サヴァランは見た。この街のひとびと #8
2月13日 土曜
「もっともっともっと脳みそから飛び出そう!」という
数学ライブにむすこと行った。
この日、むすこは学校だった。
朝は、「とにかく今日はすっとんで帰ってきて!」と送り出した。
お昼は、すっとんで帰ってきたむすこにおにぎりを二つ食べさせ、
そのまま二人ですっとんで出かけたが
会場に着いたのは、開演から30分を過ぎた2時少し前だった。
こじんまりとした円形ホールのドアのそばには
体格のいい男性がぺたりと足を伸ばして座っていたが
わたしたちがドアを開けると
すっくと大きく立ちあがって
「こちらの手前よりあそこが見やすくていいですね」と
遠くの空席を指さしてくれた。
「お。好みの話し方だ!」と内心思ったこの男性は
フォークロアな感じのひとだった。
むすこは、他の観客の方の前を通ることに躊躇している様子だったので
「すみませんって言って、ちいさくなって。ほら、行きますよ!」
と声を掛けた。
目星をつけた席まで息をつめてたどりついて
やれやれと後ろを振り向くと
むすこがアルマジロみたいにこちらへ向かってくる途中だった。
きみきみ、小さくなりすぎ。
前日Twitterで「今、ジュニアが誕生しました!」と報告されていた
「独立研究者」は、少年の面影を残した長身の男性だった。
着丈も袖丈もすこ~し短めのグレーの上着を着て
白のシャツに紺色のコットンパンツを合わせた服装は
「おしゃれすぎないおしゃれ」という
この方の「絶妙なバランス感覚」をそのまま表している感じがした。
休憩中。
イベントのタイトルが「もっともっともっと」と
「もっと」を3度重ねているのは
当地でのこのイベントが3回目を迎えているかららしく
会場のお客さんの中には「常連さん」とおぼしき風情の方々が
演者至近のかぶりつき席を占めていた。
観客の平均年齢 41.2才(ただの目算)。
学生さんがもっと多いかと思ったら
「もと学生」と「長いこと学生」風の方がかなりを占め
他には熱心にメモをとる高齢者の方もちらほら。
(この方々は途中で完全にお休みになっておられた)
後半の部の開始から20分が過ぎた頃
わたしの隣の席からもすーすーという寝息が聞こえてきた。
しばらくすると
「ぼくって寝てた?」と小さい声で聞いてきたので
「はい。すーすーね」と静かな声で応えておいた。
休憩中。
わたしの目に狂いはなかった(笑)
熱過ぎるでなく
冷め過ぎるでなく
「平熱の情熱のひと」がそこにいた。
長身で目線が高いので
「はるか遠くまで見えるんだろうなぁ」と
ちびで老眼のわたしは思った。
ところどころわかったけど
かなりの部分はわからなかった
そしてぼくはすこし寝た
でも、おもしろかった
今まで見たことのないおもしろいひとが
おもしろそうなはなしを
ぼくが寝る前も
ぼくが起きたあとも同じ調子でずっとしていた
ああ、このひとは、そのままにしておけば
このままずっとこのはなしをし続られるんだろうな
それってまじやばい
と思った。(むすこ談)
肯定的な「まじやばい」は
森田さんがこの講演の中で何度か使われていた言葉だ。
わたしは
この方のしごとの宇宙的な深さと広がりは
「ここちよい睡眠」に近似値の「地球色の幸福感」でもある
とそんなことを思っていた。
それから。
文理の分け隔てなんて
まじいらなくね?
まじださくね?とも。。。
終演後のロビーには
銭湯の脱衣所を
ほんの少しだけさわやかにしたような空気が流れていた。
ライブの観客は一様に上気していた。
それは「熱過ぎず、冷め過ぎず」の
森田さんに近い温度だった。
「すみませんっ!今から病院へ行かないといけないので、
ぼくはこれで失礼します!!」
人垣の向こうの高いところから声がして
異能の研究者は、ちょっぴり照れ臭そうに
小雨の街へ消えて行った。
「ああ、そりゃそうだ。はやく行ってあげて~」と
誰かが言葉を
あたたかい放物線で放り返したような気がした。
終演後のこの感じが好きだ
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