第6回 「毛皮のヴィーナス」
新しい年が始まって半月。今年も、映画館で新作映画を見る「映画初め」をすませてきました。ロマン・ポランスキー監督の「毛皮のヴィーナス」です。
◆映画のあらすじ
オーディションに遅刻してきた無名の女優ワンダと、自信家で傲慢な演出家のトマ。
がさつで厚かましくて、知性の欠片もないワンダは、手段を選ばず強引に
オーディションを懇願し、トマは渋々彼女の演技に付き合うことに。
ところが、ステージに上がったワンダは、役を深く理解し、セリフも完璧。
彼女を見下していたトマを惹きつけ、圧倒的な優位に立っていく。
二人の芝居は熱を帯び、次第にトマは役を超えて、ワンダに身も心も支配されることに心酔していくのだが──。(公式サイトより)
いやー、これがかなり面白かった!
こんなに面白い映画で映画初めができたんだから、きっと今年はいい年になるぞ~とうきうきしながら帰ったくらい、面白かったです。
映画に登場するのは、演出家と無名の女優のふたりだけ。
舞台となるのは、オーディション会場となるちいさな劇場の中だけ。
そんな、ごく限られたミニマムな状況の中、物語がじわりじわりと、しかしある面ではとてもダイナミックに進行していくのです。
ふだん、見た映画についてあれこれ話す相手のひとりに妹がいるのですが、彼女にいわせるとわたしはひどく感心した映画に対して「よかった」ではなく「うまい」というほめ方をしているようでして…。
確かに、この「毛皮のヴィーナス」を見ている最中も、見終わった直後も「うまいなあ」と何度も口には出さずにうなっておりました。
主人公の演出家トマは、いわゆるインテリおじさん。
プライベートでは年若い婚約者がいて、自分自身と仕事に対するプライドも高い。
そのトマを翻弄するのが、無名の女優ワンダ。
登場したとたん、トマの都合をまったく顧みずにしゃべりまくり、ポイントがずれた感想を口にします。
そして、トマは表向きはそんなことがないように取り繕ってはいますが、言葉や態度のはしばしから、完全に彼女をなめてかかっているのがよくわかります。
で、そのなめっぷりに「あー、こういうなめられかた、あるよね…こういうなめてることがわからないようにしてる(もしくはなめてることにすら自覚がない)リベラル風味おじさんいるよね…」と、ちょっと苦ーい、いやーな気持ちを思い出したりするわけです。
しかし、いざオーディションが始まったとたん、このワンダががらりと変わるのです。
古ぼけたドレスに無造作に束ねただけの髪が、教養深いよき時代の貴婦人の装いに見えてくる。
ワンダを演じているのは監督ポランスキーの妻であるエマニュエル・セニエですが、ここの変わりようは、名作マンガ「ガラスの仮面」を髣髴とさせました。
マヤも亜弓さんも、月影先生も真っ青だよ!
演技をする人って、ほんとにすごいな。
支配欲と、被支配欲と、被支配欲に見せかけた支配欲。
めんどくさくも厄介な、トマが隠している(つもりだった)欲望と差別意識が、ワンダによってどんどんあきらかになっていくくだりはとてもスリリングでしたし、私は「いいぞーもっとやれ!」と爽快感すら覚えました。ええ、後半はもうずっとニヤニヤしてましたね。
女性にも、そして男性にも見てほしいですし、どう思ったかを聞かせてほしいなーと思いました。
もし「毛皮のヴィーナス」をごらんになって気に入った方がいたら、ポランスキー監督の前作「おとなのけんか」と前々作「ゴーストライター」もまた、見終わった後に「うまいなあ…!」とうならされた映画ですので、こちらもおすすめです。
うまいなあ、と思える映画は宝ですね。今年もたくさん、そんな映画を見られますように。
中島
ここを読んで「毛皮のヴィーナス」がすごく見たくなりました。
さくっとヒューマントラスト行っちゃうかーと思ったら上映が20時台1回のみ。。。
夜は、ちょっと出たくない。。。とがっくし。
でもなんとか見に行きたいなと思ってます。
okosama
小関さん、はじめまして(^^)
これは見に行きたいです!
地方なので上映はまだ先ですが、やっぱり夜上映かな?
ロマン・ポランスキー監督の「おとなのけんか」、面白かったですねぇ。「ゴーストライター」も、たしかに!
