リコメンドとか、その辺のこと
ネットで買い物をすると、「この商品を買った人は、こんな商品も買っています」などという表示が現れる。これをリコメンドとか言うらしい。ネットのことだから、ネットで調べてやれ、とググってみると「お勧め」とかそいういう意味らしい。どうも、ネットに懐疑的なので、「らしい」なんて言葉を多用してしまう。
この表示がされると、気になって仕方がない。「そうか、これを買った人はこれも買っているのか。確かに、これがあると便利そうだと思ってしまうと、なんだか我慢できなくなって、ついついポチッとしてしまう。
でも、いつも思うんだけど、これはあれとは違う。ほら、本屋に行って、目当ての本を探しているときに、全然関係ないんだけど面白そうな本が見つかったりする。CDを買いに行って、まったく予期しないアルバムが飾ってあって、ジャケットに心惹かれてしまう。そういうのと、リコメンドは全然違う。
個人的に、本屋とかCDショップは目当てのものを買いに行くところではない。どちらかというと、いらないもの、いるかどうかわからないものを見つけに行くところだと思う。だから、アマゾンだけになってしまうと困るのである。
子どもの頃、家の近くに、とても小さな本屋があった。とても小さな本屋なので、品揃えはとても少ない。雑誌と新刊の小説。あとは、文庫本やノウハウ本が少し置いてあるだけだった。
僕はここで、よく「小学一年生」などの学習雑誌を買っていた。すると、ここのおじさんが子ども向けの漫画入門みたいな本を見せてくれた。僕は驚いた。なぜなら、小学校二年生だったその頃、僕は漫画家になりたいと思っていたからだ。お小遣いが少なくて、その本は買えなかったが、おじさんは「買わなくていい、買わなくていい。立ち読みしていきなさい」と言ってくれたので、僕は心置きなく立ち読みをした。そして、しばらくすると、おじさんが「カメの飼い方」みたいな本を見せてくれたのだった。僕はまた驚いた。だって、その何日か前に、僕は近所の川でカメを捕まえて飼い始めたばかりだったから。
さすがに不思議に思って、僕はおじさんに聞いた。「どうして、僕が漫画家になりたがっていることや、カメを飼い始めたことを知っているの」と。おじさんの答えはとてもシンプルだった。「だって、ここに一緒にくる友だちと楽しそうに漫画の話をしていたり、本棚を探すときに、カメカメとか言いながら探してるんだもん」。そうだったのか、僕の頭の中はバレバレだったのか、と僕は思った。そして、そういえば、おじさんは他の子どもたちにもそれぞれ違う本を薦めていたことを思い出した。
いま思うと、おじさんのリコメンドがどれほど売上に貢献していたのかはわからない。でも、子どもにそうするおじさんだから、大人にもちゃんとリコメンドしていたのかもしれない。だとすると、それである程度の売上があったり、それが次の来店につながったりもしていたはずだ。
もちろん、今の世の中は、ちゃんと勝たないと負けてしまう世の中だ。だけど、そのおじさんが今も生きていて、今も本屋をやっていたとしたら、どんな本屋さんになっていたんだろうと想像することはとても楽しい。今時の女の子に、そっとその子が好きそうな本を差し出したりしたら「気持ち悪っ」と言われたりすることもあるだろうな、と思ったりすると、お勧めの紹介の仕方も、時代によって変化するのだろうと思う。
ただ、あのおじさんのリコメンドが成立するためには、「スキ」は必要だとは思う。いま思い出しても、子どものころの僕はスキだらけだったし、おじさんはおじさんでスキだらけで接客していた気がする。そこには、マーケティングとかそういうシュッとしたものではなく、なんだか、ちょっと間の抜けた勘とか、想像とか、そういうものがあって初めて、おじさんのリコメンドが成立していた。
商売もそうだし、そういえば、映画や小説もそうだと思う。スキだらけで突っ込みどころ満載のものは、ヒットなんてしない。でも、少し前までは意外にそういうスキだらけのものでも、タイミングさえあえば大ヒットということがあったような気がする。
少しでも間違うとバッシングされ、少しでも失敗すると市場から撤退を余儀なくされる。そんな時代だからこそ、せめてスキだらけのリコメンドには復活願いたい今日この頃である。
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植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在、神楽坂にあるオフィス★イサナのクリエイティブディレクター、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京の千駄木で暮らしてます。
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