ジュテームの彼方、20年ぶんの埃かぶって、いま。
お寒うございます。お久しぶりの方も、初めましての方も、寒さ厳しき如月の週末を心安らかにお過ごしでしょうか。
こんにちは。じじょうくみこでございます。
「近いうちに、崖のところで会いましょう」なんつって言いながら、気づけば丸2年がたっておりました。半年後には復活する予定だったのに、2年ってどういうことですか。わたしの2年はどこへ行ったんですか。ワープかなんかですか。深町くん来たんですか。
時かけごっこをしている場合ではございませんでした。
初めましての方もいらっしゃるかと思いますので、さくっと自己紹介などさせていただきますと、わたくし「じじょうくみこ」と申します。長らく東京でフリーライターをやったり派遣で食いつないだりしながら、カツカツでトントンでキンキンな独女生活を送っておりましたが、思うところあって婚活にいそしみ、48にして離島の五十路男ズジョウ・ザビエル氏(通称ザビ男)と結婚。絶海の孤島・シマ島での慣れない暮らしに四苦八苦して、もうすぐ5年になろうかと
ちょ、5年⁉
すいませんちょっと自分で驚いてしまいました…。いやーそうかそうか、5年なのか。まだ5年なのかあ。
もう20年くらいたったような気分ですよ。いやそれぐらい島になじんだって意味ではなくて、「5年にしてはいろいろありすぎ」ってことなんですけどね。とにかく毎日これでもかってくらい事件が起きるもので、正直、何から書いていいのかわかりません。わからないので、いまいちばんホットな話題から「崖待ち」サードシーズンを始めようと思います。それでそのホットな話題というのがですね、
大晦日にね、 家を追い出されたんですよ。
住み慣れた東京からシマ島へ引っ越して、ザビ男とのふたり暮らしをスタートさせたのは、集落のはずれにある小さな家でした。覚えていらっしゃる方もいるかもしれませんが、以前「ジュテームのとなり、マイケルの奥。」という記事で書いた、例のおうちです。
そもそも同じ集落にはザビ男の実家があり、20年以上使っていなかった離れをリフォームして住もうというのが最初の計画でありました。ただ、内地から遠くはなれた離島には大工さんが少なく、資材も輸送費がかさんでバカ高。おまけに島時間ではたらく職人さんは動きもゆったりで、やっとこ見積もりにきてくれたと思ったら今度はあちこちでずさんな工事が発覚し、リフォームするにはそうとう手強い物件であることが判明。
これはいかんということで急きょ借りたのが、「ジュテームのとなり」だったのでありました。そこは内地に住んでいるザビ男の親戚、サトコおばさんが海水浴シーズンの間だけ利用するサマーハウスのようなおうち。2部屋だけの小さな平屋でしたが、生活に必要なものは完備されているし、もともと物に執着がないザビ男と、長年狭いアパート暮らしをしていたわたしにとっては、じゅうぶんすぎる広さでした。
長いこと使われていなかったらしく家のまわりは竹藪と化していましたが、いざきれいにしてみると巨木が生い茂る広い庭には風がよく通り、なんとも心地よい空気がただよっています。朝には鳥のちゅんちゅんいう声で目覚め、夕方には木々のすきまから燃えるような夕陽を浴び、静かな夜は思い思いにゆったりすごす…なんて環境なんだから、百歩譲っても最高です。
ここだけの話「両親と同居しないで済む」って
喜びのほうが 勝ったわけなんですけどねエエ
とにかくあまりの居心地のよさに、ザビ男もわたしもすっかりその家が気に入ってしまったのです。幸いにもサトコおばさんは、今後その家に住むことはないとのこと。「家を放っておくのも不安だし、できればふたりにずっといてほしい」なんて頼まれてしまったものだから、じゃあリフォームやめてここ住んじゃう〜? あわよくば家を譲ってもらっちゃう〜? なんつって調子ぶっこいていたわけなんですけどね、
それからのおよそ5年間、ザビ男とわたしはジュテームのとなりで、なかなかに奇妙な新婚生活を送ることになったのでございます。
くわしく申せばその家には、ちょっと複雑な事情がありました。というのも後でわかったのですが、建物はたしかにサトコおばさんのものですが、土地はおとなりのジュテームさんのものだったのです。ジュテームさんはサトコおばさんの親戚で、つまりザビ男とも遠い親戚。そしてサトコおばさんとジュテームさんの間で25年だか30年だかの賃貸契約が交されていたらしく、その契約がもうすぐ終わるらしいのです。