私も今年最初に借りたDVDがなかなか良かったので、気を良くしていたところでした(笑)。
いまねえ
うおおお。。。
2月末で閉館してしまう、行きつけの小さな映画館の
最後の上映作品の一つが、この「毛皮のビーナス」です!
おお。。観に行くぞ・・・上映予定日は2月後半ですが心に決めました!
小関祥子 Post author
>中島さん
コメント、ありがとうございます!
この映画、12月からの公開だったので、そろそろ上映回数が減ってくるころではあるのです…
変なタイミングでのご紹介になってしまって、すみません。
Bunkamuraル・シネマでは、まだ1日3回上映しておりますので、ぜひ~。
http://www.bunkamura.co.jp/cinema/lineup/14_venus.html
小関祥子 Post author
>okosamaさん
はじめまして、そしてコメントありがとうございます!
okosamaさんがお住まいのところでは、これから上映なのですね。ぜひ楽しみになさっていてください!
「おとなのけんか」も「ゴーストライター」もごらんになったと聞き、うれしいです。
ほんとにおもしろかったですよね~、おじいちゃんおそるべしです…。
小関祥子 Post author
>いまねえさん
コメント、ありがとうございます!
小さな映画館の、最後の上映作品のひとつが「毛皮のヴィーナス」。
閉館は残念ですが、映画にしか持ち得ない魅力で、クロージングをあでやかに彩ってくれることと思います。
映画館で見かけた女性たちは、みなさんわりとニヤニヤしながら見ていましたので、ぜひお楽しみに!
パプリカ
小関さま、こんにちは。
有楽町では1月30日までと聞いて
ぎりぎり間に合いました。
観てきましたよ~
こちらでの紹介が無ければ
映画の公開を知らないうちに見過ごすところでした。
間に合ってよかったです。
ご紹介有難うございました。
新春から、春映画で盛り上がりましたです!
バッグには原作文庫をしのばせて、
しっかり予習してから見ました。
意外なのはこれだけのエムの世界なのに
キスシーンひとつなし。
まっ、エムとはそういうものなのですかね。
契約書を胸元から取り出して、その時ちらりと…
で、映画の感想は、ウケてウケて笑って笑いころげました。
おっかしくてコメディーでお正月福笑い満喫しました。
ニヤニヤどころかワハハの世界です。
で、れっきとしたポランスキーの文芸作品。
楽しかったぁ。
ワンダもトマも(エマニュエル・セニエ&マチューアマルリック)
サイコーでした。
キャスティングと音楽と台詞とその他もろもろの舞台演出効果
雷鳴とか(笑)
トマの携帯の着信音がワルキューレ!
ラストのワンダのダンス
ニジンスキーの牧神の午後も負けるほどのド迫力!
もちろん、ニジンスキーのダンスは見たことありませぬが。
主演のエマニュエル・セニエの演技は、あっぱれです。
教養まるでなし低級女優から19世紀貴婦人まで
エレベーターのように行ったり来たり
メンズジャケットを着て、眼鏡をかけた出で立ちは
演出家トマになり代わったり
平手打ち、、ナイフ投げ、縛り、ひざの動き
トマでなくともマケタという感じです。
映画の途中で
ワンダがトマのフィアンセが飼っている犬の名前を
想像で当てようとして、
『ジョルジュ?(よくききとれなかったのですが)』
トマ『いや、デリダだ。』
それから、映画ラストのエンドロールのお楽しみ、
ヴィーナス特集はポランスキーの女性讃歌。
ウフィッチ美術館のヴィーナス
願わくば死ぬまでにみてみたいと思いました!
2015映画幕開きにふさわしい作品で
観終わったあと、ワタシも毛皮買うもんね~と
なりきり妄想ヴィーナスになってしまいました。
どうする?オバフォー、オバフィフ、オバシス
いやいや…、まだまだ(笑)
本年もよろしくお願い致します。
小関祥子 Post author
>パプリカさん
コメント、ありがとうございます。そして、書き込みをいただいてからすこし日がたってしまって、すみません。
原作を読まれてからごらんになったとのこと、感じることもまた一味違いそうですね~。
テレビでCMを打ったりもしていませんし、映画館でチラシを見なければ私も見逃していた作品でした。
楽しんでいただけたようでよかったです。
ワンダはまさに、変幻自在でしたね。
こちらの思惑や感相も、すべてお見通しのようでした。
映画でしか味わえない不思議な、満ち足りた体験ができる作品でした!