第64回 四畳半神話大系
アニメ「四畳半神話大系」の原作は森見登美彦による小説(2005年単行本が発行、2008年文庫版発行)。脚本・構成はヨーロッパ企画の上田誠、監督は湯浅政明、アニメーション制作はMAD HOUSE。2010年TV放送/2010年度文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞受賞作品です。
このたび森見登美彦著・上田誠[原案]の小説「四畳半タイムマシンブルース」アニメ化(2022予定)を記念して、4月から本作がフジテレビの「ノイタミナ」枠(関西では金曜午前2時頃)で再放送されています。めったにお目にかかれない作品なので、おしらせしておこうと思いました。
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京都の大学3回生(関西では大学の学年を回生と数えます)になった春、語り手である「私」はこれまでの2年間を無為に過ごしてきたと後悔しています。そこから、もしも入学時に入会したサークルが違っていたら?と始まる幾通りかの並行世界の物語です。映画サークル「みぞぎ」、ソフトボールサークル「ほんわか」などに入会しますが、いずれも馴染めず自ら遠ざかることに。最後には万年床の四畳半にこもり大学からも遠ざかるかと思いきや、思いもかけない出来事が「私」を外へと導き…。真面目に言うと青年期の苦悩を描いたものですが、あまりにバカバカしい出来事の連続で、そんなことはすぐに忘れてしまうでしょう。
登場人物は主に、明石さん(黒髪の乙女)、樋口師匠(大学8回生)、城ケ崎先輩(映画サークル「みそぎ」部長)、羽貫さん(歯科衛生士)、(ジョニー)、そしてなぜか「私」に手の込んだちょっかいを出してくる同学年の小津。
「私」がサークルやサークル外でのできごとを語る形で話が進みます。大学生ですが授業の話は一切出てきません(笑)。全体を通して語られるのはバディである小津とのはた迷惑でわちゃわちゃした騒動と友情、明石さんのこと、そして、ぱっとしない自分自身への自虐です。それが重厚な言葉を駆使して語られ、尊大さとおかしみを醸し出しています。原作では彼らが往来する実在の通りや橋が詳細に描写され、読む者も彼らと一緒に京都の町を駆け巡ります。
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アニメでは、エピソードが組み替えられ、サイクリング同好会などいかにもありそうで原作には無いエピソードもあります。「私」は声優さん泣かせの笑ってしまうくらい尋常ならざる早口で、原作に近い重厚な語りをきかせてくれます。
早口の詳細なセリフに対して、屋外の背景は薄暗くもきれいな色使いの「イメージ」です。切り絵や影絵、版画のようでもあります。単純化されていてもあそこらへんだと分かるのが良いです。京都に馴染み深い方ならばもっと楽しめるのではないかと思います。
主題歌「迷子犬と雨のビート」を歌うASIAN KANG-FU GENERATIONのアルバムジャケットでお馴染みのイラストレーター中村佑介原案のキャラクターが、湯浅作品独特の誇張された遠近法でぬおっと現れ、ぬらりと消える。単色の背景に多色の人物を配置するなど効果的な色使いで、全体として湿り気のあるポップなイメージになっています。「湿り気のあるポップ」さとはいかなるものか、ご興味を持たれた方はぜひ一度ご覧ください。
念のため申し上げておきますが、10年以上前の作品なので、今では省くかもと思われる妄想映像もあります。原作の持つ、一皮むけるまでの青年期のカッコ悪さと可愛さは損なわれていません。つまり、原作もアニメも相当にバカバカしく愛おしいのです。
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今をさかのぼること数年、このサイトの投稿者募集に際し私は「アニメと原作」について書いてみたいと応募しました。「この小説がこんなアニメに?どちらも面白い!」と双方を追うきっかけとなったのが「四畳半神話大系」でした。つまるところ再放送のおしらせでサイトお休み期間中の不定期投稿にもかかわらず0.5回でなく正1回分として投稿する理由が、ここにあります。
本サイトへの応募時、カリーナさんはじめ運営の皆さまに、好きなように書いてみては?と背中を押してもらいおっかなびっくり書き始めた本コーナーですが、今となっては「原作」の縛りがなくてたいへん助かりました(てへっ)。さらに、付けていただいた「オイラクノアニメ」というタイトルのおかげで、じっさい老いらくの境地に近づきつつあるこの頃は、以前にもまして自由に書かせていただいております。ありがとうございます。
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