そのことを、通りすがりの見知らぬじいちゃんから教えてもらいました(全員顔見知りの離島あるある)。「ずっと住んでいいわよ〜」って住めないじゃん! って話なんですが、もともとリフォームが終わるまでという約束だったわけですから、まあそんな都合のいい話なんかないよねーで終わるはずだったのですが。
問題なのは、おとなりのジュテームさんです。ジュテームジュテームいってますけど、ガッツ石松そっくりの小柄なおいちゃんなんですけどね、とにかくそのジュテームさんがちょっと厄介な人物だったのであります。
ジュテームさんのおうちはかつて大家族で暮らしていたらしく、古いけれど趣のある立派なお屋敷でありました。ところが、なんやかんやあって一家は離散。ひとり残ったジュテームさんもシマ島の中で問題を起こし、島を出てあちこち転々としていたと聞きます。わたしたちが住み始めたころも、ジュテームさんは近くの島ではたらいていて、大きなジュテーム邸は暗闇に包まれているのが常でした。
ところが住み始めて1年くらいたったころ、夜な夜なジュテーム邸に灯りがつくようになったのです。しばらくして、ジュテームさんが体を壊して島に帰ってきたことを風の噂で知りました。仕事ができなくなったジュテームさんは、1日じゅう家で酒をかっくらって過ごし、やがて貯金が底をつくと生活保護を受けるようになりました。
それでも不摂生をやめられず、生活保護費で酒を買っては家にこもって呑みつづける日々。ひとことで言えば、
ろくでなし
ってやつですね。
それだけなら「感じの悪い隣人」で済むのですが、病院がないシマ島では急患が出ると救急ヘリで内地の病院へ運ばれるシステムになっています。そしてヘリには必ず、つきそいが同乗することが決まっています。このろくでなしジュテーム、ろくでなしゆえにしょっちゅう体を壊します。でも、家族はいないのです。そうするとどうなるかというと、
となりに住んでいるザビ男がヘリ同乗者に抜擢されるんですね〜
そんなわけでジュテームが帰って以来、ザビ男はやれ診療所だヘリ搬送だと呼ばれまくりでゲンナリ。おまけに行方不明だったジュテーム兄が亡くなったときには、ザビ男がジュテーム邸をすみずみまで掃除して、葬式まで世話してやったのでありました。
もうひとつ、この家には厄介ごとがありました。そう、大家のサトコおばさんであります。
サトコおばさんの家を借りたといいましたが、正確に申しますとサトコさんの家を「タダで借りた」ということになります。というのも、サトコさんは「親戚だから」と決して家賃を受け取ってはくれなかったのです。お金はいらない、リフォームも好きにしてくれていい、ただ家財道具はそのまましてほしい、というのがサトコおばさんからの条件でした。
いやいやいや
家財道具そのままだと住めないんですけど? と思うのですが、サトコさんは頑として譲りません。時間をかければどうにかなるかと思っておりましたが、そうこうするうちサトコさんの認知症が急激に進行。次第に辻褄の合わない話が多くなり、反比例するようにモノに対する執着心が強くなるのか「家のモノはぜったいに捨てないで」とくり返すばかり。
結果としてわたしたちは、2間しかない小さな家で他人の荷物に囲まれて過ごすという、借りぐらしのアリエッティ的な毎日を送ることになったのでありました。
それだけじゃありません。普通アレですよね、人に家を貸すっていうのは「家をまるっきりあけ渡して立ち入らない」ってことじゃないんですかね? わたしはそうだと思っていたのですが、シマ島ではまったくもって様子がちがっておりました。
その家で暮らし始めてから数ヶ月ほどたったころ、急にサトコおばさんの娘であるタマキさんから、わたしに電話がありました。タマキさんとは面識がありませんでしたので、なぜわたしに連絡が来たのか不思議に思ったのですが、
「再来週に1週間ほど、家族でシマ島へ行きます」
「ああ、そうなんですね」
「よろしくお願いします」
「は、はあ……(?)」
これはアレだな、いつもの短い言葉にありとあらゆる意味を含ませる島トークだなと思い、港まで迎えに来いってこと? 車を貸してくれってこと? 食事をごちそうしろってこと? と早速ザビ男に解読してもらったところ、つまりはこういうことでした。
よろしく=家主が帰ってくるんだから、家どいて?
