エンニオ・モリコーネのトランペット。
生まれて初めて映画音楽の作曲家を意識したのは、テレビで放送されていた『荒野の用心棒』を見た時だった。クリント・イーストウッドもカッコ良かったが、なんだかよくわからないテーマ曲がやたらとカッコ良かった。その時に、映画音楽ってカッコいいのだ、という気持ちがわき上がったきた。そして、エンニオ・モリコーネという作曲家の名前を知ったのだ。
その後も、『ジョーズ』などの特徴的な映画音楽を聞いてはアルバムを買ったりしていたのだが、何度も繰り返して聞いているうちに、だんだんと作曲家の名前を覚えるようなった。しかし、たくさんの作曲家を知ってからも、好きな作曲家第1位はいつもエンニオ・モリコーネだった。『荒野の用心棒』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』『ニューシネマ・パラダイス』『アンタッチャブル』などなど。モリコーネの作る映画音楽はメロディがいいだけではなく、いつも何かの仕掛けがあった。そして、その曲を聴くだけで、映画を思い起こすようなつながり方をしていた。
モリコーネは残念ながら2020年に亡くなったが、亡くなるまでに膨大な数のサントラを書いた。そして、そんなモリコーネにインタビューを重ねたドキュメンタリー映画『モリコーネ 映画が恋した音楽家』が公開されている。マエストロと監督たちや同業である作曲たちから呼ばれるモリコーネは、毎日、ストレッチをして、ピアノを弾き、五線譜に向かう。そして、映画の中で自分の作品がどうやって生まれてきたのを実に丁寧に教えてくれる。時に監督とぶつかり、時に「ゴミを採用するのか!」と息巻くエピソードが語られるが、そのすべてが愛おしく宝石のような出来事だ。
その中で、僕が一番心惹かれた言葉があった。それは、モリコーネの父についての言葉だった。モリコーネの父は楽団で演奏するトランペッターだった。モリコーネは父の教えに従いトランペットを習い、音楽の道に入った。映画音楽家として仕事が順調に入り始めた頃に、父はトランペットを吹けなくなったのだという。この時、モリコーネはトランペットを使う曲を作らなくなったという。「だって、父に悪いから。父が亡くなってからは、またトランペットを使っているけれど」と少し切なそうな顔で語るのだった。僕はこのエピソードが大好きだ。こういう人からこそ、あんなに切ない音楽を紡ぎ出すことができるのだとスクリーンを見つめながら涙が溢れてきた。
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植松眞人事務所
植松眞人(うえまつまさと): 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。現在はコピーライターと大阪ビジュアルアーツ専門学校の講師をしています。東京と大阪を行ったり来たりする生活を楽しんでいます。