4月26日はカレー記念日

カレー記念日

背中痛い 言われてのみこむ 私もよ

4月26日はカレー記念日

Jane

投稿はこちら

カレー記念日とは?

加齢を実感したら、それはカレー記念日。
抗ったり笑い飛ばしたりしながら、毎日華麗に加齢していきましょう。

あなたのカレー記念日も、教えてください。
五七五七七形式で、下の句は「○月○日はカレー記念日」なので
上の句の五七五だけ送ってね!

日付は掲載日に変えさせていただきます。

みんなのカレー短歌 一覧 >>

50代、男のメガネは

傘がない。

 

 

『都会では、自殺する若者が増えている』

井上陽水がそう歌ったのは1972年、僕がまだ小学生の頃だ。

 

学生運動が退廃的なムードを醸し出し、しらけ世代を言われた頃に『傘がない』を収録した陽水のアルバム『断絶』はリリースされた。社会問題よりもなによりも、恋人に会いに行くための傘がないことのほうが大問題だと陽水は歌ったのだった。

 

僕が初めてのこの曲をちゃんと聞いたのは、中学生になってしばらくしてから。友だちの家に遊びにいくと、そこの兄ちゃんが陽水ファンでアルバム『断絶』を聞かせてくれたのだった。

 

正直、驚いた。恋人に会いに行くための傘がない、というだけのことを、こんなにも切々と歌い上げるなんて、なんて女々しい奴なんだと思った。そして、こんな女々しい歌を真剣に歌うなんて、なんて面白いんだと思ったのだった。

 

さて、井上陽水の話ではないのだ。本当に傘がない、という話。

 

神楽坂の事務所から近い飯田橋のタリーズ。昼飯を食べ、お茶でも飲もうとタリーズに立ち寄ったのである。秋雨の降る日に。

 

いつも僕は折りたたみ傘かビニール傘を使うようにしている。最近はビニール傘を勝手に持って行くような奴も多いので、傘立てに傘を入れるのがとても怖いのだ。だから、なるべく折りたたみ傘を持つようにして、どこかに入るときには折りたたんで店内に持ち込むようにしているのだ。そして、ビニール傘の場合は「もう、盗まれてもいい」くらいの気持ちである。それでも、盗まれた、という気持ちを味わうのが嫌なので、なるべくビニールの傘入れなどを使って店内に持ち込むのだ。

 

しかし、その日、僕が持っていたのは骨が12本のちょっと良い傘で、なんとなく「こんな傘を持っていく奴は逆にいないだろう」という甘い気持ちがあった。それで、僕は一瞬ためらった後に、傘立てに傘を立ててタリーズに入り、三十分ばかりコーヒーを飲んで出てきたのである。

 

そうすると、見事にない。似たような傘さえないので、探すようなそぶりをする必要もない。ただただ、ない。しばし、傘立ての前でぼんやりしてしまうほど、見事に僕の傘はなくなっていたのである。

 

一緒にコーヒーを飲んでいた僕の事務所のデザイナー女子は、僕よりもわなわなと震えながら、「人の傘を盗むなんて、ろくなもんじゃない」と怒気を含んだ声で言う。でも、僕はなんだか本当に呆然としてしまい、なんとなく地面と足の裏に1センチほど空間があるかのように、ふわふわと歩いている感覚になっていた。

 

いやいや、僕も今までにビニール傘を盗まれたことはある。あるけれど、今日みたいにちょっと良い傘を盗まれたのは初体験だったのだ。そのことのショックに加えて、久しぶりに傘を盗まれたという事実に、僕は軽くやられてしまっていたのだと思う。正直なところ、僕はタリーズの傘立ての前で、少し泣きそうだった。

 

それほど雨も降っていない。なんなら、小走りで地下鉄の入り口を降りていけば、傘などいらないくらいの小降りの雨。それでも、人の傘を盗んでまで行くのかと思うと、なんだか背中がざわざわとしてしまったのだった。

 

