第47回 シン・エヴァンゲリオン劇場版
アニメに興味はなくても、ティンパニーが印象的な「ヤシマ作戦」BGMは聞いたことがある人は多いはず。エヴァンゲリオンシリーズのストーリーをざっくり言うと、「人類補完計画」のために、14歳の少年少女がヒト型兵器エヴァンゲリオンに乗ってシトと戦うお話だ。「シン・エヴァンゲリオン劇場版(音楽の反復記号)」は、エヴァ新劇場版4部作の完結編だ。(以下「シン・エヴァ」という。)
1990年代半ばの「新世紀エヴァンゲリオン」テレビシリーズは、再放送を含め途切れ途切れに見ていた。劇中でシンジの保護役をかって出た葛城ミサトが次回予告で「サービス、サービス!」と言っていたこと、ヤシマ作戦のBGMがかっこいいこと、エンディング曲が「Fly Me to the Moon」であることはよく覚えている。
敵であるシトやエヴァンゲリオンのデザインがかっこいい!音楽すごい!とは思ったが、ハマったわけではなかった。女性は体のラインを強調しているし、疎遠だった父親(碇ゲンドウ)が我が子(シンジ)に再会するなり、一刻の猶予もないとはいえ、いきなりヒト型兵器エヴァンゲリオンに乗れと言う無茶ぶりに対して、当時30代ですでに子どもがいた私は、作った人よくそんなこと思いつくね?と、むしろ遠ざけていたと言って良い。
とはいえ。
メジャーなものは見ておくタイプなので、新劇場版第一部「序」第二部「破」はテレビ放映で、第三部「Q」は映画館で過去に見ていたし、最近では親切にも、新作公開前に関連作品をテレビ放映するようになったので、その録画でおさらいして「シン・エヴァ」に臨んだ。
「サービス、サービス!」とミサトの声が聞こえてきそうなほど映像はバラエティーに富んでおり、音楽の美しさに圧倒される。劇場版はいろんなスタイルで魅せてくれるが、特にエヴァンゲリオン8号機が活躍するシーンに、ワクワクした。
そもそもエヴァは道具立てがとても華やかだ。「人類補完計画」「ゼーレのシナリオ」「シト」「ネブカドネザルの鍵」など謎めいた言葉が並び、美しい色彩のエヴァと斬新なデザインのシトがぶつかる。次々と緊迫した状況に美しい音楽が流れる。ついそちらのヒトならぬものに目がいってしまうが、ひとの普遍的なテーマを扱っているのは間違いない。
キャラクターは皆何かしら欠けている。あるいは「無い」と思い込んでいる。「無いもの」を覗き込んで覗き込んで、「無いもの」に引きずり込まれている。そして世界も引きずり込んでいる。(個人の見方です)
そんな彼らが「シン・エヴァ」でケジメをつけた。それは還暦近い私でも納得する終わり方だった。「序」「破」「Q」で、ミサトや加持やゲンドウがシンジにかける言葉の意味や、人類補完計画の全容もほぼ明らかにされている。もちろんゲンドウの無茶ぶりの理由も。(ほのめかされているというべきか)
ようやく終わったのだ。でもユーロネルフや北米ネルフなど、補完すべきことがあるでしょうに…と、なんならエヴァ・ロスの感すら残っている。かつて遠巻きに見ていた私も、若かったということでしょうか(笑)(ネタバレ回避のため、ここまでとします。)
今月22日放送予定の「プロフェッショナル 仕事の流儀」にエヴァの庵野秀明総監督が登場する。とても楽しみです。
緒方恵美さんに、お疲れさまでしたと言いたい。彼女は、テレビ放映開始から25年間、主人公の碇シンジを演じてきた。新劇場版第二部「破」の14年後が第三部「Q」なのだが、主人公の碇シンジは14年間眠っていたという設定だ。そしてシンジは今回の「シン・エヴァ」でも第一部「序」と同じ14歳の心のままだ。(その他のキャラクターは環境変化を反映しているので、シンジはウラシマ状態といえる。)
声だけで演じることは一種の精神労働だろうと思う。シンジは毎度毎度、シト化した仲間と戦ったり、人類滅亡の危機を引き起こしたり、友人が目の前で自爆したり、これは一発で崩壊するのでは?というほどの精神的ダメージを受けている。シンジを理解し14歳のシンジをキープする緒方さんに、私は深い畏敬の念を抱いている。
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昨日、アニメーターの大塚康生さんが逝去されたそうです。
故人のご冥福をお祈りいたします。
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