『エクソシスト/信じる者』のわかることの喜びとつまらなさ。
『エクソシスト』の正当な続編と喧伝された『エクソシスト/信じる者』が公開されている。こういう映画を観たいなあと思うのは、僕の場合、たいていは弱っている時だ。嫌なことがあったり、平気で嘘を吐く人が現れたり、くだらない争いに巻き込まれたり。そんな時に、人間ドラマを見てしてしまうと、現実に引っ張られて、映画の内容をまったく覚えていなかったりする。今年はそう言う時期が続いていたので、実はこの『エクソシスト』の新作を密かに楽しみにしていたのだ。
『エクソシスト/信じる者』は途中までえらく面白い。オリジナルの『エクソシスト』で主演を務めたリンダ・ブレアと同じ年頃の女の子2人が同時に悪魔に憑かれる。それを救いに、オリジナルでリンダ・ブレアの母親だったエレン・バースティンが同じ役で登場する。もうこのあたりで、オリジナルのファンはワクワクしている。やがて、悪魔がそれぞれの少女のなかで次第にその姿を露わにし始めたとき、あの曲『チューブラー・ベルズ』が鳴り響くのだ。おまけに、リンダ・ブレアまでサプライズ的に登場する。
いやもう、ここまでのワクワク感は本当に良かった。映画が終わってから、映画館のトイレで隣に立った見知らぬおじさんから「いやあ、良かったですよね」と声をかけられるくらいに、数は少ないけれど館内にいたオールドファンみんな興奮していたのだ。
けれど、この新作の制作陣はここで舵取りを間違える。中盤から、なぜ、こんなことが起こっているのか。なぜ、こんな結末を迎えるのか、という事情説明に終始する。それがかなりご都合主義なのもあるが、どんな手を使ってでも、ちゃんと理由を説明しなければという熱意のほうが悪魔の恐怖を上回ってしまう。
最近はホラー映画に限らず、こんな映画が多い。商業映画もそうだが、ミニシアター系の作家主義的な映画でも同じような傾向がある。人間ドラマなら、ただ旅立つだけでいい男の心情が馬鹿丁寧に語られる。SFなら時空の歪みの中を通り抜けられる陳腐な理由がくどくどと説明される。
もう、いいじゃないか。と思う。そんな説明はなくてもオリジナルの『エクソシスト』は怖かった。猥雑な気持ち悪さが全編をおおっていて、見終わった後、なぜこんなことが起こり、なぜ解決したのかもわからないことが、より怖さを煽り立てた。特にホラー映画なんて理路整然と説明されればされるほど、どうしようもなくつまらないものになっていくのに。
でも、世の中の映画やテレビは全部その方向へ向かっている。テレビはつまらないからYouTubeを見ています、という若い奴が見ているYouTubeだって、撮影技術と編集技術だけが向上していて、ストーリーは「桃太郎」よりもっと分かりやすい。桃太郎なんて、なんで犬と猿とキジなのか誰も説明できないから面白いのに。なぜ犬なのか、なぜキジなのかを説明しているようなくだらない作品ばかりだ。で、わかりにくくしようとすると今度は分からなければいいんでしょ!的なヤケクソな内容になってしまう。
やっぱり、『エクソシスト』の主題歌、「チューブラー・ベルズ」が鳴り響いた瞬間のカタルシスだよ。あのカタルシスを信じて暴れ倒せば良かったんだよ。観客なんて分からせるものじゃなくて、振り回すもんだよ。
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植松事務所
植松雅登(うえまつまさと): 1962年生。映画学校を卒業して映像業界で仕事をした後、なぜか広告業界へ。制作会社を経営しながら映画学校の講師などを経験。現在はフリーランスのコピーライター、クリエイティブディレクターとして、コピーライティング、ネーミングやブランディングの開発、映像制作などを行っています。
ぱろる
私はホラーが苦手なので、元ネタの「エクソシスト」もこの年まで未見なのですが…
でも、おっしゃること、よくわかります!
SNSがいけないのかなぁ…
すぐ感想が作り手に届くから
私はここ数年、朝ドラ見ては、Twitterで朝ドラクラスタさんのコメント読むのを楽しみのひとつにしてるのですが、例えば伏線回収にこだわりすぎるきらいがあるかなぁ…と
観客の感想なんて、そんなもん知らん!な勢いで、見たことない景色、思いもつかない展開を見せてくれるような破天荒な映画、私も見たいです。
uematsu Post author
ぱろるさん
以前、「リング」の監督をした中田秀夫さんも「わからない怖さってわかってもらえなくて」と言ってましたが、わからないから怖いのになあ、とがっかりした覚えがあります。
ほんと、悪ふざけじゃなく破天荒な映画が見たいですよね。