もともと、ちょっとくらいの雨なら、僕は傘を差さない。「フランス人だから」とギャグで言っているけれど、本当のところは傘を差すのも邪魔くさいし、今回のように傘を盗られたりしたら、ショックを受けるから、というのが本当の理由だ。

 

例えば、喫茶店でコーヒーを飲んでいるときに、急に土砂降りの雨が降ってきて、店の人が「いろんなお客さんが置いていったビニール傘があるので使ってください」と言われれば僕も傘を借りるかもしれない。でも、それと今回のは違う。完璧に窃盗だ。

 

しかも、それが小さいのが本当にいやだ。盗るときにだって、持ち主本人さえ見ていなければ、絶対に犯人だとはばれない。ばれたところで、「間違えました」と言えば済む。そんな小さな悪事だから、余計にがっかりするのかもしれない。

 

幼稚園のころ、近所に住んでいた友だちのミニカーを勝手に家に持って帰ってきたことがある。その時、僕は泥棒だとか全く考えずに、ただただ友だちのミニカーで、もう少し遊びたい、という気持ちで、隠しもせずにミニカーを手に持ったまま帰ってきたのだった。ちゃんと覚えているのだが、友だちも、そのミニカーの話をしながら見送ってくれたので、彼も盗まれたとは思っていなかったと思う。言ってみれば、なんの会話もないまま、僕は友だちのミニカーを借りたような気持ちだったのかもしれない。

 

それを見て、激怒したのが父だった。友だちのおもちゃを勝手に持って帰ってくるだけで泥棒だ、と父は僕を平手打ちにした。僕が泣いて謝っても許してくれなかった。そして、「○○君も僕がミニカー持ってたこと知ってるねん」と言っても「言い訳はいらない」とまた平手をくらったのだった。

 

いま思うと、それほど裕福ではなかった父は、立派なミニカーを持っている友だちの家に遊びに行くだけでも、良い気持ちはしなかったのだと思う。そして、そのおもちゃを借りてくるほどに欲しがる僕自身に、腹が立って仕方がなかったのだろう。

 

いまになると、父の気持ちはよくわかる。そして、少しでも「盗んだ」と思われるような行動は許せなかったのだろう。僕はそのまま引きずられるように、友だちの家に連れて行かれて、ミニカーを返させられたのだった。

 

以来、僕は人のものなど盗ったことがない。雨が降って自分が濡れるのが嫌だからといって、人の傘を盗ろうなんて思ったこともない。でも、それがまかり通っている世の中だということは知っている。たぶん、それを知っていることが、たかだか傘を盗られたくらいで、僕がこんなにへこんでしまう理由なのかもしれない。

 


 

植松さんとデザイナーのヤブウチさんがラインスタンプを作りました。
ネコのマロンとは?→

「ネコのマロン」販売サイト 
https://store.line.me/stickershop/product/1150262/ja
クリエイターズスタンプのところで、検索した方がはやいかも。

そして、こちらが「ネコのマロン、参院選に立つ。」のサイト
http://www.isana-ad.com/maron/pc/

植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在、神楽坂にあるオフィス★イサナのクリエイティブディレクター、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京の千駄木で暮らしてます。

★これまでの植松さんの記事は、こちらからどうぞ。

 


50代、男のメガネは 記事一覧へ


コメント、ありがとー!

  • アバター画像

    okosama

    uematsuさん、こんばんは…。

    お父様のお気持ち、よく分かります。
    子育てしている間は、そういう事には本当に気を配って、自分んちの子供も他所のお子さん達も見てましたね。

    傘、本当に残念でした。
    今もそういう人がいるのですね。
    え?どうしたんやろ…。て呆然としますよ。

    私もとあるスーパーマーケットで、良い傘を盗られた事があります。まだ傘袋のサービスが行き渡っていない20年程前のことです。

    雨でも出かけるのが楽しくなるように、子育て中の気晴らしにと、買い求めたものです。珍しい色で、柄に名前を彫ってもらいました。

    後日同じ店で、同じ傘をカートに掛けて買い物をしている人を見つけました。こっそり近づいて見ると名前の部分にやすりをかけてあるんです。なので、自分の傘かどうか分かりません。でもなぁ…普通、持ち手にヤスリかけます?
    それ以来そのお店に行くのをやめました。
    今、手持ちの良い傘は折りたたみ傘です。

