言葉は通じている。話は通じているか?
この間、小説を読んでいたら、こんなフレーズが出てきた。
「言葉は通じているのに、話が通じていない、と思うことがよくあるんです」
読んだときには、ああ、なるほど、うまいことを言うな、と思っていたのだが、時間が経つにつれて、「本当だ。話が通じていない」と瞬間が多くなり、しばらくの間、このことばかりを考えるようになってしまった。
少し前に書いたのだけれど、ここしばらく同じ年頃の、つまり、人生にくたびれて人のせいにばかりする同僚たちとは、毎日のように会話をしているのだけれど、話が通じているという実感がない。いくら話しても、いくら会話を重ねても、言葉がキャッチボールされるばかりで、肝心の内容が伝わっているような気がしないのだ。
といっても、「これを持っていってください」「はい、持って行きます」という会話は成立している。そして、「これを持って行く理由は、後の人が迷惑しないようにですよ」という意図もちゃんと伝わっている。
それなのに、いま交わされた会話の温度というか緊張感というか、そういうものがしっかりとやり取りできたという実感がない。
そんな時に、教師が教師をいじめていた、という報道番組を見たのだ。どう見たって、いじめじゃないか、と、激辛カレーを食べさせている動画をみた僕たちは思う。しかし、それを実行していた女帝と呼ばれる女教師は「自分の行動が間違っていることに気づかず、彼が苦しんでいる姿を見ることは、かわいがってきただけに本当につらいです」という謝罪文を出した。
間違っていた。気付かなかった。苦しんでいたのか。可愛がっていたつもりなのに。辛いです。
なんだ、この文章。こんな文章を書く人間と話が通じるわけがない。と思った瞬間に、いじめとかそういう問題は別として、世の中にはいくら話しても、言葉は通じても話が通じない人間というのがいるのだという事実に行き当たってしまう。
それは仕事をしていても感じることがあるし、学校で学生と対応していても感じることがある。つまり、言葉はツールなのだ。言葉には言霊があり、軽はずみに口にしてはいけない言葉がたくさんあるのだ、ということは分かりながらも、やはり言葉は道具としての大きな意味合いを持っている。だとすると、いくら道具をたくさん持っていても、道具をうまく操るトレーニングをしても、話が通じることが決してないという人たちが世の中には存在するのだ。
そう考えると、言葉なんてほとんど使わなくても、話が通じるという相手もいる。多少、言葉が足りなくても、多少言葉を間違えても、ちゃんと話が通じる相手だって、世の中はたくさんいる。
しかし、その線引きは、「そんな人もいる」と放置しておいていいものではない。また、話が通じていると思いながら、実は通じていないとなると、どこかで大きな間違いが起きる可能性だってある。
さあ、どうするか、ということになる。僕にはまだちゃんとした答えが見えない。見えないけれど、なにか解決策があるという気がする。その第一歩は、きっと、『自分のことだけを考えない』ということのような気がする。実はたったそれだけのことで、話が通じなくなっているのではないか、という気がするのだ。
別に、博愛主義で、みんなのために生きろとか、自分のことは後回しにしろ言っているわけではない。身勝手に、自分のことばかり考えて、自分の利益だけを考えて仕事をすることだってあるだろう。でも、そんな時に、開き直ったらお終いだと思うのだ。
身勝手な行動をした後に、身勝手な言動をしたあとに、「世間様には申し訳ないけれど」と思える人となら話が通じる気がする。
若い学生を見ていても、同年代の馬鹿な同僚を見ていても、そして、年上のだらしのない人たちを見ていても思うのだが、開き直っちゃお終いだ。そして、ここしばらくの間、僕の身の回りで、「ああ、こいつは大嫌いだ」とか「こいつは馬鹿だ」と思うほとんどの人たちが開き直っている。出来なくてあがいている、うまくいかなくて苦しんでいる人たちとはきっと話は通じる。でも、開き直った奴らとは、絶対に話が通じない。
この国も話の通じないえらい人たちがたくさんいる。ほら、彼らも開き直っている。こんな話の通じない奴らが上に立ったときの民主主義は本当にややこしい。
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植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在は、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師も務める。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京の千駄木で暮らしてます。サイト:オフィス★イサナ
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