風情のある静かな喫茶店。
いきつけの喫茶店がある。
枯れた佇まいはしているが、それほど古い喫茶店ではない。十数年前に出来て、マスターと奥さんがこつこつと仕事をして、こつこつとお客を増やしてきた喫茶店である。
最近は雑誌でこの地域の特集が組まれると、必ず地元で愛される喫茶店として掲載されるようになった。それでも、あんまりスケベ心は出さずにこつこつコーヒーが淹れられ続け、その香りで満たされた店内は、僕のざわつきやすい気持ちをいつも穏やかにしてくれる。
近頃、さすがに土日は混むようになったが、平日はそれほどでもない。混んでいる喫茶店が苦手なので、僕は平日にしか行かないようにしている。そして、コーヒーを一杯か二杯。ほんの少し仕事をして、たくさん本を読み、そしてまた少し何か書く。その間に、やってくるお客さんは少ないと一人か二人、多くても五人か六人ほどだ。
さて、今日も本を読んでいたのである。そこへ、年配の男性が二人入ってきたのである。
「昔、このあたりに住んでてね。懐かしく屋散歩に来ちゃったんだよ」
と、一人がマスターに話しかけながら入ってきた。「だいぶこのあたりも変わったでしょ」
マスターが答えると、
「そうだね。でも、この店は静かだ」
と続ける。
「風情があるねえ」
もう一人が大きな声でそう言う。
「ほんとうだね、静かだねえ」
最初に話しかけてきたほうが言う。
「良い雰囲気だよ。静かで」
二人同時に感心したように言う。
「それにしても静かでいいね」
「うん、風情がある」
「確かに静かだ」
「うん、静かだ」
と、この後、二人の年配の男性は約一時間ほど店にいたのだが、その間、ずっと「静かだ」と「風情がある」ということを言い続けた。
この二人の言うことは正しい。この店はとても静かで風情がある。そして、そのことに感心している男性二人によって、その風情と静寂は見事に打ち破られているのだが、そのことに当人たちは気付いていない。
「おいしかった」
「うん。静かでよかった」
「そうだな」
「そうだそうだ」
という言葉を残して、二人は店を後にするのだった。
店はこんどこそ本物の静けさを手に入れる。
植松さんとデザイナーのヤブウチさんがラインスタンプを作りました。
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植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在、神楽坂にあるオフィス★イサナのクリエイティブディレクター、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京の千駄木で暮らしてます。
★これまでの植松さんの記事は、こちらからどうぞ。
はしーば
人は高齢になると性別の特徴が男女逆転することがあるような気がします。
古い東北人気質の父は、兎に角頑固で無口な人でした。
それが、80を越えたあたりから、顔つきはおばあさんになり、急におしゃべりになりました。
喫茶店のお二人も、もしかしたら、歳をとってかしまし娘になったのかも?
uematsu Post author
はしーばさん
なんとなくわかります。
頑固にしてても楽しいことなんてない、
とか、急に気付くんでしょうか?
でも、ぶすっとしてるより、
楽しそうに話してる方がいいですよね(笑)