  • アバター画像

    uematsu Post author

    okosamaさん

    やすり…、すごいなあ。
    やすりがかけてあるって…。
    あかん、短編が書ける。
    人間の出来心とか、諦めとか、
    憎悪とか、開き直りとか、
    いろんなものが、名前にやすりをかける、
    という行為に隠れてそうですねえ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。また、コメントは承認制となっています。掲載まで少々お待ちください。


コレも読んでみて!おすすめ記事

今週の「どうする?Over40」

「どうする?Over40」は、4月27日(土)~5月5日(日)までお休みします。(ただし、「カレー記念日おかわり」は更新してます)

カレー記念日 今週のおかわり!

すればよかった 振り返るのも また一興

いろんな言葉

That’s Dance!文字起こし 第6回(episode16) やっかみかもしれませんが‥番外編も兼ねて

60代、男はゆっくりご乱心

さて、どこに住もうか

ミカスの今日の料理 昨日の料理

おばさんは楽しみを作り出す: チージーエッグ

かわいいちゃん

体重

母を葬る

(10)親子という仕組み

山あり谷あり再婚ライフ

60代若いのか年寄りか?

出前チチカカ湖

第196回こう見えて一途(いちず)です。

なんかすごい。

春の地響き

四十路犬バカ日和

ペットタクシーで病院に行ってみた!

OIRAKUのアニメ

第101回 アストロノオト/終末トレインどこへいく?

黒ヤギ通信

桜の下、草葉の陰

ゾロメ女の逆襲

【月刊★切実本屋】VOL.80 朝ドラと『化学の授業をはじめます。』の化学反応

夫亡き日々を生きる

カリーナからゆみるさんへ 2023年2月4日

絵手紙オーライ!

絵の具セットの思い出

昭和乙女研究所

ファンシーケース

いどばた。

凹むこと最近ありましたか?

じじょうくみこの崖のところで待ってます

はなやぐお盆、わたしは墓へとタックルした。

ただいま閉活中

お守りが無くなったら

50代、男のメガネは

『レジェンド&バタフライ』で絶望の淵に立つ。

おしゃれ会議室 ねえ、どうしてる?

人生は引き算である

日々是LOVE古着

(終)これからも。これからは。

これ、買った!

くっつかないしゃもじをもう一度買った!

ワクワクしたら着てみよう

最近思うことをとりとめもなく書いてみた♡

わたしをライブに連れてって♪

コンサートwithコロナ

これ、入るかしら?

行き当たりばったりで失礼します

KEIKOのでこぼこな日常

巣ごもりしてたらこんな買い物を…

あの頃、アーカイブ

【エピソード37】最終回記念、私たちのクリスマス!

フォルモサで介護

私が負けるわけがない

お悩み相談!出前チチカカ湖

【File No.41】 私って多重人格!?

ラジオブースから愛をこめて

ノベルティグッズ

着まわせ!れこコレ

冬とウェディングと後れ毛と

このマンガがなんかすごい。

第15回(最終回):マンガよ永遠なれ!

夫婦というレッスン

津端英子さんの一筋縄でいかない個性と行動力がすごい著書「キラリと、おしゃれ」

ハレの日・ケの日・キモノの日

暑くじめじめな7月

眉毛に取り組む。

総集編!眉毛ケアグッズ&お手入れ用品のご紹介

さすらいの旅人ゆりの帰国&奮闘日記

グアテマラ。そこで見た不思議な光景と懐かしい味

新春企画 輝く!カレー記念日大賞2017

輝く!カレー記念日大賞2017

≪往復書簡≫SEX and the AGE 

「女性の健康を守り、5歳若くなる抗加齢医療」だって。ボーっとしてたら、すごいことになってるね。

最近、映画見た?

