笑えないのはなぜだろう。
北野武監督の『龍三と七人の子分たち』を見た。ベテランの俳優たちの、すごみのある存在感はさすがという他ないし、北野武監督の狙い目も面白い。
なのに、なぜ笑えないのかというというところが問題なのである。正直、もしかしたら、関西人だから笑えないのではないか、という気もしている。これだけ笑う準備も整っているのに、爆笑できないのはテンポか、根本的に狙っているところに何かあるからだとしか思えない。
僕は落語が好きで東京の落語も大阪の落語もよく聞くのだけれど、やっぱり狙い目が違うという気がしてしまう。東京の落語は粋に落とすのがいいんだよ、と言う人がいるが、上方落語だって粋に落とす演目はいくらでもある。
しかし、同じ「粋に落とす」噺であっても、東京の落語の場合、腑に落ちないことが多いのはなぜだろう。面白くない、ということではなく、これもう子供のころからの刷り込みというか、もうDNAレベルで、なにかあるのではないかと疑うしかないのである。
だからといって東京のお笑いが駄目だというわけではない。ナンセンスなゲバゲバには子供のころ大笑いしたし、いまだって東京の漫才やコントで面白いと思うものはいっぱいある。ただ、暗黙の了解的な部分ですかされることが多い。
暗黙の了解的な、といわれても通じないかもしれない。そうだなあ、ここ最近、活躍しているお笑いでいうと、いちばん笑えないのはナイツの漫才なのである。あそこに漂う演芸臭がどうしても笑いを抑止する。
それと同じ匂いが北野武監督がこれまでに「笑い寄り」で作った映画にプンプンと臭うのである。そして、それが臭うと途端に笑えなくなる。演芸場が嫌いなのでもなく、演芸場周辺の暗黙の了解がいやなのかもしれない。
ただ、だからといって、『龍三と七人の子分たち』が嫌いなのかというと、そんなことはない。というのが難しいところ。なんだか、面白いのに、腑に落ちないといという妙な具合なのである。美味しいおでんを食べている真っ最中にちくわぶを口に入れてしまった、あの時の感覚に近いのかも知れない。
『龍三と七人の子分たち』公式サイト
http://www.ryuzo7.jp
※公式サイトで急にでっかい音で予告編流すのは本当に勘弁してほしい。
植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在、オフィス★イサナのクリエイティブディレクター、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京神楽坂で暮らしてます。
★これまでの植松さんの記事は、こちらからどうぞ。
きゃらめる
関西人はちくわぶを嫌う方が多いようですが、ごめんなさい、私は好きです。
ひしめく練り天の隙間に紛れ込ませて炊いた関東煮の鍋から、ちくわぶを救い上げてほおばった時のあの、「でんぷん」感(笑)
それはおいといて。
笑いのセンサーは生まれ育ちで絶対に違うよなぁと、私も思います。
東京の落語もたしかにとても面白いし、実際笑ってしまうのだけど、心の底から無条件で笑えないというか、頭空っぽになるほど脱力して笑えないというか。
味覚センサーの違いとおんなじなんかな。
関東の方はどう感じてらっしゃるのかなあ。
マレ
藤竜也のトレンチコート相変わらず格好良かったし、ゆるんだ身体を惜しみなく披露してくれてw 切なくセクシーでしたが、笑えたかと言われてたら……ハイ笑えませんでした。
ジイさんバアさんがイキがるヤツらの鼻をあかすパターン好きなんですよ。「死に花」とか西村寿行のバァさん窃盗団の小説とか(題名忘れましたが(^^;;
だからこの映画も期待していたのですが。笑えなーい! タケシギブミー痛快☆小気味☆洒脱
植松さんのちくわぶの例え分かりますw
隔靴掻痒とでも申しましょうか、このもどかしさ。ふと「さや侍」思い出したぞ。
uematsu Post author
きゃらめるさん
ちくわぶについては、やっぱりちくわが好きだからこそ、
慣れないちくわぶをほおばってしまったときの、
「だまされた!」という感覚がぬぐえないんでしょうね(笑)。
お笑いについては、僕も関東の人がどう感じているかが気になります。
加えて、以前にも書いたような気がしますが、
例えば、宮本輝の小説が本当に日本全国の人たちに伝わっているのだろうか、
と不安になることがあります。
関西人にしかわからないんじゃないか、ということではなく、
関西人のこの感覚は、それぞれのエリアの言葉だと、
どう言い表せばいいんだろう、というもどかしい感じかもしれません。
uematsu Post author
マレさん
お笑いというのはやっぱり難しいですね。
でも、やっぱりビートたけしのお笑いの感覚って、
浅草の演芸場のノリなんでしょうね。
それを映画でやると、子どもの頃、深夜放送で、
植木等の無責任男の映画を見たときのように、
テンポが合わずに、「ここ、笑うところなんだろうなあ」と、
とても、もどかしい気持ちになってしまいます。