第96回 鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎
水木しげる生誕100周年記念事業のひとつ「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」は、目玉おやじが、目玉だけになる前のおはなしだ。本作自体の原作は無いが、水木しげる作品「墓場鬼太郎」とつながっている。以前取り上げた第6期ゲゲゲの鬼太郎のエピソード0にあたる。アニメーション制作は東映アニメーション。
===
時は昭和31年。
戦時中から台頭した製薬会社を経営する龍賀家当主、龍賀時貞が亡くなった。帝国血液銀行の取引担当者水木は、戦争で生き残った以上はのし上がってやろうと野心を抱き、弔問のため、山深い湖のほとりにある哭倉村(なぐらむら)を訪れる。閉ざされた村では奇怪な出来事が続くが、そこへ生き別れた妻のてがかりを求めて鬼太郎の父がやって来て…。
==
美しい森に閉ざされた村が実は非常にグロテスクなのだ。話が進み深部に近づくにつれ、すこしづつ身を引いてしまう。それでも鬼太郎作品だと見ることができるのが不思議だ。第2期鬼太郎世代なので馴染みがあるからだろう。
村での出来事が水木に、まだ癒えぬ戦地での記憶を思い起こさせる。ときおり挟まれる黄味がかった古いフィルムのような戦線のシーンは、水木しげるの戦記漫画を踏まえているのだろう。
幽霊族の末裔である鬼太郎の父は人間よりも人間的で、水木もまた別の意味で人間的だ。鬼太郎の父はずっと変わらず、水木は少しずつ変わっていく。
==
どこまでも続く深い山林、河畔の温泉、古くて大きいお屋敷の内外観、室内の調度品、分厚いガラスの灰皿や仕込み杖などの小物類、ひとつも見逃がしたくない精緻な美術が繰り出されてくる。
同じスタジオ制作のプリキュアやワンピースでは、そつがない分強い印象がなく流して見てしまっていたが、アクションシーンが素晴らしい。着物姿のせいか、カッコよさが際立つ。こんなに強い鬼太郎の父さんを見られるとは、嬉しい驚きだ。
==
本気の大人向けホラー映画。映倫PG12。正直に言うと東映アニメーションはこども向け作品を作るスタジオだと思っていたが、ここまで振り切るとは! こども向けのポジティブなイメージを描けるのはその逆をイメージできるからこそ、か。
見た後は、妖怪大図鑑で出てきた妖怪をチェックしたり、YouTube東映アニメーションミュージアムチャンネルで「墓場鬼太郎」第1話「鬼太郎誕生」を見て楽しみました。
映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』公式サイト (kitaro-tanjo.com)
霊毛ちゃんちゃんこの由来が分かりますよ。
===
同じく水木しげる生誕100周年記念事業で、ただいまNetflixにて新アニメ「悪魔くん」が配信中!