パラサイトが楽しめない。
『パラサイト 半地下の家族』が話題だ。カンヌ映画祭で韓国映画初のパルム・ドールを受賞し、アカデミー賞では作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の4部門を受賞している。だいたいカンヌで最高賞をとった作品はアカデミー賞では受賞できないというのが定説だったことを考えれば米国アカデミー賞が本気でこの作品に好意的であることがわかる。
『パラサイト 半地下の家族』は韓国の格差社会を描いた作品で、富裕層に入り込んだ貧しい家族がまるで寄生虫のように取り憑き生き血を吸うかのように生き続けるという話だ。これを巧みな脚本、見事な演出で観客を飽きさせずエンターテインメントとして仕上げている。
これならヒットは間違いない。それはヒットするだろう。カンヌもとるかもしれない。しかし、しかしである。カンヌの上にアカデミー賞までとなると、「ちょっと待って」と言いたくなる。いや、別に文句はない。ヒットして、評価されたのだから、賞をとっても問題はないし文句もない。文句はないけれど、どうしても「そこまで面白いのか」「そこまで万人受けするのか」という疑問が頭をもたげる。
個人的には「面白には面白いけれど。手放しで楽しめるほどなのか」と言われるとNoなのである。この映画は決定的な欠点がある。と、僕は思っている。それは半地下に住む貧しい家族の描き方にある。映画の中の彼らは貧しいながらもしたたかに生きている。貧乏に負けず、富裕層の奴らに対して、決して自分たちを卑下することはない。
しかし、その描写がどうしても、現実の格差社会をハリウッド的なジェットコースターエンターテインメントにはめ込んでいく仕掛けにしか思えないのである。微妙に好みの映画として、僕の琴線をかすっていくだけに、大きな声では言いにくいのだけれど、しかし、その最大の仕掛は「貧乏人の臭い」なのだと思う。富裕層が、パラサイトを決め込んでいる家族から「臭いがする」という。そして、言われた本人たちも「俺たちには貧乏人の臭いが染みついている」と思っている。
その臭いの巧みな使い方が、僕にはとても不愉快である。そして、この監督の限界なのだとも思う。そんな確かなキーワードではない、パラサイトたち特有のなにかを見つけ出し提示することが、この映画の果たすべき役割だったような気がする。こういった格差社会を描く映画であれば、いくらエンターテインメントだと言っても、もっと心が震えるくらいの彼ら特有の何かを提示して欲しかった。それが臭いであってもあの作品にあるような特定の臭いではきっと無いはずだ。
あ、すみません。あくまで個人の感想です。そして、たぶん僕の意見が極少数派だろうし、もしかしたら、そんなことを思っているのは僕一人かもしれません。いや、ほんとに。
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植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在は、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師も務める。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京の千駄木で暮らしてます。サイト:オフィス★イサナ
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Jane
パラサイト。評判が良かったので年齢制限を確認せず13歳の娘を連れ家族で観に行ってしまい、いたたまれない思いをしました。それを別にしてもどうしてそれがそんなにいいのか私にも家族にもわかりませんでした。
口直しに翌日観たHarrietのほうがよほどよかったけど。
しばらく前にこちらの日本人社会で評判になったOh!Lucyも万引き家族も、それほどいいとは思いませんでした。
好みの問題なんでしょうね。私ジェットコースター嫌いだし?
uematsu Post author
Janeさん
13歳の娘さんも一緒にとなると、ちょっと辛いかもしれませんね。
ダウタウンのまっちゃんも言っていたのですが、
クビになった家政婦さんが深夜に戻ってくる場面とか、
「絶対に家にいれないよなあ」とか思ってしまうと、
いろんなところでジェットコースター的なエンターテインメントを仕掛ける装置が
あちらこちらに見えてきてしまう感じなんですよねえ。
それがいけないのか、と言われると、いけないわけじゃ無いんです。
そこが難しいところなんですが。
でも、よくできた映画だとは思います。はい。
Jane
あの終末を引き起こすターニングポイントはどこだったのか色々考えましたね。もちろん家政婦を入れなければ良かったのですけれども、その前段階においての罪と許される範囲の分かれ目について。アメリカの貧富の差の大きい地域に住んでいますので、城のような家にナニーや家庭教師で入っている知り合いが富のおすそ分けに預かったり、どこかに勤めるより金持ちを見つけて個人契約したほうが時給が良くて仕事が楽だよ、という話も聞きます。なのでそういう狡さは有りだと思います。でも前任者を陥れて追い出すとか始めたあたりから駄目かな、とか、べつにモラルについて考える映画ではないかもしれないんですけど。あとあの石も意味はあるとしてもちょっと中途半端な感じ、匂いと同じで。半地下部屋も(完全地下も)アメリカでも普通にあり、その独房にいるみたいな気分や虫の多さは分かるーという感じです。多分私の個人体験の中ではシリアスなものがコミカルに描かれているところがしっくりこないのかも。
uematsu Post author
Janeさん
そうですね。
もっとさりげなくじわじわ追い詰めていくと、
なんだだ好みの映画になりそうなんですが、
それだと大ヒットはしなさそうだし(笑)。
その辺りのさじ加減が難しいですね。