こうさぎがたくさん
むかしむかし実家には「つがい」のうさぎがいました。
活発で脱走上手の白い雄うさぎと茶色の優しい雌うさぎです。夜、うさぎ小屋から白うさぎだけ脱走しても朝になったら茶色うさぎと小屋の内外で金網越しに並んで座っているような仲良しでした。
でもつがいのウサギを一緒にしておいたら大変なことになります。
ウサギは誘起排卵といって交尾刺激の10時間後くらいに排卵する動物なので妊娠する率がとても高いのです(これを羨ましいと感じるか大変と感じるかは立場によるでしょう)。
そして一ヶ月くらいの妊娠期間を経て出産します。一回に4~12頭が生まれるそうで、うちでは6~8頭でした。小屋の隅に窪地を作って、自分のお腹の毛をぬいて敷いて、ふわふわの中に小さくて目も耳も開いていない、毛も生えていない子ウサギたち。子ウサギたちはあまりにも弱く小さく、ちゃんと育った子は本当に少なかったのです。
いつ頃習ったのか覚えていませんが、獣医さんから誘起排卵のことを教わり、うさぎ小屋に仕切りをつくりました(親が)。それでもうっかりすると雄うさぎが仕切りをこわしたりして雌うさぎは妊娠してしまう。妊娠出産を繰り返したことが優しかった茶色の雌うさぎの命を縮めてしまったと思っています。そして沢山生まれたのに消えてしまった子うさぎたちのこともつらく思い出します。
同じ楽しくないことでも静かに思い出せることと違って、未だにありありとよみがえる光景に手足が少しつめたくなるかんじ。そういうふうに思い出されることはそのことをまだ消化中なのだと聞いたことがあります。決着がついていなくて現在進行形で未処理箱に入っている。今の知恵で対処できたらどうだったかと思うけれど、相手は居なくなっていてどうしようもない。これはもうずっと未処理箱に入ったままでしょう。
もちろん思い出すと明るい気分になることのほうが量としては多いのです。こちらは思い出すと胸の真ん中が温かくなるかんじ。
耳が開いて、柔らかな毛が生えそろって毛並みの色もわかってきて、さいごにぱっちりと目が開いてぴょこぴょこ走り出す子うさぎたち。
目が開くまで一週間くらいかかります。
両耳の先がちょっとたれている子うさぎがおぼつかなく走るとその柔らかな耳の先が揺れる様子。手の届かない隙間の奥に入ってしまい半泣きで大騒ぎをしていたら実は後ずさりがとても上手ですごい速さでバックしてきて大笑いしたこと。
無事育った子うさぎは本当にすくなかったけれど、当時の仲良しの友達の家にそれぞれもらわれていって大きくなりました。
いまうちにいるうさちゃんは雌で、お気に入りふわふわマットを舐めて毛繕いしている姿にあのやさしい茶色のお母さんうさぎの姿が重なることがあります。うさちゃんを通して別のうさぎのことをみるなんて今いるうさちゃんに失礼な気もしますが、未処理なんだからしょうがないよ。それに、可愛いと思う気持ちは倍になっていますから。