アマリリスの再会
去年の年末のこと。
仲良くしていた近所のお花やさんが、しばらくの間、お店を閉めるという告知がSNSで流れた。
理由は店主の体調不良によりとのこと。
年内に1日だけお店を開けると聞いたので、用事を片付け、なんとか夕方遅くにかけつけることができた。「どうしたの?」という私の問いかけに、店主のSさんは「病気になりました」としか応えなかったが、その様子から尋常ならざる事態であることがわかった。それ以上聞くこともできず、その日は、彼女がすすめてくれたマジックアマリリスを購入し家に帰った。マジックアマリリスとは、最近開発された特殊なタイプの球根で水やりも肥料もまったく必要なく、ほったらかしでも花が咲くというものだ。「これ、何ヶ月も楽しめるので絶対おすすめです!」と、勧めてくれたのだ。
それから年が明けて、SNSで閉店を決めたことを知り、ああ、あの日が最後だったのだと分かった。
SNSでは、今までお世話になったことへの感謝の言葉と共に、メッセージはありがたく読ませてもらうけれどもお返事はできない旨が書いてあった。それでも私はいてもたってもいられず、Sさんにメールを書いた。返事はなくてもかまわない。ただ自分の気持ちを伝えておきたかった。
返事はこなかった。
☆
それから3週間ほど経ったある日、アマリリスが開花した!大輪の花を2つもつけて、立派に堂々と開いてくれた。Sさんに見せたくて写真を撮って送った。
「アマリリス咲いたよ!」ただそれだけを伝えたくてメールを書いた。すぐに返事が来た!
返事を期待していなかったので、うれしくて飛び上がって喜んだ。すぐにまた返事を書いた。
石田ゆり子さんも育てているというマジックアマリリス
数日後、アマリリスの絵を描いてみた。絵なんて描いたことないのに、なぜだかどうしてもこのアマリリスを描きたくなって100円均一で買った色鉛筆で描いてみた。おもったより上手に書けた。
絵が上手に描けたので、Sさんに見せたくて送ってみた。すると「お上手ですね~と褒めてくれ、またミキティさんとお会いしていろいろ話したい」と書いてあった。またもやうれしくて飛び上がり、早速返事を書いた。
初めて書いた絵なので暖かい目でみてやってください
そして数日後、一緒にランチをすることになった。Sさんからのメールで、今は数週間ごとに点滴の治療中であること、副作用でだるくなる以外は元気に過ごせていることを聞いていた。
3ヶ月ぶりに会ったSさんは、はちきれそうな笑顔でとても元気そうだった。ふたりで抱き合って再開を喜んだ。席について、早速切り出してみる。「何があったの?」
すると、彼女は、これを言うとひいちゃうから、言わない方がいいような気もするんだけど、と、躊躇し、少し間をおいてから、小さな声で肝臓と腎臓のステージ4のガンであると語った。どこかでその答えを予測はしていたけれど、やはりこうして聞いてみると重たい響きとしてじわじわとわたしの中に浸透してきた。
「うん、そっか。そんな感じの病気かなとは思っていたよ。だってさ、あんなにばたばたと急にお店を閉めるということは、命にかかわるような病気なのかなって。」
それから、病気の発覚から、検査入院、転院、現在の治療までのすべてを話してくれた。この病気の5年生存率が17%であることも。
その数字には、正直、ひやっとしたけれど、「いやいや、それは単なる数字の話しであってぜんぜん関係ないよ。」と強気に答えると、彼女も「私も17%の方に入ると思っている!」と返してくれた。
重たい話題であるけれど、わたしたちはよく笑った。傍目にみたら、楽しい話題で語らっているように見えただろう。Sさんは、「ミキティさんが明るく聞いてくれるから本当に助かった」と何度も言った。別の友人と会ったときに、病状を知らせるとショックを与えてしまうからと最初は病名については言わないようにしていたけれど、相手がしつこく尋ねてくるので、仕方なくステージ4のガンであることを告げたそうだ。するとその友人は目の前で泣き出してしまったそうだ。そのときは、とても困ったと言っていた。「聞くなら覚悟を持って聞け!」私は憤りもあらわに、その泣いてしまった見知らぬ友人をなじった。
Sさんは、「負け惜しみじゃなくって、たくさんの人から励ましやお花や贈り物をもらって、わたしはこんなに気にかけてもらってたんだと、幸せを感じている」とも言った。「何かの研究で、たくさん祈ってもらった人の方が、治癒率が高くなるって聞いたことあるよ。人の想念や祈りはぜったいに大きな力になることは確かだから。」とわたしは答えた。
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あの日、アマリリスの球根を買わなかったら、この日の再会はなかったかもしれない。あの日、アマリリスを買った瞬間から今日のこの再会が約束されていたかと思うと、すべてのことは、良い方に転がるようにあらかじめ仕組まれていることがよくわかる。
この世界をちゃんと信じていこうと思った。
春の球根の寄せ植えを作りました!