なんと…。
賃貸物件を家主が使うってこと、あるんですか? 借家とはいえ、仮にも大人の夫婦が生活している家ですよ? もっといえば、そこはわたしの仕事場ですよ? 想像を超える展開に「え、家を出るの? わたしたちが? 本当に?」とザビ男に何度も確認してしまいました。
本当でした。
本当にタマキさんたちは1週間後にやってきて、当たり前のように家に入ったのです。そのあいだわたしたちは長旅でも出るんかという装備でザビ家に避難し、借りてきた猫みたいに家の片隅でちんまり寝泊まりしながら、なんやかんやとタマキ一家の世話をすることになったのであります。
竹藪ボーボーで廃墟同然だった家が、快適なサマーハウスにもどったことに気づいたタマキ一家は、それ以来しばしば島へやってくるようになりました。サトコさんから「ねえずっといてちょうだいね、むしろ家をあげたいのよ、でも荷物は捨てないでね」といわれる一方、タマキ一家が来島するたび家財道具を背負って行ったり来たり。
こんなことならムリやりでも家賃をわたせばよかったと悔やまれる…。
大好きなおうちだけれど、なにかと厄介なジュテームのとなり。いいかげん引き際かなーとザビ男と話し合い、離れを早めにリフォームできないか大工さんと相談をはじめた矢先の去年。
シマ島は春から悪天候がつづいてリフォームはいっこうに進まず、そこへたてつづけに台風が襲来して島内のあちこちで被害が発生。数少ない大工さんがみんな復旧作業にかり出されてしまい、わが家のリフォームはあっさり暗礁に乗り上げてしまったのでありました。
引越ししようにもできないし、かといって賃貸物件が少ないシマ島では新しい部屋も見当たりません。どうしたもんかと悩みましたが「島内はこんな状態だし、ジュテームもサトコおばさんも無理やり追い出すなんてこともないだろう。今までさんざん世話してやったわけなんだし」というザビ男の読みは甘かった。
まあ普通に追い出されたわけなんですよね(爆)
じつは古いうえにメンテナンスもしていなかったジュテーム邸、先の台風で屋根が落ちるなどの大規模な被害があった模様。日に日に寒さが増してきて、困ったジュテーム氏はこう考えました。
「そうだ、ふたりが出ていけば自分があの家で暮らせるじゃないか!」
そんなわけで突如としておとなりから「早く出ていってくれくれ攻撃」が始まり、わたしたちはクソ忙しい年末に荷造りに追われるハメになり、荷物を車に詰めこむだけ詰めこんで、なかば夜逃げ状態で家を出たのが大晦日。
そして、ぐちゃぐちゃの荷物の山と20年ぶんの埃にまみれながら、ザビ家の離れで2020年さいしょの輝かしい朝を迎えたのでありました。
シマ島に嫁いで、もうすぐ5年。相変わらず崖っぷちな、じじょうくみこでございます。そんなこんなで、次回もまた、崖のところでお待ちしています。
text by じじょうくみこ
illustrated by カピバラ舎
*「崖のところで待ってます。」は毎月第1土曜日更新です(たぶん)。
okosama
おかえりなさい♪じじょくみさん
なんと!
二年のブランクを吹き飛ばすあっぱれな崖っぷちぶり。
サードシーズン楽しみです!ウフ^_^
取り急ぎコメントまで
きゃらめる
お久しぶりです!おかえりなさい!!
益々劇画チックサプライズマーベラスファンタスティックな日々をお過ごしのようで( ̄▽ ̄;)
これからまた楽しみに読ませていただきます。
いまねえ
おおお。。おかえりなさい。
ひとまずはお元気そうでなにより。。
というか、なんかいきなりのジェットコースター展開で
先日観た映画「パラサイト」を思い浮かべつつ
目を丸くしております。
血縁地縁の濃さは外から見るぶんには面白く展開するけど
中の人には・・・
といいつつ、次回以降も楽しみです。
じじょうくみこ Post author
>>okosamasさま
こんにちは! 2年ぶりでもコメント1番乗りありがとうございます〜!
いやほんとに、ネタが多すぎ&1本1本が重たいという
大変難儀なことになっております(笑)
今後ともどうぞよろしくお願いします〜。
>>きゃらめるさま
こんにちは! お久しぶりです〜^_^
まさに毎日が劇画(大衆演劇かもしれない)
今度ともどうぞよろしくです〜。
>>いまねえさま
こんにちは! ただいまです〜。
復帰1本目が重たくて申し訳ない(笑)
これでも軽めを選んだんです(えっ)
玉のじゃく
わー、おかえりなさい!
いきなり怒涛のスタートですね〜
今後の展開からますます目が離せません。似たような環境なので、シンパシーを覚えつつ、エールを送りつつ、楽しみにしています。
じじょうくみこ Post author
>>玉のじゃくさま
こんにちは!遅くなってごめんなさい!コメントありがとうございます^_^
似たような環境なのですか!? それは、ぜひ分かち合いたい(泣き笑い)
今後ともどうぞよろしくお願いいたします〜。
えこ
待ってました!!!!
じじょうさま、本当にだいぶ好きです!
何とか細くながーーく続けて頂きたいなぁぁ!!!(´∀`)と、1ファンとして願っております!
じじょうくみこ Post author
>>えこさま
お返事遅くなりました!メッセージありがとうございます(^^)
今度はなんとか頑張って書き続けたいと、そのように思っております!
またのぞきにきていただけたら嬉しいですー!