大阪の卒業生に東京で会う。
大阪の映画の学校で仕事をしている。毎年卒業生が映像業界に巣立っていくのだけれど、その就職先は8割ほどが東京だ。僕たちが映像業界を目指した昭和の終わり頃は、映画の世界は斜陽も斜陽で、そもそも邦画はあまり作られていないという時代だった。だから、正社員での就職など皆無で、ほとんどが撮影所の先輩を頼ってなんとか潜り込む、という感じだったように記憶している。しかし、それでも東京大阪の格差は今ほどではなかった。東京も大阪も同じように仕事が減っていたけれど、大阪だけにぺんぺん草が生えている、という状態ではなかった。
ところが今は、すっかり東京と大阪の格差は定着してしまい、映像業界の仕事をきちんとしたいのであれば、東京にいくしかない。もちろん、大阪にも仕事はある。しかし、大阪で撮影しているドラマなんてNHKの大阪が年の半分撮ってるだけだし、ほとんどがタレントの力に頼ったお笑いバラエティばかりだ。
この春、僕が担当しているゼミからもたくさんの卒業生が東京に出て行った。就職した途端にコロナ騒動に巻き込まれ、在宅勤務になったり、リモートで研修を受けたり苦労していたのだが、やっと実務が始まった途端に「仕事を辞めたい」という連絡が入った。聞いてみると、入社前にきついとは聞いていたけれど、こんなにもきついとは思っていなかった、という。一瞬、耳を疑ったけれど、よくよく聞いてみると、ちゃんと寝ないと仕事が出来ないタイプらしく、徹夜に近い日が数日続くと、本当に気を失いそうになるらしい。
さらにどうも入社前に作品を見て憧れていたディレクターが不倫をしているらしく、「不倫をしているような人と一緒に仕事をするのは」と顔を曇らせる。う〜ん、そんなことを言い出すと業界どこへ行っても、と言いそうになったのだけれどグッとこらえて、話を続けさせる。すると、結局のところ、社内の人たちの愛のなさと、仕事のきつさにやられてしまった、ということらしい。
入社半年だろうが、10年目だろうが、その会社を辞めたいとおもうタイミングはやってくるわけで、よく仕事を変わっていた僕が言えることでもないし、正直、辞めたいという気持ちはよくわかる。が、問題は彼女が大阪から東京に来ているということだ。こんな時、「じゃ、大阪で同じような仕事を探してみるか」と言えるといいのだが、それがなかなかままならない。
前述のように大阪には東京ほどに仕事がない。そこがなんだか悔しい。これが東京出身なら、会社を辞めたところで、いったん実家で身を潜めるという手が使える。この手が使えないのが、大阪出身の卒業生たちのちょっと辛いところだ。だから、「仕事を辞めたい」という声を聞くと、できるだけ会って話をするようにしているし、できるだけ仕事を紹介するようにしている。
それでも、東京に仕事が集中するような状況になっていることへの不満を感じてしまう。そして、そういうことになっている、という諦めた感じがとても嫌だ。もちろん、そういう状況にしてしまったのは、僕たちの責任だという自責の念もあった上で。大阪に仕事がないなら東京にいくしかない、とか、嫌な仕事でも生活のためには仕方がない、とか。なんかそんなことばっかり言いながら生きてきた気がする。そして、そんな小さなことがやがて、職場での横暴を見て見ぬふりするようになり、アベちゃんの暴力的な政治を許すようになったことへとつながっているのだろう。
若い卒業生たちと話していて思うのは、結局、僕自身のやらなかった後悔だ。
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植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在は、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師も務める。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京の千駄木で暮らしてます。サイト:オフィス★イサナ
★これまでの植松さんの記事は、こちらからどうぞ。
Jane
植松さんの記事を読むと、かなりの確率で「ああこの一行目いいなあ~」と思います。簡潔なのに読むにあたっての重要なことが定義されていて、パン!と始まるところが。
uematsu Post author
Janeさん
コメントありがとございます。
そのあたり、コピーライターとしての出癖とか、
そういうのがでているのかもしれませんね。