【エピソード34】スポーツ観戦で語るカナコさんの60年
さてさて、聞いた話を形に残すことを仕事にしている
「有限会社シリトリア」(→★)。
普通の人の、普通だけど、みんなに知ってほしい
エピソードをご紹介していきます。
東京五輪まで1年を切りました。「日本を元気に」という言葉も言い尽くされていますが、熱く闘うアスリートたちの姿は、たしかにいつの時代にもたくさんの人たちの心を震わせてきました。還暦をとうに過ぎたカナコさん、自分では特に運動はやってこなかったけれど、スポーツ観戦は大好き。プロレスに始まり、ミュンヘンオリンピックでのバレーボールへと続く、スポーツ観戦体験を聞きました。
● プロレス中継から東京オリンピックへ
「物心ついた頃から、プロレス中継のある日、わが家のテレビのチャンネルは必ずプロレスでした。父の晩酌のお供だったんですね。テレビの前でビール片手に、父はレスラーの攻撃に合わせて一緒に身体を動かしていました。幼かった私は特段面白いわけでもなかったけれど、傍で見ながら、いろんなことを思っていましたね。
リングのロープに投げられたレスラーは、なぜわざわざ自分で戻ってきてチョップを浴びるのか。外国人レスラーの隠し持ってる凶器になんでレフェリーは気付かないのか。試合と試合の間に出てくる掃除機は、リングの上のいったい何を吸い込んでいるのか(笑)」
もっともプロレスはショーの要素を含んだものですから、純粋なスポーツ観戦とは言えないかもしれません。文句も疑問もなく真っ白な気持ちでアスリートの活躍に心躍らせた最初の記憶は、やはり1964年の東京オリンピック。とはいえ、テレビのブラウン管に映し出されるマラソンでのアベベ選手の美しい走りや、ゴール直前で3位の選手に抜かれてしまった円谷選手の苦し気な表情――まだ幼稚園生だったカナコさんの記憶は残念ながらその程度です。
● ミュンヘンオリンピックの男子バレーボールに熱狂
その後のたくさんのオリンピックの記憶の中で、今でも一番鮮烈に残っているカナコさんの思い出は、東京大会から8年後のミュンヘンオリンピック。バレーボール男子の準決勝ブルガリア戦でした。
「私は中学2年生になっていました。4年前のメキシコ大会で銀メダルを獲っていた日本チームは順調に勝ち上がってきていたけれど、準決勝でブルガリア相手に大苦戦を強いられたんですね。2セット先取されて、3セット目も9-14でまさにマッチポイントに追い込まれていました。ここからの怒涛の巻き返し、今でも鮮明に覚えています。
若手中心のメンバーに、松平康隆監督が突然、大ベテランの南将之選手を投入するんです。ピンチになったときこそ、冷静な判断ができるベテラン選手が必要だと。そういうふうに実況のアナウンサーがマイクの前で話していたことまでよく覚えています。南選手が入ったことで、ガラッと試合の風向きが変わってきました。ここから怒涛の3セット連取! ポイントを取るたび、南選手がその大きな身体でコート内をグルグル走り回る姿も印象的でした。で、日本勢は準決勝に勝利して決勝に進み、東ドイツに勝って金メダルを獲ったんです」
今思い出しても熱く語ってしまう、とカナコさんは笑います。会場はミュンヘンですから、日本での中継はたしか真夜中でした。本来ならもう寝なさいと親から言われる時間帯に、夢中になってテレビにかじりついて応援していました。繰り返されるピンチを息が苦しくなるような思いで見つめ、テレビの前で声援を送り、最後に勝利を勝ち取った選手たちが涙を見せて抱き合う様子に思わず自分も泣いてしまったこと。
「翌日学校に行ったら、クラス中がこの話でもちきり。みんな起きてたんだ、みんな一緒に応援してたんだと、そんな一体感でうれしくなったこともよく覚えています。思えばあのときの震えるような体験が、もしかしたら私のスポーツ観戦の原点かもしれません」とカナコさん。
● ゴルフ、テニス、そして新しい種目も楽しみ
その後、全米オープンゴルフでの青木功とジャック・ニクラスの伝説のプレーオフや、テニスの女子グランドスラム大会での、大好きなクリス・エバートとマルチナ・ナブラチロワが幾度となく繰り広げた伝説の決勝戦――青春時代は、とにかくジャンルを超えてよくテレビスポーツ観戦をしていたとか。
どんな時間帯でもネット観戦もできるし、試合結果もスマホですぐに知ることができる現代とは違い、夜中にテレビにかじりつかないと観ることのできない、味わうことのできない興奮や感動が、あの時代にはあったのでしょう。
今でも、自分には縁遠い種目でも、テレビでのスポーツ観戦は大好き。「ゴルフもテニスも自分ではやらないのに、なんでそんなに観たいの? なんでそんなに夢中になれるの?」と家族に驚かれるのだとか。
今回の東京2020、チケットは申し込みませんでした。自分で実際にやらなくても、現地に行かなくても、さまざまなドラマを楽しめるスポーツ観戦。何かまた新しい種目の応援で楽しめるかしらと、時差のない来年の東京大会がちょっと楽しみなカナコさんです。
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