チェロを弾く
こう見えて、チェロを習っていたことがある。えっ!?チェロ?とみんなが言うのだけれど、本当だから仕方がない。娘が小学生の頃に「バイオリンを習う」と言い出した時、「じゃ、俺はチェロ!」と軽い気持ちで始めてしまったのだ。
ヤマハのサイレントチェロを買い、大人の音楽教室にも通い始めた。楽しかった。まったくもっとうまくはならないのだけれど、とても面白かった。当時、30代の終わり頃。自分の会社をやり始めて10年くらいたっていて、さすがに社員から叱られることはない。取引先からも、そこそこのベテラン扱いされていたので、間違いなどを指摘されるようなこともほとんど無くなっていたのだ。
だからこそ、先生に習い、少しずつでも弾き方を覚えていくような感覚が、とても楽しかったのだと思う。練習すれば練習するほど、弾けなかったフレーズが少し弾けるようになる。巧く弾ければ先生が誉めてくれるし、駄目なら叱られる。そこが、素直に嬉しかったのだと思う。
仕事が忙しくなりすぎて、チェロを辞めなければならなくなった時は、本当に寂しかった。当時、20万円ほどの安いアコースティックのチェロを買った。安いといっても、僕にとってはかなり高い買い物だ。そのチェロは、当時チェロを習っていた先生に預かってもらっている。他の生徒に教える時に使って下さい、ということで預かってもらっているのだ。
毎年、このくらいの季節になると、先生に預けているチェロのことを思い出す。そして、もう一度チェロを弾きたくてたまらなくなる。いやもう、ほとんど覚えていないし、まったく弾けないのだろうけれど、もう一度、チェロを習いたい。それだけ、何かを習い、自分が出来ないということを思い知らされることが心地よかったのだと思う。発表会は苦手だけれど、何度も何度もくり返し練習することは楽しい。
いま仕事で学生に映画を教えていたりするけれど、彼らは繰り返し同じ事をするのが苦手だ。ひとつのテーマを掘り下げることもしない。やっぱりあれだろうか、反復練習ばかりさせるのではなく、討論会などで自分の意見を育むということが大事なのだ、という時代になったからだろうか。
でも、中途半端なディベートが得意な若者を育てたところで、何の意味があるんだろう。口下手でも、同じ事を何度でくり返し、そこから新しいものを見つけ出すような若者こそが、次の時代を切り拓いていきそうな気がするのに。
もしかしたら、そんな学生たちと日々接しているから、余計にチェロを習いたくなるのだろうか。なんとなく、そんな気がしてきたなあ。ここしばらく、こちらの挑発に全くのってこない学生にがっかりしているからだと思う。よし、チェロをもう一度始めよう。そうしよう。
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植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在は、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師も務める。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京の千駄木で暮らしてます。サイト:オフィス★イサナ
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