2冊のZineと1冊の本
カリーナさんが昨年新聞で連載していた「献身と保身のはざまで」が書籍化されることになった、という嬉しいニュースを聞いて、先立ってこのサイトから生まれた2冊のZine、『カイゴデトックスへようこそ』を読みなおしている。
ご存知の通りこのZineは、ミカスさん、Cometさん、つまみさんがウェブサイトを飛び出して企画したイベント「カイゴ・デトックス」をきっかけにして生まれた。
2018年7月に行われたそのイベントが、あまりにもよくて、その場にいた人だけではもったいない!というわけで、「じゃあZine作ろうぜ」となったのは、職場でも、誰にも頼まれていないのに軽々しく図書館通信だの配布物だのを作りがちであったつまみさん(つまみさんと私は元同僚の間柄です)に寄るところが大きいとわたしはふんでいる。
そして、元はといえばこのイベントの企画そのものが、「ミカス・クッキング」を連載しながら、「美化しない」「黒い気持ちに黒く寄り添う」介護当事者の生身の場を作りたいと考えたミカスさんがいて、そこに言語聴覚士という介護の専門家であり、編集者としての目も持つCometさんがいて、数年前から介護当事者となったつまみさんがいて、ov40というプラットフォームがあって、はじめて実現したことなのだった。
「カイゴ・デトックスへようこそVol.1」には、イベント書き起こし第一弾として、おもに3人の対談が収録されているのだが、それを企画している段階から3人は、「イベントの参加者のお話がものすごくよかったから、それもなんとかまとめたいよね」という話をしていた。
念願かなってできたのが、この間出た第2弾というわけである。
読んでいると、様々な立場で介護に関わっている(あるいはまだ関わっていない、または予兆を感じている)参加者の、生の言葉のエネルギー、出口を見つけた奔流のような勢いを感じる。それは、ほんとうに切実な、ヘビーな話の数々なのだけれど、同時に突き抜けていて、とんでもなく面白くもある。
その「とんでもなく面白い」あれこれを、ふだん参加者の方が「面白い」と認識しているかどうかはわからない。ほんとうはつぶれそうな思いで抱えてきたことなんじゃないだろうか。
でも、それをエクストリームな面白さとして語れる空気が、当日の会場には漂っていたのだと思う。ここでなら、普段ふたをしてきた黒い気持ちや、呪詛や、ときおりよぎる残酷な思いを、笑いと喝采で受け止めてもらえるという安心感が。
Vol.1の3人の対談を読み返していて、あらためて「ああ、この対談があってこそ、皆のあの話が飛び出してこられたんだな」と思った。
対談の中で、当事者であるミカスさんとつまみさんは、迷える渦中のひとだった。そして、介護を「家族愛」や「美談」に落とし込もうとする周囲を破竹して、黒い気持ちを肯定し笑いに変えるだけでなく、自分たちの中にある「いい子」や「美談にしたい気持ち」も、ときにはあっていいじゃん、と言っている。そして、絶妙な黒さと冷静さで2人の話を引き出していくCometさん…。
それこそが、皆が安心して「黒い気持ち」を吐き出せた理由かもしれない、というのが、今回新しく思ったことだった。
もうひとつは、3人が、言葉を使ってものを伝えられる人ということだ。自分が使う言葉の効果や伝わり方をちゃんと知っていて、気持ちを言語化することができる。相手の言いたいことを誠実に誤解なく受け止めることができる。話しているときに、本人たちは意識していないかもしれないけれど…。
それがわかるから、自分が何を言っても、ちゃんと理解してもらえると、参加者の皆も思えたのではないだろうか。
もとはといえば、カリーナさんの作ったこのov40ウェブサイトに、3人が書いているのを、みんな読んでいる。そこに信頼の土台はすでにあったのだろう。
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そして今回、カリーナさんの連載が書籍化されることになったきっかけが、昨年11月に行われたイベント第2弾「カイゴ・デトックスin京都」だったということを、カリーナさんのコラムで読んだ。
すべてがつながって、パズルのようにこういうことになった。世の中は、ふしぎ。
