4月26日はカレー記念日

カレー記念日

背中痛い 言われてのみこむ 私もよ

4月26日はカレー記念日

Jane

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カレー記念日とは?

加齢を実感したら、それはカレー記念日。
抗ったり笑い飛ばしたりしながら、毎日華麗に加齢していきましょう。

あなたのカレー記念日も、教えてください。
五七五七七形式で、下の句は「○月○日はカレー記念日」なので
上の句の五七五だけ送ってね!

日付は掲載日に変えさせていただきます。

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50代、男のメガネは

これで最後だから。カフェ小景・ルノアール編1

 

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午前十一時。
新宿駅近くにある喫茶ルノアールで二人の女がテーブルの上のコーヒーと紅茶を間に挟んで話している。
コーヒーを飲んでいる女は60歳前後。さっき「私の還暦の時には」と話しているのを聞いたので、おそらくそのくらい。紅茶を飲んでいる女はそれよりも年上に見える。

私はと言えば、本当は昨晩メール添付で入稿するはずだった原稿をまだ書き上げられずに、藁をもつかむ想いで朝一からルノアールの隅っこの席に陣取って、ノートPCのキーボードの上に指をおいたまま、ああでもないこうでもないと頭の中はフル稼働で、しかし、体は身じろぎもしないままでいたのだった。

その時の原稿のテーマは世界的な貿易をやっている商社のこれからの人材戦略。アベノミクスだのリーマンショックだのデリー駐在だのといった単語を転がしながら途方に暮れていたところに、隣の席から、「じゃあ、これが最後のお金ですからね」という声がした。

お金だけでも生々しいのに、最後のお金とはどういうことだろう、と私は隣の席を盗み見る。

紅茶を飲んでいた年輩の女が「最後のお金」の声の主らしい。紅茶と言えばイギリス。イギリスと言えばエリザベス女王ということで、この女を仮にリズと呼ぶことにする。コーヒーを飲んでいる少し若い方は(といっても60は越えている)は良子だ。なんだか中野良子が身を持ち崩したような見栄えだからだ。

リズの「これが最後のお金」という言葉に良子は驚いたように目を見開くのだが、それほど驚いてはいない。驚いたふりをしているだけ、ということがすぐにわかる。なぜなら、「最後」という言葉よりも、ちゃんとお金を持ってきてくれた、という喜びの方が勝ってしまっているからだ。

「最後って、どうしてなの、奥様」
「だって、あなた。このあいだも、これでおしまいだからっていったじゃない。それなのに、僅かしか経っていないのにまたお金がだなんて」
「でも、それは、本当にいい投資なのでお知らせした方がいいかと思って」
「私は、そういうの信じてないの。本当に」
「でも、この間、ちゃんと配当が振り込まれたでしょ」
「あれだって、いらないのよ。私は投資とかそういうの全く興味がないし、この会に友達を紹介するなんてこともできないの」
「でも…」
良子の話には「でも」が多い。
「でも、本当にあやしくないのよ。あやしくなんかないの」

そこで、必要以上に微笑むから、よけいにあやしいのだ、などとアドバイスするわけにもいかず、私は隣の席で二人の会話を聞いている。

「私はね」とリズが年上の余裕を発揮しながら、話し出す。
「私はね、あなたがすることに反対するつもりはないのよ。だけどね、お金を出して、お金が増えるのを待っている、なんていうことがビジネスだとか、仕事だとか呼ぶものには私には思えないのよ。わかる、あなた」
「……でも奥様、このビジネス……この会は、あなたもご存じの中村さんもやってらして…」
「人のことはどうでもいいの。私は嫌なの。だから、これを最後にしてちょうだい」
「…わかりました。じゃあ、あれね。配当が出たらまた、」
「いりません」
「え?」
「いらないの。配当もいらないの。このお金は手切れ金なの。もうね、あなたにも関わりたくないの」
「……ごめんなさい。でも、だったらどうして最初に」
「友達だと思っていたからよっ!」

ぴしゃりとリズが言って、良子がうなだれる。

「お友達だから断るのが悪いと思ったのよ。でも、それが間違っていたんだと思うの。だから、あなたを恨んだりしてないのよ。私が反省してるの」
「……」
「だから、これでね、最後にしてちょうだい」

リズはそういうと、テーブルの上に、自分の紅茶の代金を置いて出て行く。良子はその背中を見送って、リズの背中が見えなくなると、テーブルの上の封筒を手に取る。

やがて良子は封筒の中から数枚の一万円を取り出して、数えると自分の財布にしまい込んだ。そして、立ち上がると封筒をくしゃっと丸めて、テーブルの上に置いたまま席を後にするのだった。

私のパソコンには小さな「っ」という字が画面いっぱいに並んでいた。

 

 

植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在、オフィス★イサナのクリエイティブディレクター、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京神楽坂で暮らしてます。

 

★これまでの植松さんの記事は、こちらからどうぞ。

 


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コメント、ありがとー!

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    青緑

    アベノミクスだのリーマンショックだのテリー伊藤だの(速読したらテリーかと思った)身じろぎもしないままの植松さん、こんにちは(笑)リズ&良子のお話で、お金のかかる友達は本当の友達ではないんじゃないかとふっと思いました。お金かけなくても楽しいのが本当の友達ですよ。ルノアールでそう思いながら、「っ」を押し続ける植松さん(どうしちゃったんだろう、この方さっきから停止したままじゃないの)とご婦人2人を眺め続けるアラ50青緑でありましたW(途中から想像です)

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    ami

    これは画面が「っ」でいっぱいになるくらい、コトのなりゆきを見守りたくなりますね〜

    リズさんは本当にこれが最後で、きれいさっぱり良子さんとお別れできたのでしょうか、、、?

    っっっ

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    nao

    リズ偉い!私だったらこんなにきちんと相手に話せるか自信がありません。
    リズが立ち去った後の良子の様子も、まるでドラマのようでした。
    こんなお話近くでされたら、もう耳がダンボで手元なんか上の空ですね。

    それにしても、誰が聞いているのかわからないルノアールw
    だんだん声の大きくなるお年頃なので、私も気をつけようと思いました。

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    uematsu Post author

    青緑さん
    僕の知り合いは、山のようにたくさんの友達がいます。
    でも、すごく苦労してるんですよねえ。
    何のための友人だ、と思うのですが、
    彼の結婚式はその山のようなろくでもない友人たちが集まって、
    素晴らしい式になりました。

    うーん、難しい

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    uematsu Post author

    amiさん
    あの二人は、なんだかんだと、
    まだ続いていると思います(笑)

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    uematsu Post author

    ルノアールで、でっかい電話の声も聞こえてきたりしますが、
    新宿のルノアールで「いま東京駅なんだけど」なんて、
    嘘ついてるおっちゃんとか可愛いですな。

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