自由って恐ろしい。
映画の学校の学生に「なんでも自由に作っていいよ」と言うと、ほとんどの学生が絶望的な顔をする。なかには「何を作るのか指示してくれないなんて、授業じゃない」と怒る学生もいる。
「上映時間は10分で、登場人物は3人まで舞台は下町の商店街のゲームセンター。ここで男女の出会いを作品にしてみよう」と課題を出すと意欲的に取り組み出す。もちろん、途中で「もう無理」とか言いだすんだけども。
自由に色々考えるのが面白いんじゃねえか!とこれまでは書いてきたんだけど、最近ちょっと考えることが多い。なんでもいいなんて言われると企画が浮かばないという学生の哀しみを。だいたい自由を与えて、すぐに動き出せる学生は、映画が心から好きで、自分の中に撮りたいものが決まっているタイプと、家族や友人関係にいろいろと問題があってシリアスな企画を立ち上げやすいタイプ。
しかし、こんな世の中にも平穏無事に幸せに暮らしてきた学生もいる。僕もそうだった。けれど、僕たちの世代はまだまだ昭和真っ只中だったので、理不尽な親が目の前に立ちはだかっていた。しかし、最近は親も子供に寄り添うか逃げるかで、立ちはだかってはやらないので、「どうしていいのかわからない」というある意味新しいタイプが生まれる。
だから、パフォーマンス書道なんてものに夢中になるんだろうけど。以前ならそういうタイプを「つまんないなあ」思って眺めていたんだけれど、最近はそういうタイプに、なにか声をかけてあげたくて仕方がない。だって、そういうタイプは親に楯突くともせずにやってきて、「何かを突破する」という経験をしていない。それなのに先生たちからは真面目で優等生というレッテルを貼られて息苦しく生きている。
そんな、彼ら彼女らにとって、映画を作ることは今の世の中の得体の知れない自由を打ち破る力になり得るのか。僕はなり得ると思う。心の底から思う。
植松さんのウェブサイトはこちらです。お問合せやご依頼は下記からどうぞ。
植松眞人事務所
植松眞人(うえまつまさと): 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。現在はコピーライターと大阪ビジュアルアーツ専門学校の講師をしています。東京と大阪を行ったり来たりする生活を楽しんでいます。