正しく出会う。映画『ショート・ターム』を見て。
『ショート・ターム』という映画を見ました。18歳以下の子どもたちを預かる施設の話。いろんな事情で親と暮らせない子どもたちが集まっている施設の中で、いろんな出来事が起こる。子どもたちの世話をしている大人たちにもいろんな事情があり、いろんな出来事が起こる。
今回はこの映画を見ていて、ふいに「人と人とが出会うということなんだな」と思ったという話。
施設の子どもたちの中には、親から虐待をうけている子どもがいる。描写はないけれど親がいない子だっているだろう。いるけれど捨てられた子がいるかもしれない。世話をしている主人公の女性は子どものころ親から性的虐待までうけていた。その恋人は天涯孤独な子どもだった。
いろんな人がいる。いろんな境遇の人がいる。それはもうどうしようもない。抗いようもない。幸せな人がいて、不幸な人がいる。それもどうしようもない。だけど、どんな人と出会うかということで、人は変化する。必ずしもいい方向へいかないかもしれないけれど、変化はする。
目を閉じて耳を塞いでいると変化は起きない。起きたとしても時間がかかる。もしかしたら、なんの変化もない年月を過ごさなければならないかもしれない。それでよければ、それでいい。だけど、人間は変化を受け入れなければ生きていけないんじゃないかと、僕は感じ始めている。
これは僕の主観的なものだけれど、もしも、それが正しいとしたら、人と出会うしかない。そして、人と出会うためには目を開いて耳を澄ますしかない。そうしないと、正しく出会えない。
『ショート・ターム』という映画を見ていて、「正しく出会う」という言葉が浮かんできたのだった。
きっと、互いにいい人で、間違っていないのに、その二人が出会ったことで、なんらかの不幸が起きる。そんなことがある。きっと。
逆に、誰が見ても出会ってはいけなかった二人なのに、その二人が出会うことで奇跡のような幸福が訪れる。そんなことがある。きっと。
その正しさを判断できるのは、神様なのか。いや、もしかしたら、正しく出会いたいと願う自分自身なのか。誠実に生きていると、その判断ができるようになるのか。もしかしたら、誠実に生きていこうとする努力に神様が答えてくれるのか。
年末年始とお盆と法事の時にしか、神様だとか仏様だとか考えない僕が、この映画を見ている間中、そんなことをずっと考えていた。
残念ながら、人はいつも正しく出会うとは限らない。うまくやれると思ったはずなのに、うまく行かなくなることはきっとある。だけど、それは当たり前のことだし、そのことを悔やんでもしかたがない。ただ、その時に嘘をついちゃいけない。ということなんじゃないだろうか。
正しい出会い、というものが世の中にあって、正しく出会うことが大切なのだとしたら、かりに、正しくない出会いをしてしまったら、または、正しい出会いが、正しい時期を経て、終焉を迎えるのであれば、その時に、嘘をつかずに「きちんと終わらせる」という努力をすればいいのだろうか。
この話は、例えば、結婚生活とかそういうものに対して、何か言いたくて暗示的な文章を書いているわけではない。漠然と降りてきたことを書いているだけなので、とてもまとまりがなくて、自分でも気持ちが悪い。
だけど、ずっとこれに似たことを考え続けてきたような気がして、その尻尾のようなものが、『ショート・ターム』という映画を見ていて目の前にぶら下がったような、そんな気分。
恋愛にしても、仕事上の出会いにしても、いま目の前の状況を「正しくない」と感じたら、損得ではなく、ましてはメンツでもなく、素直に気持ちで対処しないと、きっと自分自身に傷が残るのだろうな、と思う。そして、自分を傷つけないように、そんな状況に対処しようと思ったら、おそらく必要以上に周囲を傷つけることになるのだろう。
だから、生きていくことは難しい。難しいからこそ、次の出会いが必要になる。そこからしか、新しい仕事も、新しい暮らしも生まれない。
『ショート・ターム』という映画で、自閉症気味な子どもが大好きな人形をセラピストに封印された後、しばらく落ちこむ。その後、しばらくして、アメリカ国旗をマントにして、施設の芝生の上を奇声を発しながら笑ってかけていく。
ああ、生きるということは、こういうことなのかもしれない。そんな気がした。
植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在、オフィス★イサナのクリエイティブディレクター、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京神楽坂で暮らしてます。
★これまでの植松さんの記事は、こちらからどうぞ。
小関祥子
「ショート・ターム」わたしも見ましたけど、ふしぎな後味の映画でした。
人と会うのもそうですが、生きてること自体が化学変化の連続なんだな~と
植松さんの文章を読みながら思いました。
あと「ショート・ターム」は5月2日~8日まで、高田馬場の名画座「早稲田松竹」で
かかりますね。
http://www.wasedashochiku.co.jp/lineup/schedule.html
uematsu Post author
小関さん
僕はこないだ飯田橋のギンレイホールでみました。
地味な映画ですが、良い映画でしたね。
関わっている映画の学校の学生には、
本当はこういう映画をどんどん見て欲しいのですが、
なかなか機会がないようです。