ゴダールのいない世界。
ゴダールが僕たちと同じ世界から消えてしまって半月ほど経った。テレビでゴダールの映画が放送されるわけでもなく、大阪の映画館が喪に服したり、すべての上映スケジュールを取りやめて『気狂いピエロ』と『勝手にしやがれ』だけを交互にかけたりすることもない。
ゴダールを知らない人、または興味のない人はゴダール死去のニュースなんて忘れているし、かつてゴダールにやられたことのある人たちは密かにDVDを見たり配信サービスの検索画面に(ゴダール)と打ち込んだりしている。
僕はと言えば、作品を見返すでもなく、若い映像作家の作品を映画祭で見たり、映画学校の学生たちの制作の相談に乗っていたりしている。いつもと変わらない。ゴダールが亡くなる前とやっていることは寸分変わらない。
けれど、学生たちになにかを伝える度に「どうせ」と、いつも思うようになった。「どうせ」ゴダールのように作れるわけでもないし、「どうせ」ゴダールになれるわけでもないし、と。例えば、学生たちが優れた映像作家になることを諦めているわけではなく、ゴダールのいなくなった世界がなんだかえらく茫洋としていて呆然としているのだ。
これからだって、ゴダールの作品のように面白い作品や画期的な作品はたくさん生まれてくるだろう。そこに疑いはない。けれど、あれほど女に嘘をつけなくて、女に振り回されながら、映画を振り回し、僕たちを振り回したゴダールのような存在はもう出てこないかもしれない。
80年代に、初めてリアルタイムに劇場で観た『パッション』のなかでインサートカットで使われていたひこうき雲のカットはゴダール自身の眼差しで切り取られていて、それを疑いも迷いもなく本編の物語の間に差し挟んでくるゴダールに僕はやられてしまったのだ。たぶん、その時のゴダールには、「いいカットだから」という思いしかなかっだろう。ただ、それだけの理由でガタガタと揺れているひこうき雲のカットを平気で使うところがゴダールの真骨頂だ。
映画に嘘をつかない人なのだと思う。嘘をつくときには、後退りしながらやるから見ていてわかる。ゴダールとはそんな人だと思う。と書きつつ、本当は何にもわからないのだけれど。
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植松眞人(うえまつまさと): 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。現在はコピーライターと大阪ビジュアルアーツ専門学校の講師をしています。東京と大阪を行ったり来たりする生活を楽しんでいます。