引っ越しました(後編、もとい中編)
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前回の記事に、家購入の申し込みが受け入れられた、というところまで書いた。今回はその後のことを書こうと思います。
オファーが通ったと連絡がきたのは、8月の半ば。やったー!と喜んだはいいものの、そこからとんと音沙汰のない日々がはじまった。
イギリスで暮らすひとが綴ったブログや記事などで知っている人も多いかもしれないけれど、イギリスの不動産売買には、「Chain」という謎のシステムが存在する。
どういうことかというと、たとえば家を買いたい人(Aさん)が、今住んでいる家を売ってそのお金で新しい家を買おうとしているとすると、その時点でChainは「1」になる。そして、Aさんが買いたいと思っている家の人(Bさん)が、やっぱりその売ったお金で別の家を買おうとしているとすると、Chainは「2」。さらに、Bさんが買おうとしている家の人(Cさん)がこれまた次の家を買おうとしているとすると、Chainは「3」!最初にもどってAさんが住んでいる家を買おうとしている人がまたまた「売ってから買う」だった場合…(以下省略)
このように、家を買う人が同時に売る人でもある、という状況が連綿とつながると、前にも後ろにもChainがどんどん増えていくことになる。そして、そのすべての家の「売る」×「買う」の準備が整ったところで、契約が一気に動くというしくみだ。その後ろには、それぞれの不動産屋と司法書士が別々に存在する…。
Chain=鎖という言葉が示す通り、きょうふの連鎖式、一蓮托生システム!
つまり家を買おうとする人々は、自分とこの準備が順調でも、つながった家々の状況しだいで、延々と待ち続けることになる。そして、そのうちの一個がコケた場合、ぜんぶまとめて灰燼に帰す、ということもありうるので、最後の最後まで気が抜けないのだ。
無理だろこれ。
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というわけで、当然Chainなしの売り手/買い手が好まれることになる。不動産サイトを見ていると、ときどき「NO CHAIN!!」とうたっている物件を見ることがあるが、そういうわけだったんだ。
わたしたちの場合、賃貸からの家購入だったために、我が家の後ろにはChainなし。そして前回の家探しの記事でもちょっと触れたけれど、この家がいったん別の買い手と契約になったにも関わらず再びマーケットに戻ってきたというのも、Chainのひとつが不守備に終わったかららしかった。聞くところによると、同じ金額でオファーが他にも複数あったのに、わたしたちが受け入れられたというのには、そういう理由もあったのだ。
不動産やさんの話によると、この売買においてChainで繋がっている家はうちを入れて5。そのうちのひとつは、2年くらい待っているらしい!わたしだったらストレスで死んでしまいそうだ。
さておき、わたしたちは、モーゲージアドバイザー(うちは年齢やイギリスでの居住歴の浅さなどを考えて、ローンの算段を一緒に考えてくれる専門家を雇うことにした)とともにすでにお金の借り先の目処をつけていたので、あとは待つだけ。
……そのつもりだった。10月の終わりくらいまでは。
雲行きがあやしくなってきたのは、11月に入り、不動産やさんのほうから、そろそろ今後の日程の段取りが立てられそうだ、という話がではじめたころである。わたしたちの側に思いもよらない事態が出来した。
もともとわたしたちは、オットが義母から相続したワイト島の家を担保にお金を借りるということで、融資先からの了承を得ていた。ところが、最後の最後の本契約の段階で、義母の家が登記されていない、ということが発覚したのである。
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はあ?んなわけない。
だって、相続手続きのときに司法書士がやってくれたはずだし、書類だって受け取っているじゃんか。
ところがよくよく調べてみると、司法書士がやってくれた「この家はオットの名義になりましたよ」という手続きは、「登記」なるものとは別物らしい。
えーーーっ!?
お仕事ってそこまでやって完了じゃないんでしょうか!
さらに、義母の家は1930年代に建てられていらい、今まで一度も「登記」されたことがないという事実も明らかになった。
どうも昔は、というかわりと最近まで、「登記」は必ずしも法的に必要ではなかったらしい。
ちょっと意味がわからない。
しかしときは現代、今はその家がほんとうにオットの持ち家だということが、登記で確認できない限り融資は下りない。
そこであわてて「と、登記、登記を…!」ということになったのだが、調べるとおそろしいことに、登記における「名義の変更」はわりと簡単に手続きが済むらしいのだが、「新規登録」となると、なんと1年以上かかるとHPに書いてあるではないか。
万事休す………!!!
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この段階でこんなことになるとは。今まで悠長にかまえていた時間を返してほしい。
さすがに他の家々に、ここから1年待ってくれとは言えないだろう、となるとわたしたちのせいでChainは崩壊ということになるのか。そして登記が済んでふたたび家さがしを始めたとしても、そのころにはさらに家の価格は上昇しているんだろうなあ…
人生は落とし穴の連続だ。
みじけえ夢だったな…(いったい何度このセリフを…)
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我が家はにわかに暗雲たれこめた。家購入が遠のくのもがっかりだが、スムーズに手続きが進むと思ってわたしたちを選んでくれた売主さんにも申し訳ない。
今まで寛容に「待つ側」だったわたしたちは、にわかに「やきもきして待たれる側」になってしまった。
司法書士さんからのメールにもさすがに焦りがみられて、「登記所に緊急のリクエストを送る」と書いてよこした。
緊急リクエストとは…そんなものがあるのか…
またネットで調べてみると、登記が行われないことによって重大な損失が起こりかねない場合、その旨申請することにより最短2週間で手続きがすむ可能性がある。と書かれていた。「重大な損失」にあたる事案としては、持ち家を失う、契約破棄、など。
これか!わたしたちの場合、「契約破棄」に当たるのかなあ、当たるよねえ…!
ともかく、司法書士さんを信じて待つしかない。
しかし、認められたら1年超が2週間て…、とんだ天国と地獄もあったものである。
天国と出るか、地獄と出るか
南無三!!
………
……
…
はたして、申請は通った。20日後に。
連絡が来たのは、ティーちゃんが逝った翌朝だった。
そこから先は早かった。
Chainのひとつが、1月はじめまでに引っ越しができないと、その先可能なのは3月以降、と言ってきていたらしく、
クリスマス前に本契約!正月早々鍵受け渡し!
とジェットコースターのように進んで今となったのである。
イギリス、やればできる子。
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(後編につづく!)
By はらぷ