まずくはない、味がない。
回転寿司屋さんへ行ったですよ。
青梅街道沿いにあるでっかい回転寿司屋さんに行ったですよ。
いやあ、驚いたですよ。
なにが驚いたって、ほんとシステムができあがってるんですよねえ。ドアを開けると、けっこう人が待っている。ありゃりゃ、これはちょっと無理かなあ、なんて思っていると、なんかマシンが置いてあって、「カウンター席優先」「テーブル席優先」なんて表示があって、それぞれに待ち時間が書いてあったりする。
そうか、10分待てば順番が回ってくるのか、ということでボタンを押して、順番待ちの番号を発券してもらう。あっという間に順番が来る。
「初めてのご利用でございますか」
「はい、そうです」
「当店のお寿司には鮮度を保つためのカバーが付いております」
「はい、なるほど」
「このようなカバーですね」
と、レジの横に置いてあるお皿とカバーのセットを見せられる。
「このカバーは、お皿を引き上げるだけで、すっと引き出せます」
「なるほど、わかりました」
「それでは、一度、お皿を取り出してください」
「えっ?ここで?」
「はい。練習してみてください」
「れ、練習。わ、わかりました」
と、お皿を引いてみると、うまいことカバーがパカッと開いて、お皿が引き出せる。
「おおっ!」
と感嘆の声を上げるのだが、お姉さんは、
「はい、ありがとうございました」
と淡々としたもの。
ということで、席に着いてからもカルチャーショックの連続。
回ってくるお寿司以外に注文すると、寿司が回ってくるレールとは別のレールを列車が走ってきて、そこに天ぷらだの茶碗蒸しが乗っている。お皿を入れるシューターがあって、5枚入れるとガチャガチャでキーホルダーがもらえる。
いやもう、本当に驚きの連続なのだけれど、一番驚いたのはその味だ。
不味くない。どう考えても不味そうなのに、不味くないのです。食べた瞬間に、「まっずいなあ」と言えると思っていたのに、言えないのだ。だって不味くないから。不味くないのなら、美味いのかと言うことにあるのだが、そうでもない。
味がないのだ。
味がないのですよ。不味くないけど、味がない。これが正直な感想。いくら無添加で、身体に悪くないと言われても、味がないのは気持ちが悪い。なんなら、不味いっ!と吐き捨てられるくらいのほうが、いっそ気持ちがいい。
サービスだって、サービスが悪いということじゃない。サービスがないのである。味がない、サービスがない、というまるで無菌の工場のベルトコンベアに組み込まれたような感覚。そこで何十組という家族連れが楽しそうに食事をしている。
人それぞれ、という話ではない気がする。ここで食べてはいけない、という信号のようなものが力強く送られてくる。ここで食事をするくらいなら、家で家族と笑いながらインスタントラーメンを食べているほうがよっぽどマシだと思う。「インスタントは身体に悪いね」と言いながら、笑って食べるインスタントラーメンのほうが幸せの味になり得ると思う。
植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在、オフィス★イサナのクリエイティブディレクター、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京神楽坂で暮らしてます。
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