小津安二郎を観ながら泣く。
原節子さんが亡くなったというニュースが駆けめぐった後、テレビではNHKを中心に小津安二郎作品が何本か放送され、松竹は映画館で『東京物語』などを上映しましたね。
僕は小津作品が好きなので、年に何回か『東京物語』や大好きな『お早う』を観るのですが、決して泣くことはなかったんです。というか、『東京物語』のすごさは泣けないというところにあると僕は思っていて、山田洋次監督がリメイクした『東京家族』の安易な演出には辟易としたものです。
ところが、原節子さんが亡くなってから小津作品を観ていると、妙に泣けてくるんです。といっても、作品のストーリーとかそう言う部分じゃなくて、そこに原節子がいる、というだけで泣けてくる。
最初、「さすがに、原節子が亡くなったことにショックを受けているのか」と思ったのですが、どうもそれも違う。小津さん、原さんといった存在は僕にとってはやっぱり後追いの人たちだからなのか、ショックはショックなのだけれど、泣くところまではいかない。
で、こないだ『東京物語』を観ていて気づいたんです。原節子さんに対する喪失感ではなく、あの映画の中に存在する人物像のような物に対する喪失感なんじゃないかって。
特に、香川京子さんが、姉の杉村春子さんのわがままな「ねえ、お母さんの着物、あれ形見にちょうだい。用意しといてね」というような発言に「はい」と素直に答える場面。あれです。いくら姉妹でも姉に対してはちゃんと敬語で受け答えする。そんな人、いまいないですよね。女性だけじゃなく、男性でも。
学校で学生と話していても、こちらからの呼びかけに「ふぇ~い」なんて、意味不明は返事をするのが本当に増えました。ちゃんと「はい」と答えられない。こちらが質問しても「なんすか」としか返事が出来ない。
いいんです。別に。世のなかそんな感じになっちゃったんだから。でもね、やっぱり、小津映画とか観てると、ちゃんと目上の人に対して「はい」と答えられないのか、と思ってしまうんです。
「ねえ、ちょっとこっちへおいでよ」
「なに、どうなさったの、お父さん」
なんて、答えないですもんね。
「こっちおいで」
「なに?なんなん?」
くらいなもんですよね、いまどき。
百歩譲って、家の中はいいんです。だけど、学校とか会社とか、そう言う場所ではシャキッとした受け答えができないものか、と思うんですが、そう書いていて、「家の中はいいんです」ってとこがいけないのか、と思い至りました。
家で敬語までは使わなくても、親が言ったことに対して、ちゃんと「はい」と答えるくらいにはしつけないと、外に出たときに困るんだなと。
小津作品に出てきていたような登場人物って、観ているだけでなんだか上品でホッとするじゃないですか。ということは、僕らの住む日本って、なんだか下品な国になっちゃったのかなあ、なんて。そんな気持ちが、ちょっと気持ちを弱らせるのかなあ。
とりあえず、この年末年始は人からの問いかけに、まず「はい」と自分が答えるところから始めようかな、と。そうやって、少しずつ自分自身をシャキッとするところから、2016年を始めてみます。この1年、読んでくださってありがとうございます。
あ、そうだ。みなさん、この年末年始、機会があれば、小津安二郎監督の『お早よう』っていう作品を観てみてください。AppleのiTunesでもレンタルしてると思いますから。原節子は出てこないけど、親子関係のとても楽しい映画なんです。きっとお正月にぴったりですよ。
では、また、来年。
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植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在、神楽坂にあるオフィス★イサナのクリエイティブディレクター、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京の千駄木で暮らしてます。
★これまでの植松さんの記事は、こちらからどうぞ。
okosama
uematsuさん、こんばんは。
「お早う」。早速見ました。
楽しかったです!ネタバレになるので色々書けませんが、ひとつだけ。
弟、可愛いいっ!
上手く言えませんが、丁寧な言葉で交わされる親しさの距離感がuematsuさんのお好みなのでしょうか。今は大人と子どもの距離が近いですものね。
こちらが丁寧な言葉遣いを根気良く続けていると、若い人もだんだん丁寧な言葉遣いになってくる(場合もある)ような気がします。
また、良い映画をご紹介下さい。
あ、そうだ。楽しい映画のお礼に、今日ラジオで聞いたクリスマスの曲をご紹介します。
ご存知かもしれませんが、大瀧詠一さんの「クリスマス音頭」。
では良い年末年始を過ごし下さい。
uematsu Post author
okosamaさん
さっそく『お早う』をみていただいてありがとうございます。
小津作品のなかではあまり話題に上らないものですが、
僕はこの何気ない親子のやり取りが大好きで、
年に1度は見返してしまう作品です。
わがままを言う兄弟と、それを温かく見守る両親や近所の大人たち。
だからといって、極端に厳しくするわけでもないし、
なんでも許すわけでもない。
そんな中庸なありかたが、人としてのちょうどよさなのかな、と。
そんな気がしてしまいます。
大瀧詠一さんの『クリスマス音頭』、
コメントで久しぶりに思い出して、聞いてみました。
懐かしい。
そういえば、僕はクリスマスソングといえば、
というものがあまり決まっていない気がします。
あんまり、ど真ん中なものは恥ずかしいし、
すかしたクリスマスソングも嫌だしなあ。
これからは「クリスマス音頭」で行こうかな。
アメちゃん
「お早う」
大好きな映画です!
okosamaさんがおっしゃるように、弟可愛いですよね(おなら・・)。
子どもがちゃんと子どもらしく、大人も節度があって
それぞれが馴れ合いでなく、で、ゆとりもあって良い世界だなぁとおもいます。
それはやっぱり、丁寧な言葉遣いだからなのかなとも思います。
家庭教師?の佐田啓二が
「一見ムダに見えるようなことが、社会の潤滑油になってる、、」
みたいなことを話してたのが、印象的でした。
「東京物語」も好きな映画ですが、辛くて号泣するので私は観られませんTT。
熱海の海岸で、夕日を見ながら
「そろそろ帰りましょうか」というシーン(たしか、ありますよね)。
とても切ないですね。
ということで。
私も、uematsuさんへクリスマスプレゼントを。
「マイケルジャクソン・スリラーのスーダラ節バージョン」
ごぞんじかもしれませんし、クリスマスソングでもないですけどどうぞ。
それでは、メリークリスマス&良いお年を。
uematsu Post author
アメちゃんさん
「お早よう」の面白さって、
子供の頃に見たホームドラマのような良質さですよね。
そこに、隣近所の人たちの一瞬の疑いとかが半端なく入ってきて、
意外に残酷な人間性の片鱗があって、かなりドキドキもします(笑)。
プレゼントの「マイケル版スーダラ節」、見ました。
いやもう、ほんと、マイケルってすごいなあと思い、
スーダラ節ってすごいなあと思い、
そして、こんなの作る素人のパワーって
本当にすごいなあと、楽しみました(笑)。
ありがとうございます。
メリークリスマス!