コールセンターから、ひょっこり、いい人。
事務所で新しいパソコンのモニターを買う必要があって、あるメーカーのホームページからダイレクトに購入手続きを取ったのであった。
ふと見ると、金利手数料無料で分割払いができると書いてある。まあ、予期せぬ買い物だったので、お金の出入りに波風を立てなくてすむのなら、それに越したことはない。というわけで、僕は迷わずにショッピングローンを購入手続きとともに申し込んだのである。
ところ、ローン会社に送った申し込み内容と、パソコンメーカーに送った申し込み内容に差異があり、手続きが止まっている、というメールが入った。
おそらく、電話番号がどちらも自宅のものになっているとか、事務所の部屋番号の表記が「●●号室」になっているか「●●号」になっているか、という小さなミスだと思う。思うのだが、そのあたり融通が利かないので、僕はとりあえず、パソコンメーカーに電話をしてみた。すると、答えはこうだ。
「確かに差異があったということが原因だと思われます。大変お手数ですがもう一度お手続きをお願いしたいのですが」
そう言われて、僕は「また間違えるかも」という弱音を吐いた。電話口のコールセンターのお姉さんにだ。すると、お姉さんは「では、ワタクシのほうで、植松さんに見積書をお出しします。そこに書いてある住所、電話番号をローン会社さんの申し込み画面に入力していただければ、間違いは起こらないと思いますので」とのこと。なんとできたお姉さんじゃないか。
もともと僕は細かな作業が苦手なので、助かった、と思いながら、お姉さんの書いてくれた見積書を見ながら入力していったのである。しかし、僕はミスった。送信ボタンを押してから、「あ」と小さく叫んだ。そうだった。一カ所、お姉さんの見積書を無視して、書きこんだ電話番号が間違っていた。本来、お姉さんが書いてくれた見積書と全く同じように書けば良かったのに、もう一つある、別の番号を書き込んでしまった。元の木阿弥だ。これで、パソコンメーカーの書類とローン会社の書類に差異が生まれてしまった。自ら、差異を呼び込んでしまったのだった。
仕方がない。僕はコールセンターのお姉さんにメールをして、素直に自ら差異を作ってしまったことを詫び、ローン会社に連絡を入れて、もう一度入力できるようにしてほしいとお願いした。お姉さんはすぐに手続きをしてくれたのだった。そして、メールをくれるだけではなく電話をしてくれたのだった。
いやいや、そこまでしてくれなくていいのに、と僕は思ったのだが、意外にも電話の向こうで、お姉さんは深刻な声で謝るのだった。
「お客様。実は、お客様が電話番号の入力を間違えられる前から、この案件、私どものミスが発覚しておりまして」と、いうのだ。流れとしては以下のとおり。
実はローン会社と提携して、金利0%のキャンペーンをやっているのだけれど、渡された受注番号で申し込むと、金利がかかってしまうという設定になっていたのだという。ローン会社のシステム上のミスだということだが、僕が間違う前から、別の受注番号に変えなければいけなかったのだそうだ。
しかし、よくよく考えれば、そんな状況の中、僕がミスをして新しい受注ナンバーに変えるのであれば、「ラッキー」てなもんである。「こちらにミスがありまして」と言わなくても、「謝ろうと思っていたのに、向こうがタイミング良くミスってくれたよ。ラッキー」でも、いいのである。こっちには何にもわからない。
なのに、コールセンターのお姉さんは、わざわざ電話をかけてきて、自らのミス、といってもお姉さんのミスではなくシステム上のミスなんだけれども、そのミスをきちんと告げて謝ってくれたのである。
その時、お姉さんは「黙っている訳にはいきませんので、お忙しいところ、お電話入れさせていただきました」と言ってくれたのだが、これが自分なら、おそらく黙っていたような気がして、なんだかお姉さんに「すみません」と謝りたくなるように気持ちになってしまったのだった。
不思議なもので、僕は好きでも嫌いでもなかった、そのパソコンメーカーが好きになった。言わなくてもわからないミスを、わざわざ電話してきたのがそのメーカーの姿勢なのか、そのお姉さんの姿勢なのかはわからない。わからないけれども、一人でもそういう人がいるところなら、応援したみたい気持ちになる。
でもね、この人はパソコンメーカーの人じゃないんだよ。この人はおそらく派遣会社から派遣されているコールセンターの人であって、パソコンメーカーの人じゃないんだよ。悔しいなあ。
本当なら、こういう人が誠実に仕事をして、そのイメージが働いている会社のイメージと重なって、ああ、働くって、本来こういうことなんだなあ、と思いたい。思いたいんだけども、なんだろう、この社会の仕組みの変化による、すっきりしない気持ちは…。
これからますます、こんなすっきりしない気持ちを味わうことが多いんだろうな、と思う。そして、自分で作って、自分で売って、自分でアフターフォローをして、自分で次のことを考えるという方向に、自分の未来を夢見る人も増えるんだろうな、という気もする。僕も実はそんな一人なんだけれども、いかんせん、自分一人で何かができる気が全くしない気弱な奴なのでございます。奴なのでございますが、やっぱりこのままじゃダメだとこんな僕でも思う。
嘘を吐かない。誠実に仕事をする。ということを日々心に刻みながら、どうすりゃみんなが幸せになれるんだろうなあ、という手に負えないほど大きなことも考え続けないといけないんだろうなあと、コールセンターのお姉さんの対応に胸を打たれて考えた夏の夕暮れでございました。
植松さんとデザイナーのヤブウチさんがラインスタンプを作りました。
ネコのマロンとは?→★
「ネコのマロン」販売サイト
https://store.line.me/stickershop/product/1150262/ja
クリエイターズスタンプのところで、検索した方がはやいかも。
そして、こちらが「ネコのマロン、参院選に立つ。」のサイト
http://www.isana-ad.com/maron/pc/
植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在、神楽坂にあるオフィス★イサナのクリエイティブディレクター、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京の千駄木で暮らしてます。
★これまでの植松さんの記事は、こちらからどうぞ。
perako
植松さん、いい話ですね。 受注ナンバーの件、先方からきちんとお知らせいただけるなんて。
派遣社員の方かもしれないけれど、派遣社員の方にはそんな裁量はないから、きっとその会社のポリシーなんだと思います。
それプラス、お姉さんの資質だと思います。いいお仕事していますね。そういう方を応援したい。
私も以前F通さんのヘルプセンターに電話した時、男性のオペレーターの方の応対に感動したことがありました。いい印象は今でも残っています。
私もそうい対応がいつでもできるようになりたいな、って自分を振り返っちゃいました。
明日の仕事、がんばろう!
uematsu Post author
perakoさん
ほんと、仕事頑張ろうって思いますよね。
どこにでも、そういう人はいるんでしょうけど、派遣社員が増えて、センションごとのコミュニケーションが取れていなかったりすると、結局、そういう良さが表に出てこない、ということもあるのかもしれません。
でも、こういうことがあると、「捨てたもんじゃないなあ」とおもいますよね。