筏に乗って
先月の最後の週にも書いたけれど、明日から祖父の展示が始まるので、搬入作業をしてきたところだ。(「祖父の人形のこと 原田栄夫作品展」@もりのこと )
何も置かれていない、まっさらな空間に、まずは人形を全部出して、一つの場所にどんどん並べていく。箱から出されたばかりの人形たちは、避難訓練で校庭に集められた生徒たちか、団体旅行の待ち合わせ場所で、所在なげに集合の合図を待っている人たちみたいだ。
それから、ひとつひとつ、置いたり、外したり、順番を変えてみたり、ためつすがめつしながら、いちばん似合う場所を探す。このとき、永遠に決まらないのではと思って、ちょっと焦る。けれど、とったり置いたりをくりかえしているうちに、不思議と、その場に留まるものたちが少しずつ増えていく。そうなるとあとは存外早くて、はめえのピースを埋めるように、それぞれがふさわしい場所を見つけていく。
7月に展示をやらせてもらったアノニムギャラリーと、今回の会場「もりのこと」は、空間の広さも、雰囲気も全然違うけれど、同じ人形が、どちらの場所ででも、ここが一番居心地がいい、というような顔をしているところが、なんだかおかしい。できあがった空間をながめて、かわいいなあ…とにやにやしてしまう。
明日の初日(これが更新されるころには、もう今日だ)のことを考えて、じいさん、こんなところで展示をすることになるなんてねえ、人生、何があるかわかったもんじゃない(もう死んでるけど)、と思う。
そして、人の縁が運んでくれる距離のことも考える。
このギャラリーとの出会いは去年のことで、「ちいさないきものと日々のこと」と題された展覧会に合わせ作られた、同名の冊子の中で、私はうちの猫のティーちゃんのことを書いた。
その冊子を編纂したのが、暮しの手帖で祖父の記事を書いてくれた、渡辺尚子さんだった。
取材の時に会ったっきりの、物書きでもない私に、どうして渡辺さんがこんなことを頼んできたかというと、取材のあとにこの「なんかすごい。」で書いた、「祖父が取材を受けた話」を渡辺さんが見つけて読んでくださって、ついでに過去の猫の記事もさかのぼって読んでくれたからだったと思う。
もうせん、この「どうするov40」のウェブサイトは、友人のつまみさんが書いていたので、いつも更新を楽しみに読んでいた。
そのときは、自分が書き始めることになるとは夢にも思ってもいなかったが、40歳になった年に、つまみさんの担当する木曜日をひとつもらう形で、なかまに入れてもらうことになった。つまみさんがお家のことなどで忙しくなり、毎週の更新が難しくなりつつあったときに、「はらぷが書けば!」と例のあの調子で言ったのだった。
そのときちょうど40歳だったのは、単なる偶然なのだけど、もし39歳だったら、それにかこつけて、怖じ気づいていたかもしれない。
さらにその前、2年くらい前から、失業をきっかけに、ほそぼそと誰も読まないブログを書いていた。勤めていた職場(図書館)が民営化されることになって、その3月で仕事を辞めた。失業期間中、ぼやぼやしていると脳が退化してアッホになるに違いないので、リハビリのために始めたブログだった。
つまみさんとは、その図書館で出会って、約3年間、一緒に働いた。
正確には、その図書館が開館する9ヶ月前、新館準備の係に配属された私たちは、間借り先の中央図書館の事務室で、出会ったのだった。
無理難題ばかりおしつけられた新館準備の9ヶ月間、私たちは悪態をつきながら馬車馬のように働いて、仲良くなった。これって同期の桜みたいなやつだろうか。
そして、つまみさんがものを書くひとで、長い間、本当に長い間ブログを書き続けていることを知った。
つまみさんを知るまで、私はどこかで、「書く」ということはなにか、遠いところの人がやっている特別なことだと思っていた気がする。でも、つまみさんはすぐ隣にいて、俯瞰でみれば月並みかもしれない、でもひとりひとりにとっては切実な日々にふりまわされつつ、足はそこにおいたままで、たとえば読んだ本や、映画や、日々感じたことについてものすごく骨太な文章を書いていた。
豪快さと繊細さ、俯瞰と近視眼、楽観主義と弱音のあいだをいったりきたりし、時にはスコッとはしごを外したりもしながら、日々のもう一歩先、見えない後ろを見せてくれる。
ぶじ開館なった図書館で、日々の業務に加えて特集棚をつくったり、イベントを企画したり、誰にも頼まれていないのにニュースレターを作成したりするつまみさんと、つまみさんの文章は、一直線につながっていた。
うまく伝わるかわからないのだけど、隣に立っている人が、その場所に居続けながら同時に物を書いている、ということがありうるのだと、つまみさんに出会ってはじめて知った。
ブログをはじめたのも、はっきりいって彼女の真似ではじめたわけで、さかのぼればこの一連の源流は、つまみさんだってことなのか。そこまで思いいたって、なんとなく、川の上流で土から半分顔を出している土偶、みたいな想像をしてしまったことをゆるしてもらいたい。