第12回 「海よりもまだ深く」

Over40からの専門学校 略して「オバ専」

【オバ専インタビュー】今まで知らなかった「責任感」も含めて、人生が大きく変わりました。

じじょうくみこのオバサマー

四十九歳の春だから。

華麗なるヅカトーク

第8回 型、色、数! 嫌なことがあったら、また観に来る!

サヴァランのやさぐれ中すday ♪

in her SHOES ~ おばばは何を考えて? #8

器屋さんのふだん器

ふだん器-38  飛びかんな

2016 みんなのこれ欲しい!

サヴァランの「これ、欲しい!」。

2015 みんなのこれ買った!

【じじょうくみこ】低反発リクライニングソファ、買った!

ブログの言葉

「別冊 どうする・・・」はこんなことを大事にします。(過去記事より転載)

今日のこていれ

「今日のこていれ」最終回。1年間のご愛読に感謝を込めて。

崖っぷちほどいい天気

崖っぷちより愛をこめて〜最終回はカピバラとともに。

アラフ ォー疑惑女子

「もったいないお化け」の世代間連鎖

とみちっちの単身ベトナム&中国

ベトナムって、ハノイって、どう?

晴れ、時々やさぐれ日記

ああ、感謝。巳年と午年のあいだ。

中島のおとぼけ七五調

中島。の気ままに更新「おとぼけ七五調」12

ムーチョの人生相談「ほぐしてハッケン!」

【主夫ムーチョの相談】娘がご飯を食べません・・・。

ミラノまんま見~や!

連載最終回!「駐妻のここだけの話」にしようかと思ったが…災難に遭う!

ウェブデザイナーとの対談

大きな旗は振れないけど、小旗はパタパタと振れるだけ振っていこうと思ってます。

「最高の離婚」ファントーク

<対談「最高の離婚」最終回>ホームから電車に乗ってしまってキスして・・・ロマンチックでしたね。

スパコレ

美味しい缶詰を教えて!

2014 新春企画

どうする?Over 40 新春企画「物欲俗欲福笑い」♪( メンバー編 )

フォルモサ(台湾)の女

あずみの台湾レポート「やっぱり紅が好き!フォルモサの女たち」(13)〜不景気顔卒業します

ゾロメ女の図書館小説

帰って来たゾロメ女の逆襲 場外乱闘編 連載図書館ゴロ合わせ小説  『ライ麦&博 完結編』 後編

青蓮の「マサラをちょいと」

青蓮の「マサラをちょいと~人生にもスパイスを効かせて~ VOL.12」

Tomi*さんの最適解

「Tomi*さんの最適解。 ・・・白髪とコムデギャルソンとヤフオクと」  マインド編②

YUKKEの「今日もラテンステップで♪」

YUKKEの今日もラテンステップで ~VOL.13

よもじ猫

三者会談

猫No.24  by つまみ

猫大表示&投稿詳細はこちら!

三者会談

猫No.24  by つまみ

よもじ猫とは…

全世界初!?四文字熟語と猫のコラボ!

「よんもじ」と猫がペアになって、ランダムに登場します。
ふだん着の猫の一瞬を楽しむもよし、よんもじをおみくじ代わりに心に刻むもよし。
猫が好きな人も、そーでもない人も、よもじ猫の掛け軸からタイム&ライフトリップして、ときどき世界を猫目線で眺めてみませんか。

みなさんの猫画像の投稿をお待ちしています。

投稿はこちらからどうぞ

カイゴ・デトックス 特設ページができました

Member's Twitter


  • カリーナのBILOGはこちら!「ともに生きる。

  • ZOOMでプライベートレッスン、リモート英会話AQUA
  • BLOG版 ウチの失語くん
  • 植松 眞人さんの本がでました♪「いまからでも楽しい数学―先生と数学嫌いの生徒、35年後の補習授業」
  • 「出前チチカカ湖」連載中 まゆぽさんの会社「シリトリア」

Page up