サヨナラの島と、ムッちゃんのこと。
みなさま、ごきげんよう。台風一家の青空とともに、あなたに秋の金風をお届けしたい、じじょうくみこでございます。諸般の事情で2か月ほどお休みしてしまいました、ご無沙汰失敬でございます。
焼き魚のおいしい季節
さてさて、東京からシマ島に移住して5年が経過しましたが、この島で5年過ごしてみてしみじみと思うことは、
思った以上にサヨナラが多い
ということでしょうか。
シマ島は外洋に浮かぶ小さな島なので、人口はもともと少ないほうです。おまけに日本の最先端をいくスーパー高齢化社会。生まれる人より亡くなる人のほうが圧倒的に多く、冬になると葬式のハシゴが当たり前という世界です。昨日まで元気に畑仕事をしていたおじいちゃんおばあちゃんが、今日には亡くなってしまうってこともよくあることです。
また全国屈指のへき地なので、役所や学校、診療所に警察署といった公共機関には先生や駐在員さんが本土から派遣されてきます。駐在さんたちは任期が決まっていますので、当然ながら任期が終われば島を出ていきます。つまりは来る人と同じ数だけお別れがあり、そのサイクルが1年に何度もくり返されます。
そして最近どうも離島ブームが起きているらしく、シマ島にも旅行者が増えてきました。リゾートホテルや観光ツアーなどがない素朴な島なので、マップ片手にウロウロしている旅人と遭遇する機会がとても多く、仲良くなって一緒に飲んだり遊んだりするのもよくある話。でも、当然ながら旅人は明日には去ってしまう人なわけで、観光シーズン中はしょっちゅう港へ見送りに行くことになります。

いやはや、この5年でいったい何十人、港で見送ったことでしょうか。まさかこんなに見送る人生になるとは思ってもみませんでした。昨日出会った人でも、やっと仲良くなった人でも、別れはいつも等しくさみしい。何度経験してもいっこうに慣れなくて、こんな思いをするならいっそ仲良くならなければよかった、と思うことすらあります。
そして、出ていく人は「またすぐ来るよ!」なんて罪なことを言うんです。本当に戻ってくる人はほとんどいないってこと、島民5年目のわたしはもう知ってしまったんだよなあ。
それよりなによりいちばん多いのが、島を出ていく島民かもしれません。学校を卒業して島を出る子どもたちは、大手を振って笑顔で送れるからまだいいの。地味にドンヨリするのが「知らないうちにいなくなっていた島民」のケース。病気の治療に行く人、離婚して出ていく人、親の介護のために実家に戻る人、子どもの進学に付き添うお母さん。
こういう人たちは誰にも言わずにひっそり島を出て、ほとんどの場合、二度と戻ってはこないのです。

シマ島人の「来るもの拒まず去るもの追わず」的な淡泊さというか距離感に、引っ越したころは(拒絶されているのかなあ…)とずいぶん悩みましたが、今はちょっと、わかってきた気がします。島の人たちはずっとこういう別れを嫌というほどくり返しているから、たぶん心の奥の深いところで
「だって、どうせいなくなっちゃうんでしょ」
と思いながら人と接しているんじゃないかなあ。

そんな風によそものに淡泊なシマ島で、ひとりだけとても地元民に慕われている移住者がいました。その人の名は、ムギタさん。大きなカラダにビア樽みたいな腹をふるふるさせ、くりっと大きな目と人なつっこい笑顔が印象的な兄さんです。
兄さんといってもわたしより1まわり以上も年下なんですが、なんともいえない愛くるしさから「ムッちゃん」と呼ばれていたその人は、わたしの少し前に奥さんと小さい娘さんを連れてシマ島に移住して、小さな居酒屋を営んでいました。シマ島には不動産屋さんがなく、島の人も他人に家を貸したがらないので、縁もゆかりもない移住者が島でお店を開くこと自体が本当に珍しいことのようでした。
ムッちゃんはなんというか、人を楽しませるために生まれてきたんじゃないかと思うほど天才的な対人スキルの持ち主でした。一度会った人の顔と名前はぜったいに忘れないし、どんな味が好きで酒の濃さはどれくらいか、ひとりひとりの好みが全部頭の中に入っています。お皿を取り換えたり、ドリンクのおかわりを聞いたりするタイミングも絶妙。
ケンカを始めた酔っ払いや、難癖つけてくる厄介な客も、ムッちゃんが間に入ると最後には肩を組んで親友になっている、みたいなミラクルを幾度となく目にしました。一緒に酔っぱらって道のど真ん中で寝ていたり、客から代金をもらい忘れる、なんてこともご愛敬。

濃厚なムラ社会の人間関係や面倒な掟もちゃんとわかっていて、率先して消防団に参加したり、島の行事にも率先して手伝ったり。ムッちゃんが宣伝部長として活躍するPRイベントはいつも大賑わいで、ムッちゃん会いたさに島へやってくる旅行者もどんどん増えていきました。
何かというと「オレ、バカだから。中退なんで」というムッちゃんですが、国内外を転々として、なかなか危ない橋もわたってきたらしい彼の話は何度聞いても面白くて新鮮な驚きがありました。何を話しても受け止めてくれるムッちゃんに何度、愚痴を聞いてもらったことか。どうやらそれはわたしだけじゃなくて、いつのまにかムッちゃんは島のリーダーたちにも頼られる存在になっていたのです。
そんなムッちゃんに異変が起きたのは、おととしの秋のことでした。

すみません、長くなってきましたので1週間後に後編を公開します〜!
text by じじょうくみこ
illustrated by カピバラ舎
*「崖のところで待ってます。」は毎月第1土曜日更新ですが、今回と次回のみ変則的な公開になっています。
じじょくみnote始めましたが滞ってます→★
kokomo
あ、あ、あー、続きが気になって仕事が手につかない!!
はしーば
つかなーい!
1週間の悶絶、ここにもいます。
じじょうくみこ Post author
>>kokomoさま
コメントありがとうございます!
引き伸ばしてもうしわけございませぬっ!
もうすぐ後編書きますので少々お待ちを〜。
>>はしーばさま
コメントありがとうございます♪
ほんとすみません! お待たせしております〜。
もうすぐ!すぐまいりますので(蕎麦屋の出前)