、気にせずに生きていけるなんて。
だ、だめだ。書いている間にどんどん虚しくなってきた。とういうわけで、今日もそのややこしい授業があるのだ。さて、今日はどんな事件が起こるのか。もう、さすがに打ち止めなのか。結果については次週、お知らせします!お楽しみに!
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植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。現在はコピーライターと大阪ビジュアルアーツ専門学校の講師をしています。東京と大阪を行ったり来たりする生活を楽しんでいます。