第111回 チ。-地球の運動について-
『チ。-地球の運動について-』のアニメーション制作はマッドハウス。魚豊による原作漫画は第26回「手塚治虫文化賞」マンガ大賞を受賞している。
中世を舞台に、地動説の継承とそれに対する弾圧を描いたものだ。作者によれば、カタカナの「チ」は「地(面)」「血(液)」「知(性)」を意味する。画面も暗いし、けっして明るくはないストーリーな上、異端審問官ノヴァクの血塗られた仕事(特に初回)がえげつないので、万人向けではないかもしれないが、私にとっては今季No.1作品だ。
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以下、中盤から。大きくネタバレになるけれどもお許しください。
教会の教えに反しても、生涯を賭けて美しい真理(地動説)を残したい。その一心で秘密裏に研究を続けるバデーニら聖職者たち。神の教えにそむくことにおびえながらも、成り行き上彼らに付き従う代闘士のオクジ―。
オクジ―は眼が良いために天体観測を命じられ、それを図に記録していく。彼は読み書きができないので、過去の資料を読み込み研究に取り組むのはバデーニや協力者の天才少女ヨレンタだ。彼らの様子をみてオクジ―は文字に興味を持ち、ヨレンタに文字を教えてもらう。そして日記のようなものを書くようになる。
そんなオクジ―を見て「私もなにか知りたいなぁ…」と唐突に思った。自分の枠組みがガラリと変わるような何かを。
エピソード9で文字というのはどういったものか?とオクジ―に問われたヨレンタの答えと、エピソード10で文字を使うオクジ―に向かってバデーニが吐く不満は、良い意味でショッキングだ。ぼんやり画面を見ている時、ふいに斜めうえから降ってくる考え方に、たじろぐ。素晴らしい原作あってのことなのだが、漫画を先に読んでいると味わえない「!」だ。(これはネタばらししたくないので、ご興味があれば是非、配信か原作で確認していただきたい。)
『働く細胞』のように知識を与えてくれ、自分の身体を大切にしようという気持ちになる作品もあるし、『ベルサイユのばら』のように歴史への興味をそそる作品もある。しかし、そもそもの「知る」ことへの欲求を触発する作品は他に無い。
序盤の神童ラファウのエピソードも見ごたえあり。アニメシリーズは全25話を予定しているので、今後の展開も楽しみだ。
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おそらくこれが今年最後の更新です。
皆さまの穏やかな年末年始をお祈りいたします。
kokomo
SHOJIさん、ラファウのエピソードの衝撃展開で一度は見るのを挫折しそうになりましたが、なんとかくらいついているうちにますます面白くなってきました。
「『知る』ことへの欲求を触発する作品は他に無い」というところに思わず膝を打ちました。先日、新聞に無人島に生息する鳥などを研究している鳥類学者の川上和人さんという方のインタビューが載っていました。聞き手の池上彰さんが、一見社会に役に立っていないようにも思える研究の有益性について質問していた箇所がありました。それに対して、経済活動には直接寄与していないように思える研究も知的好奇心を刺激し、それが私たちの社会の発展に役立っている、というようなことを川上さんはお答えになっていて、はっと目が覚めた思いでした。合わせて「チ。」を見ると、知ることに対して命まで賭けさせてしまう人間の知に対する貪欲さと恐ろしさを同時に感じます。フグも、美味しい食べ方にたどり着くまで命が犠牲になって、それでも食べるのやめない人がいたからてっちりやふぐ刺しがあるんですよねぇ。
「チ。...」は映像のトーンが暗くて何が起こっているのかわからない、という意見が上がっているのをSNSでチラホラ見ました。電気がなかったときの室内の暗さと、それとコントラストを成す星空の美しさとを忠実に表現しようとしているんだなぁ、と感心すると同時に、リアタイして夜に見ている老眼の私には確かにキツい(時々誰が話しているのかは声で判断したりしています)。
「チ。...」はまだまだ続きますが、今日今期の最終話の「ダンダダン」と来週最終話の「夏目友人帳」はSHOJIさんのおかげもあって楽しみながら完走できそうです。今年もSHOJIさんのおかげで充実したアニメライフが送れました(おお、今回は記念すべき第111回の連載ではないですか!)。来年もSHOJIさんの記事を楽しみにしています。
SHOJI Post author
Kokomoさん
「チ。~」が一段落ついたら返信しようと思っていたら、28日も放送があるのでした。変動の時勢なので浮かれ気分ではないとはいえ、その上まだノヴァクが! きついわぁ。ともあれ、これまでのところ私はオクジ―にたいへん影響されているのです。
そうですか、川上和人さんがそんなことをおっしゃっていましたか。西ノ島の鳥類相の調査をなさっているのをテレビで見ました。「鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ」を読んで、たいへんだけど楽しそう!と思ったのを覚えています。即座に役に立つわけではないことほど追求したくなるのが人間なのかもしれません。
とかテキトーなことを言っておりますが、「ダンダダン」では(おそらく)2期で登場するであろう(すぐに役立つ)工学系?の展開が楽しみです。星子のかっこいいセリフも聞きたいし!
過激シーン多めの作品が注目を集めるなか「夏目友人帳」は癒しでしたね。たとえレイコに初めて名前を渡したソラノメからノヴァクの声が聞こえたとしても(笑)
『声』ついでに。今上映中の「劇場版忍たま乱太郎 ドクタケ城最強の軍師」が面白くて、耳福でした。忍たまをご覧になったことがあればぜひ!