2018年に最初のイベントが行われたとき、カリーナさんのオットはまだ倒れていなかった。2年経って出たVol.2には、そのことについて書かれたカリーナさんの文章も収録されている。
そして、ミカスさん、Cometさん、つまみさん、参加者の皆さんの状況もまた、大きく変化することになった。誰のもとにも平等に訪れる2年間の、なんて違って、なんて孤独なことか。
排泄や、食べるという生命維持活動と同じくらいの切実さで、生きるため、死なないために、書かれなければならない言葉がある。
語られない言葉は、「無い」のではない。「カイゴ・デトックス」は、確かに岩盤に、小さな穴を空けたのだと思います。
カリーナさんの新しい本も、そういう一冊になるのだろうと確信している。
図書館に行って、新聞連載記事を最初から最後まで、ごくごくと水を飲むように読み通したときのことを思い出す。予約した。楽しみ。
『カイゴ★デトックスへようこそ』の紹介ページ→★
カリーナさんの本『夫が倒れた!献身プレイが始まった!』→★
by はらぷ
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※「なんかすごい。」は、毎月第3木曜の更新です。
※はらぷさんが、お祖父さんの作ったものをアップするTwitterのアカウントはこちら。
ずん
カイゴデトックスを知って本当に良かったと心の底柄思っています。
ずっと新聞とっていなかったのにとるようになって初日にカリーナさんの連載を発見!頭に雷が落ちたような衝撃??
失語症になった旦那のために色々調べていたら50歳手前でSTになったとい運動会Cometさんを発見…
そこからカイゴデトックスも知りお二人が繋がっていたことも知りました。
今、また親族のドロドロの中に入り、ついついいい人になってしまいそうな自分に腹がたち、複雑な気持ちになったので
ZINEを読み返しております。
早くコロナが落ち着きリアルで集まれる日を心待ちにしています。
とりあえずはカリーナさんの本を早く読みたいです。
はらぷ Post author
ずんさん
こんばんは。お返事たいへん遅くなりました。
なんと、何かに導かれたかのような発見ですね!初日とは!
そしてCometさんのことは、別ルート(?)でお知りになったと…。
ずんさんの運命の強さを感じずにはいられません。
偉大な手繰り寄せ力!
わたしも、介護とはまた違うのですが、家族のことではなぜか間に入ってあれこれ…という役回りになることが多く、そういうの大っ嫌いなのに、なぜか自らそうなってしまう…
ずんさんの複雑な気持ち、とてもよくわかります。
ほんとうに、一日も早く集える日常が戻ってきますようにと願わずにいられません。
いよいよ明日、カリーナさんの本の発売日ですね。
早く読みたいけれど、揺さぶられるのがわかっているので少しこわい。
ドキドキして待っています。
月見団子
横からすみません。
「揺さぶられるのがわかっているので少しこわい。」
何かにつけつきまとうこの感覚。
漠然と感じてはいても、その正体が掴めなかったんです。
言葉にして下さって、ありがとうございます。
お陰様で、なんとなく以前より楽に呼吸できるようになったかも(笑)
はらぷ Post author
月見団子さん
こんばんは!遅ればせながら(本当に…!)、すみませんなんてとんでもない。大歓迎です!
「揺さぶられるがわかっているので少しこわい」
私はこわがりなので、しょっちゅう逃げ惑っているかもしれません。
絶対に見た(読んだ)ほうがいいとわかっている映画や本、人や場所との出会い…おそらく同じ理由で先延ばしにしているものがたくさん…
直視しなければ、もうしばらくなかったことにしておける(でもほんとうはわかってるから)って、心の中の、ふとんかぶったちいさい私が言うのです。
でも、時々行く本屋さんが言っていたのですが、読まない本も、読みたいと思っただけでその本からすでにもう受け取っている、のですって。
それを勇気にしていこうかと思います。(笑)
そして、昨日遅くに、カリーナさんの本を読み終えました。
しばらくなんだかんだ理由を付けて読み始めるのを躊躇していたのですが、夜中に麩とページを開いて、一気に読みました。
やっぱり、圧倒されました。