喫茶店を番組に
数年前「喫茶店」をテーマに2時間の生番組を放送した。大手コーヒーショップにおされがちな昔ながらの喫茶店や、小さくても居心地よい時間を提供してくれるカフェを応援したいと思ったから。
番組のサブテーマは「香り立つ2時間」に決めた。聴く人が五感を使って楽しめる番組にしようと思った。そして一ヶ月間、準備を進めていった。
まずは図書館へ行き、喫茶店にまつわる本をあさった。全国の名店や店主の人生を紹介するなど、喫茶店への愛を感じられる本が何冊もあった。次に放送局の資料室で音楽を探す。検索機に「コーヒー」「喫茶店」などのキーワードを打ち込んでリサーチする。「コーヒールンバ」「コーヒーブルース」。その他にも、番組のテーマに合う曲がたくさんヒットした。
そして音作り。番組の中で使う効果音を作っていく。
カップが触れ合う音、コーヒーを注ぐ音、人々のささやき声、ドアの開閉音、きしむ床、豆をひく、お湯を注ぐ…。
地元のコーヒー豆販売店で、焙煎する音を録音させてもらった。煎り上がったばかりの豆にマイクを近付けると、チリチリチリ…という音がした。
会社近くの純喫茶ではドアベルの音を録音させていただいた。マスターに許可を得て、何度もドアを開け閉めして、「チャリンチャリン」を収録した。
喫茶店の雑学も調べて、パーソナリティーに資料を渡した。全国的にみて喫茶店の数が多い県はどこか、独自の喫茶文化がある地域はどこか(愛知県ですね)、コーヒー豆はどこでどのように栽培され、私達のもとに届けられるのか。
当日はスタジオで番組を展開しながら、老舗の喫茶店から中継も行った。蝶ネクタイ姿のマスターが、サイフォンで珈琲を淹れる。コポコポと音をたてて湯が沸きあがる。その音を音声スタッフが丁寧に拾って、美味しそうな珈琲を演出する。店内の古時計が「ボーンボーン」と響く。(鳴ると知って、スタッフが時計の近くにマイクを仕込んでいた。いい仕事するな~!)
番組にはさまざまなメッセージが寄せられた。おススメの店や、ユニークな喫茶メニュー、「若いころ脱サラして、店をオープンしました!」「お気に入りの店のマッチを今も持っています!」「喫茶店でプロポーズしました!」等々。
実際には、中継するお店を選ぶのにも苦労したし、スタジオゲストを誰にお願いするかにも頭を悩ませた。喫茶店の魅力を音で伝えることも、チャレンジだった。県内外の喫茶店に電話取材もした。始まるまではうまくいくかどうか不安で仕方なかった。でも、終わってみると、心地よい充実感があった。リスナーさんからたくさんの喫茶店物語を教えていただいた。お店の数だけドラマがあって、お客さんの数だけ思い出がある。喫茶店に熱い思いを寄せる人の多いこと!この番組を終えて、私の喫茶店好きは確実に加速した。
…さてそんな喫茶店。私にとってのかけがえのないお店は、京都市左京区にある「YAMATOYA」だ。
京都では一番古いジャズ喫茶。私は学生時代、このお店でアルバイトをしていた。
マスターが選んだレコードをかけ、注文をとり、調理のアシストをし、コーヒーを運び、皿を洗い、そしてまたレコードをかける。
卒業して四半世紀が経った今でも、京都を訪れると必ずYAMATOYAに足を運ぶ。マスターもママさんも温かく迎えてくれる。大型スピーカーから流れるジャズが心地よく、コーヒーは最高に美味しい!また今度、YAMATOYAのこと、紹介させてください。
れこ
はじめまして。
コーヒーも好き、ジャズも大好きな私。(もちろんラジオも!)
なのにジャズ喫茶は、まだ一度しか行った事がないのですが、
今回の記事は音も、香りも、情景がとてもリアルに感じられました。
ラジオ番組が放送されるまでに、こんなにたくさんの工程や、こだわりがあったのですね。
YAMATOYA、いつか京都を訪れた時に足を運んでみたいです。
okosama
がっちゃんさん、はじめまして。
いろんなことの「舞台裏」って興味深いです。ラジオ制作の世界をのぞかせていただいて、ワクワクしています。
聴く人が五感を使って楽しめるラジオ番組!聴きたかったなぁ。
数年前、私の住む町の中心部に、カウンター8席くらいの小さな喫茶店ができました。近くに大手コーヒーショップもあるのですが、そのお店はいつも満席に近いんです。みんな喫茶店らしい空間を欲していたみたいですね。
そういえば、水曜日の植松さんの「男のメガネは〜」を読んで、いくつかラジオドラマにならないかなぁと思っていたのでした。喫茶店が舞台の回もあったので、思い出しました。(ここでコメントする?>私)
がっちゃんさんのYAMATOYAは、どんな物語なのでしょう。楽しみにしています。
がっちゃん Post author
れこさま
はじめまして。コメントありがとうございます。
ジャズファンでいらっしゃるんですね!
どのように楽しんでらっしゃいますか。
私は仕事から帰って、ビールを飲みながら、お気に入りの一枚を聴きます。
至福の時です♪
あと、さりげなく番組のBGMに使ったりもします。
YAMATOYAは数年前に店を改装して、おしゃれな雰囲気になりました。
外国人観光客も、やってきます。
ジャズ喫茶って、日本独自の文化みたいですね。
ぜひ御贔屓に♪
がっちゃん Post author
okosamaさま
はじめまして。コメントありがとうございます。
カウンター8席の喫茶店、魅力的ですね。
コーヒーは飲む時間より、淹れる時間の方が大切なんだって、
どこかできいたことがあります。
店主が丁寧に淹れてくれるコーヒー、贅沢な一杯ですね。
おお、ラジオドラマ!
(植松さんに脚本書いていただいたりして)
私は本格的なラジオドラマはつくったことがありませんが、
知り合いの放送作家によると、大変味わい深いものらしいです。
効果音作りひとつとっても、おもしろいそうです。
例えば、雨が降る音。
かぶせる会話によっては、天ぷらを揚げる音に聞こえるのだとか。
(では、キャベツを刺す音は、何に聞えるでしょう…?)
あ、ラジオの舞台裏、ひとつ書き忘れました。
特番の時に一番大切なのは、おいしいスタッフ弁当を用意することです。
私は15年くらい前から、同じ弁当屋さんに注文しています。
毎回、おばちゃんが、心こめて作ってくれるんです。
がんもどきの煮浸しなんて、最高です♪