ウオーターシップダウンのうさぎたち
『Watershipdownのうさぎたち』はイギリスのウサギの冒険小説です。
私が読んだ日本語版は昭和50年に初版されていて、本の最後の出版社の宣伝ページには指輪物語なんて書いてあります。
うさぎ好きだからきっと面白いわよと母のママ友が教えてくれて、ナルニア国物語の延長のような気分で読みました。そのぐらいの年でした。
人間による郊外の宅地開発で自分たちの巣穴が壊されるのを予見した主人公ウサギたちが新天地をみつけて繁栄していくまでのお話で、ほとんど苦労話と言ってもよく、千の敵(テンやキツネや人間)による苦難や果てはウサギ同士の戦いがウサギの神話や傍観者である人間の語りを交えて描かれています。
西洋の本らしく章の始まりにいろいろな小説の一節や格言が添えられているのも印象的でした。
子供向けファンタジーというより、策略と緊張と仲間行動の連続の間に穏やかな月夜や暖かい巣穴、美味しい草やちょっとしたウィットがはさみこまれているかんじです。読みながら口元や肩に力が入ってしまったらすっかりウサギの気持ちになって読んでいる証拠です。
実家から日焼けした本を持ってきて読み返しました。キジバトが窓の外でプワッパーとゆっくり鳴いていたりするとまるで小学生の自分の部屋で読んでいるみたい。
目を上げて今の部屋の家具や洋服掛けが見えると一気に半世紀近くの時間を戻ってくるようで息が詰まります。最後にこの本を閉じて枕元なんかに投げてから今回開けるまでで40年以上、あれもこれも、あの人もこの人もあのうさぎも全部その間にあったことかー。
そして記憶違いも発見しました。自分のウサギ集団を守るために命がけの行動をする主人公が「私の命を差し出しますから、仲間を助けてください」とウサギの神様に願掛けをする場面。ウサギの神様は「これは取引ではなく、その行動はそうすることが当然だからだ」と応えて、このご教訓めいた揺るがないセリフは「命をかける!」的なありがちなものではなかったのでずーっと覚えていたのですが、本にはそういうやりとりはなく、その後作られたアニメ映画(TVアニメではない)でのシーンだったのでした。
そのとき飼っていたうさぎもよく覚えています。あの頃も楽しい動物だと知っていたけれど、現在室内で飼うようになって気づいたこともたくさんあります。下僕を仲間と思ってくれると、下僕達が食事を始めると自分もエサを食べ始めたりするのです。
まるでウオーターシップダウンで巣穴からひと群れで出てきたウサギがみんなで一緒に草を食べるみたいに。
さて、昔懐かしは終わり。膀胱炎になってしまったうさぎに薬を飲ませる時間です。ほんの少しの水で粉薬を溶き、前歯と奥歯の隙間から細い注射器(針はついてませんよ)を差し込んで飲ませるのですが、完全にのませられるか毎回緊張します。
はやくよくなっておくれ。