「夫が倒れた!献身プレイが始まった!」を読んで。
カリーナさんと僕はほぼ同い年である。職業も同じコピーライターで、子どもの年齢も同じくらい。子どもの手もかからなくなって、さてこれからどんな生活が始まるのか、という気持ちと、ああ、なんだかんだ言って、人生の若葉のような瑞々しいときはすぎちゃったねえ、という気持ちが交錯する年齢だ。デビッド・リンチ監督の『ストレイト・ストーリー』という映画で、主人公のじいさんが知り合った若者に、「歳をとってよかったことは何?」と聞かれて、「経験を積めたこと。実と殻の見分けが付くようになったこと」と答える。そして、「歳をとって厭なことは?」という質問には「若い頃のことをよく覚えていることさ」と苦笑交じりに答える。あの場面をちょくちょく思い出す年齢になった。
ま、それは置いておいて。そんな歳になると、やはり不安になるのは健康面だ。僕は40代の終わりに初期の胃がんにかかった時に目の前が真っ白になった。あの時は娘が中学に入ったばかりで、息子は小学生だった。会社もやっていたので、僕が死んだらどうなるんだろう。死ななくても病気が長引いたら子どもたちはどうなるんだろう、ということばかり考えた。だから、カリーナさんの本を読んでいる間、ずっと倒れてしまった夫の気持ちになっていた。
「おそらく初期の胃がんです。手術は○月○日あたりで」といわれるといろいろやることがあった。僕がまずやったのは、パソコンにエロ画像がないかどうか。「僕にもしものことがあったら、僕のパソコンは娘が使うかも。そこにエロ画像があったら。サイトの履歴にエロサイトがあったら、娘に嫌われてしまう」ということを考えて、まず、パソコンの整理をした。
カリーナさんの本を読んでいて、夫の借金が発見される場面を読んでいる時も、なんだかカリーナさんが置かれている切実な気持ちよりも、「ほら、そういうものは普段からちゃんと処理しとかないと」と夫の気持ちになって慌てふためいていた。そして、「いやだからさ、いろいろあるのよ。いろいろあって、こうなったんだって。だから許して」と笑いながら妻に手を合わせるもうひとりの夫になった気分だった。
カリーナさんの夫はある日突然倒れた。そして、まだ意識がコミュニケーションができない状態にある。そして、この本はそんな夫とある日突然介護する側に立たされた妻の物語なのだが、妻の本音が時にストレートに、謙虚に語られているせいか、あまり辛い感じがしない。いや、本当のところがどうなのかは、もうご本人に聞いてみないとわからないのだが、読んでいる僕自身は辛いというよりも、生きることの困難さをより強く感じてしまう。
辛いだけだと、うなだれるしかないのだけれど、介護という困難に立ち向かうためには、いくつかの術があり、その術を手に入れれば介護という困難に立ち向かえるかもしれない。この本を読んでいるとそんな気持ちにさせられる。ためになる本を読んだというよりも、良い本を読んだという気持ちになる。
植松さんとデザイナーのヤブウチさんがラインスタンプを作りました。
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植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在は、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師も務める。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京の千駄木で暮らしてます。サイト:オフィス★イサナ
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