作品集『祖父の人形』を作るきっかけをくれた浅生ハルミンさんとも、この図書館のイベントを通じて知り合った。今回の展示に合わせて新しく作った冊子、『祖父の創作ノート』に、ハルミンさんはそのことを書いて寄稿してくださっている。
8年間が、まわりまわって、輪っかのようになっている。
ひとつのことが、また次のなにかをもたらして、わたしたちは常に移動の渦中にある。
「すべてのできごとには意味がある」式の思考に組する気は毛頭なく、世の中は起こらなければよかった出来事ばかりだけれど、たとえばカリーナさんが作ってくれたこのウェブサイトを、波間のちいさないかだみたいに、こころのたよりにして、おーいこっちだよ、そちらはどうだ、と声をかけあいながら、今日もなんとか生きている。
これを書きながら、最初にここで書かせてもらってから、ちょうど丸三年になることに気がついた。
たった三年、比較的おなじところにとどまっているような私でも、まるで潮に流されるみたいに、気づけばずいぶん沖まで流されて、見える景色はずいぶん違う。
By はらぷ
※「なんかすごい。」は、毎月第3木曜の更新です。はらぷさんのブログはこちら。
※はらぷさんが、お祖父さんの作ったものをアップするTwitterのアカウントはこちら。
maki
本日(9/20) にもりのこと展示にお伺いしましたK市の者です。
ブログで拝見していたお人形と、ブログ主さんにお会いできるだなんて、とてもとても嬉しかったです。
ももいろのきりん、可愛かったなぁ。
あまりにも愛らしくて、あたたかくて、立ち去り難かったです。
素敵な展示をありがとうございました。
いまねえ
はらぷさん、今日はお目にかかれて嬉しかったです。
こちらからお声かけしようかなあ、どうしようかなあと
思っていたんですよ、これで案外人見知り。
で、はらぷさんのほうから「あれ?見たことあるか・・な?」
という表情されたので、はいそうです、えへへ・・と。
アノニムギャラリーには行けなかったので
今回は是非とも行くぞ!と計画してました。
写真でしかみていなかった作品たち、
実物は、おお、本当に「ちり紙」「紙粘土」だ。
こじんまりしているのだけど
馴染んだ顔してしっかりそこに居るから、すごいなあ、
というのが正直な感想、そして
なんだか物を作るのって楽しそうだよねと思いました。
加えて、からくり覗き箱、気に入りました。
こちらの記事を読んで、はらぷさんとつまみさんの出会いが
8年ほど前らしいと分かって
今日、はらぷさんにいつ頃からカリーナさんのブログを
読み始めたのですか?との問いをいただいたのに
はっきりと何年前と思い出せなかった。
その回答になるぞと気づいたのですが
私が白髪染めをやめたのが52歳前後。
ということはそのあたりに
カリーナさん個人ブログを探し当てたということになります。
染めるのをやめるの、不安だったんですね。
そうそう、「ティム・ガン」の話題の頃だ。。
やはり8年近くになるのかなあ。。
はらぷ Post author
makiさま
20日は、お越しくださいまして本当にありがとうございました!
どこかでお目にかかったことが…?と思ってお声がけしてみたら、なんと同じK市民!
不思議ですねえ…。もしかして、朝市とかですれちがっている…?
ももいろのきりん、かわいいですよね…!
おふたりが、とても楽しそうに時間をかけて見てくださっているのを拝見して、すごく嬉しくて、じーんとなってしまいました。
そして、私が虚空に向けて書いていると思っていたブログを、まさか読んでいてくださったなんて…仰天です。
そしてそれが同じ市の方だったとは、世界はひろいんだかせまいんだかわかりません。
教えていただいたカフェ、行ってみます!
はらぷ Post author
いまねえさま
20日は、遠いところわざわざお越しくださいまして本当にありがとうございました!
なんだか素敵な人が来た、と思って、お声がけしてみようと近くに行ったら(←あやしい動き)、ん?このにこにこ笑顔は…どこかで知っている…
そしてとっさに、「あッアノニムギャラリーに…?」と口走ってしまったのですが、にわかに「いやちがうよ、オバフォー祭りだ!いまねえさまだ!」と気がつきました。
ほんとに、人の顔をおぼえるのが苦手で大変な失礼を…。
「物を作るのって楽しそう」
本当に、まさにこれに尽きますよね!実物を見ていただけて、とても嬉しかったです。
そして、皆がとりこになってしまう、不思議な覗き箱。
あれを誰かが見始めると、ギャラリーにいるお客さんがみんな吸い寄せられていって、わいわいとお話をはじめる、というまことに不思議なパワーを持った魔法の箱です。
あの、小学生の工作のような外見と、覗いてみたときの豊穣な空間のギャップがたまりません。
いまねえさまがカリーナさんのブログに出会われたのも、同じくらいの時期なのですね。
インターネット上に無数にあるページの中で、偶然見つけた一つのサイトが、いつのまにか深く人生に滲み込んでいく、というのは不思議ですねえ。
それから8年、いまねえさまな髪の色は、ショートカットにしっくりと馴染んで、水玉ワンピースととってもよくお似合いでした。
なんだか、人形とおそろい!と思ってしまいました。
またお目にかかれたら嬉しいです!