ものづくりと恋愛
母校である映画の学校で講師をし始めてから8年ほど経った。
東北の震災があり、直後に大きな病気が見つかり手術をした年だったので、良く覚えている。まだ10年も経っていないのか、という感覚が近い。卒業してすぐに2年ほど講師をしていたので、なんだかずっとやっていたような気持ちにもなってしまう。
僕が学んでいた頃には、学生のほとんどは男だったので、何にも気を遣わない荒い雰囲気だった。当時の撮影所やテレビ制作の現場がそうだったので、それを反映したムードが学校にも蔓延していたような気がする。しかし、今は学生も男女比が半々で、年によっては女子の方が多かったりもする。そして、昔のように是が非でも監督をやりたい、という学生が減り、「卒業してもずっとアシスタントがいい」と真剣に語る学生が増えた。
いまどき、学生時代から学校だけではなく家に帰ってからもSNSを中心とした人間関係に悩まされているからか、とにかく揉め事に巻き込まれたくない、という気持ちが強いらしい。巻き込まれないための一番の秘訣は、自分をしっかりと持つことだと思うのだけれど、無難に毎日を過ごすことがプライオリティの第一位になっているようだ。
だからだろうか、学校の中でも作品づくりよりも人間関係に寄り添ってしまう学生が多い。「あいつは嫌なヤツだが、作る作品が面白いので手伝っている」という関係はほぼない。「あの子はいい子なので手伝ってみたい」「ずっと一緒にやってきたので、これからもずっと一緒にやりたい」という声を良く聞く。
そうなると、学生同士で組む現場にも、恋人同士が小さな現場に二組いたりする。もちろん、安定した夫婦漫才でもあるまいし、学生同士の恋愛が安定しているわけがない。仲良くなったりケンカをしたり、時には別れたり、また別のと引っ付いたいり。そんな現場で作品プライオリティが第1位になるなるわけもなく、どんどんと作品がぐだぐだになっていく。
僕が学生の頃にも、先輩の現場に応援に行き、監督が女優に手を出した途端に、現場が巧く回らなくなる、という経験を何度かした。そう考えるとものづくりと恋愛は、よほどの天才でもない限り折り合わないのかもしれない。もちろん、ジョン・レノンがヨーコに見事なラブソングを捧げたように、ゴダールがアンナ・カリーナをミューズとして作品を作り上げたように、恋愛をものづくりに昇華できる天才もいる。いるけれど、それはもともと音楽や映画に非凡な才能を持っているからだという気がする。
僕にはものづくりの非凡な才能はないと思う。コピーライターとしてそこに必要とされている言葉を提示することはできると思う。自分自身の日記映画を作り上げることもできる。でも、非凡だというほどでもないと多少照れながら言わなければいけない程度だと思う。ただ、10年近く学生を見ていると、作品を作り上げられる学生と、途中でへたってしまう学生の違いは分かるようになってきた。それは恋愛を後回しにできるかどうか、ということだ。恋愛って、若い頃の欲望が一番わかりやすい形で見えるものなのかもしれない。だからこそ、それを後回しにできるかどうかが重要なのだろう。
まあ、それで恋愛のひとつやふたつをダメにすることもあるのだろうが、それでダメになる恋愛なんて最初から捨ててしまえ、と今になると思うのだが、若いうちは必死である。なにしろ、この人しかいないと真剣に思っているのだから。それでも、その瞬間、ものづくりを優先させることができる人間にしか、ものづくりの神様は微笑まないのかもしれない。
さて、今年も教えているゼミの学生たちが最後の追い込みをしている。毎年、ラスト1週間になって急に「ああ、そうか。お前はこういうやつだったのか」と驚かされる学生が現れたりする。「もっと前に気付いてやれれば、もっと面白い作品を撮らせることができたのに」と思うし、「お前ももっと前から必死になれよ」と思う。逆に、やれるはずの学生が恋人やSNSに逃げ込んで、作品を失速させてしまい、とんでもなく駄作を作り上げたりもする。
時間が足りない、と嘆く学生も多けれど、そういうヤツほど、あと1年間学生生活が続いても、きっと何もつくれない。自分が頑張った分だけ、いい画が撮れて、良い作品になる、というような甘い世界ではないけれど、せめて頑張りが無駄にならないように最後のとりまとめを見守ってやりたい。
植松さんとデザイナーのヤブウチさんがラインスタンプを作りました。
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植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在は、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師も務める。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京の千駄木で暮らしてます。サイト:オフィス★イサナ
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Jane
息子の高校の新学期に親が招待されて、生物のクラスに行ったときに、先生が「二人一組で実験パートナーを組みますが、このパートナーとは一年間一緒です。カップルでパートナーを組むことはお勧めしません。途中で喧嘩別れした場合必ず成績に影響するからです。こういう例が毎年あるんです。そういう場合でもパートナーの交替は認められません。」とお話されたのが思い出されました。それでもそれぞれの生徒が誰と組みたいかの意志を尊重するんだなー、と思いました。
uematsu Post author
その先生は正直でいい先生かも知れませんね。
だいたい、うまくいかなくなってから「な、カップルで組むと失敗するんだよ」なんていう先生が多いですからね。
まあ、最初にそう言っても、好きなもの同士組んじゃうし、組ませないとすねて、最初につまずいちゃうし。
なかなか難しいです。