〈 晴れ 時々 やさぐれ日記 〉 「 ああ、SA。 ホームとアウェイのあいだ 」 その一
――— 46歳主婦 サヴァランがつづる 晴れ ときどき やさぐれ日記 ―――
いつまでも帰省のはなしで恐縮ですが、年末年始に日常を離れ、ホームとアウェイを行き来します。そこにある高速道路のサービスエリアについて。思うことのあれこれを忘れないうちに書かせていただきます。
子どもは10歳になった。移動は、速いから新幹線がいいと言う。これは毎回のことなので、小4の今年は交通費を計算して示して見せた。高速を使って3人で往復した場合( ガソリン代を含む )。それが土日割引適用の場合。新幹線で大人二人と子ども一人が往復した場合。それぞれのケースの差を見比べて、ふーん、と彼は言った。実家の母にこのことを話すと渋い顔をする。「子どもにそんなお金のはなしをして」。
―― そうだな。母はこんなはなしはしなかったな。そうやって、わたしの子ども時代を守ってくれたんだな。でも。そのことも噛んで含んで、わたしにもわたしの考えがある。
高速道路の休憩は年々回数が減り、そのため移動時間が以前より短くなった。助手席の息子は、運転席の主人にひっきりなしにはなしかける。話していたと思うと歌う。歌っていたかと思うと妙なクイズを繰り出して後ろのわたしも参加させる。やがて急に静かになる。寝たのかな?と覗き込むとそうでもなくて、「今 かんがえごとしてんの。」と大げさなことを言う。考えごと。どうぞどうぞ小さいことでも大きいことでも、自由に考えごとしてください。
「次あたりちょっと休憩しようか」。切り出すのは親の方になった。
車はウインカーを出して、本線からSAエリアに進入する。広い駐車スペースに車を停めるため、スピードは自ずと2,30キロ台に落ちる。ママ友の一人は、駐車場のどこに停めるかで、毎回ご主人とひと悶着あるという。どの車も、おトイレに近いところを探している。車から降りたひとたちは、まず車内のゴミなどを集め、あるいは衣類を直し、あるいはトランクを開けて荷物の確認をし、ある人はのび、ある人はあくびのひとつでもしてから車を離れる。今の季節なら、「ほい。ほい。寒い。寒い」と小走りでおトイレ方面へ。
高速道路のサービスエリアは、以前と比べて格段にきれいになった。びろうなはなしではあるけれど、サービスエリアのサービスの根幹はおトイレだとわたしは思う。昨今のSAのおトイレは設備も管理も行き届いている。「ティッシュ持ってる?」そういうささやき声はもう聞かない。それでいながら、外国のようにチップを必要とされるわけでなく、バッグをしかと抱える必要もない。こういうところの日本の文化レベルこそ、世界に発信するべきと思うが、高速道路の移動では外国の方を見かける機会が少ない。
そうだ、そういえば。このおトイレで ものすごくオシャレしたひとを最近わたしは見ない。みんなラフ。むかしはもっとハイヒールなんかでオシャレしたひとがいたように思う。新幹線、飛行機ともなれば、さらに。うちの母はどちらかと言えばそうだったし、今でもそうだから、たぶん周囲から浮いている。あの当時、子連れでよくも、とわたしは思う。わたしにはできなかったな、と口には出さないが思っている。
むかし、わたしはこのおトイレが苦手だった。理由はあえて書かない。今、SAのおトイレは明るくきれいだ。ありがたい。洗面コーナーなど、おや、と思うほどしゃれた作りになっていたりする。お花が飾ってあるのは、係りの方の心遣いなのだろう。グラジオラス、カンナ、菊。昭和の香りのお花にほっとする。きっとお庭から持ってこられているはずだ。
