師走でござる。
子どものころ、「12月って、なんで師走って言うの」なんて大人に聞いたりした記憶がある。いやいや、いまではこんなにひねた顔をしたおっさんにはなったけれど、「なんで師走って言うの」なんてかわいい顔して聞いていたのさ、きっと僕もあなたも、昨日町ですれ違ったやさぐれたソフトヤンキー風の兄ちゃんも、「うるせえよ」なんて雑な言葉をまき散らすキャバクラ勤め風のお姉ちゃんも、きっとね。
先生も走るほど忙しい12月。といくら説明されても、学校で走っているのは体育の先生くらいで、大人たちの説明に「おかしいな」なんて、こんな僕でも子どもの頃にはかわいく小首かしげて言ってたのだよ、いやほんとに。きっと、僕もあなたも…もういいか。
先生は置いておいても、さすがに12月というのは気分が焦る。やはり大晦日三が日くらいは家族とゆっくり仕事のことなどなんにも考えずにぼんやりとすごしたいぜ、と思っているからだろうか。だとしたら、年内にいろんな仕事に片をつけて、さらにできれば、その支払いのやりとりもしっかりとしていただいて、心の面でも経済の面でも安心してコタツに入りたい、という心理が、12月の焦燥感を煽るのかもしれないなあ、と思ったりする。
まあ、そうは言いながらそんなことを考えているってことは、そうそう追い詰められちゃいないんだな、ということで、お江戸から浪速へ今年最後の出張をした。育ててもらった恩返しにということで始めた映画の学校でのゼミ。映像作家ゼミというちょっと仰々しいゼミではあるのだけれど、これは決して作家先生を育てるゼミではないのであります。どんな現場に行っても、大切なのは自分の視線を持つこと、たとえば就活の際に採用する企業は「作家はいりません」と言うのだけれど、それは「ボカぁね、企業の案内ビデオを撮るためにこの業界に入ったんじゃねえんです!」なんて気持ちが透けて見える奴の話。
大切なのは作家として作品を作った経験と、技術的な知識を併せ持って、たとえばカメラマンが「う~ん、どんな絵が良いだろう」と悩んでいるときに、自分の意見が言えたり、カメラマンがどこに悩んでいるかがわかる人材を育てることだと思うのでありますよ。そうすると、このゼミはなかなかに意義深いゼミでありまして、一人一人のゼミ生に正面からぶつからなければならない、そこそこ体力を使うゼミになっているのである。ほんと、このゼミをまじめにやれば、業界で立派にやっていける人材になると思う。
最後の浪速出張は、このゼミ生の作品をことごとくチェックしていくという仕事。そうは言いながら、若い学生なので、それぞれの都合で待ちぼうけを食わされたり、同じ時間に数人の学生が固まって作品を持ってきたり。ふうふう言いながら、作品のチェックをする。で、こちらは大人なので、チェックの合間に、お世話になった人に挨拶をしたり、生活のかかった仕事の電話で吠えたりすかしたりなだめたり懇願したり。そんなこんなで次第にあっという間に最後の浪速出張は二日目を終え、浪速最後の忘年会に出席する時間となる。
そろそろ、学校を出なきゃと思っていると仕事のトラブルが発生。そいつを乗り越えると、今度は学生の作品で見忘れていたものがあって、その帳尻合わせ。やばい、ほんとうに行かなきゃ。そう思って振り返ると「あ、先生、お久しぶりです、前に見ていただいたシナリオなんですが」と声をかけられ、焦りを隠して立ち止まり、「おお、がんばってるね」なんて応えてしばし歓談、学生が立ち去ったら、再び小走りで玄関口へ。そこで、さらに別の先生に出会い「今年はこれで最後だと思いますので、良いお年を」なんて声をかけ、さらにしばし歓談。いかん、もう間に合わん、と別れの言葉もそこそこに、今度は本当に走り出し、ああ、これが師走かと、タクシーに飛び乗る師走の夕まぐれである。
追伸・もちろん、師走らしくタクシーは道に迷い、宴会場近くで降りた僕はさらにそこから走ることになったのである。
植松さんとデザイナーのヤブウチさんがラインスタンプを作りました。
ネコのマロンとは?→★
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クリエイターズスタンプのところで、検索した方がはやいかも。
そして、こちらが「ネコのマロン、参院選に立つ。」のサイト
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植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在、神楽坂にあるオフィス★イサナのクリエイティブディレクター、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京の千駄木で暮らしてます。
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