洗面コーナーを設えた設計者が、この花瓶、このお花を歓迎しているかどうかはあずかり知らない。この手のミスマッチは街の中にもある。箱モノがスタイリッシュであればあるほど、そこに紛れた小さな異物は誰も予期せぬ異空間をぽっかりと作り出す。異物は小さいほど絶大な効果を上げる。わたしはこういうミスマッチが嫌いではないが、設計者はこのことをどう消化しているのだろうと毎回思う。機会があれば聞いてみたいが、そのような機会にはなかなかめぐまれない。
「いずれにしろ。おトイレがきれいなのは社会の成長だ」などと、大げさなことを考えながら手を洗う。この季節、自動水洗は温水で気泡がやわらかい。少し濡れたままの手で髪など直そうとして、鏡の中のぼんやりした自分の顔に、げんなりする。隣のひとが使ったジェットタオルの音がやけに大きい。
機械の音にはっとして、気が付くことがもうひとつある。おちびがここにいない。子どもは男子なので、いつの頃からか父親と行動をともにするようになった。車を降りると当然のようにジェントルマンのマークに移動していく。ゆっくり鏡を覗く余裕ができたのは、このためでもある。できれば息子よ、こうやって母と離れ、そのままジェントルマンになってくれたまえ。。。
やれ。やれ。ここを出てくる紳士淑女は、みな一様にほっとしている。次に向かう先は自販機コーナー、道路情報コーナー、あるいはお土産やフードコーナー、はたまた館内レストランだったりする。建物の出入り口付近で 子どもより細かく動く何かがいるなと思うと、洋服を着たワンちゃんだ。多い。101匹とまでは言わないが、少し大きめのサービスエリアには、最近ではドッグランがあることがほとんどだ。長距離ドライブの途中で休憩するのは何もニンゲンばかりではない。
おや。あの二人は?と主人と息子を探す。彼らはすでにフードコーナーの一角に席を取り、こちらに手を振っている。呑気によそさまのワンちゃんと戯れたりするうちに、彼らはさっさと次の行動に出ていたわけだ。
大きな声では言えないが、わたしはこのフードコーナーが苦手だ。
Tomi*
わぁ!サヴァランさん、凄〜〜〜〜〜〜い!!!
高速道路のサービスエリアの情景が、映像のように目の前に浮かんできます。
人々の表情、服装、空気感、匂いまでが伝わってくるようです。
サヴァランさんの観察眼・描写力、素晴らしいなぁ…
んだんだ!サービスエリアのトイレが綺麗になったのは本当に嬉しいですね〜
少し前までは暖房便座もなくて、冬はひゃっこくて飛び上がったものです。
それが今ではシャワートイレ完備ですものね。ありがたや〜♪
続き、楽しみにしてま〜す♪
爽子
サヴァランさん、どういう展開になっていくのか、つい身を乗り出してしまいます。
サービスエリアのトイレ、本当に綺麗になりました。
とても広いところが多いし。
学生時代のスキーバスのトイレ休憩の長蛇の列なんて、今じゃ考えられないんでしょうね。
サヴァラン Post author
Tomi* さま
んだんだ!
↑ありがとうございます!
山形の馬見ヶ崎川という川沿いに 「エスプレッソ」という
貨物車両をカフェにしたちょっと面白いお店があって、
そこのオーナーと常連さんとトイレ談義をしたことがありました。
スキー場のトイレがひゃっこくって、
でもどこかのおばちゃんが編んでくれた手編みのカバーが
ちょっと、いや、相当気持ち悪くって、という話で盛り上がりました。
びろうなはなしですみません。
秋田は今、ひゃっこいでしょうね~。
でも、ブログを拝見するとあったまります~。
サヴァラン Post author
爽子 さま
ありがとうございます。
うわ。展開。
どうなるんでしょう。かなりあぶなっかしいです(^^ゞ
学生時代のスキーバス。
うわ、思い出します。
深夜のサービスエリア、白い息、長蛇の列、みんなのソバージュヘア。
人いきれで曇った窓ガラス、バスの中で聞いたユーミン。
あんな時代もあったねと みゆきさんは歌ったけれど、
笑える日が…あら、ここに。
ユーミンは今年も苗場でしょうか。。。