わたしは人見知り
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「わたしは人見知り」と言ったら、私を知っている人々に、「は?お前は何を言っているんだ」と言われそうだ。
しかし誓っていうがこれはほんとうなのである。
人がよくいう「私って肌が弱いから」というあれではない。ちなみに私は肌が強い。
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人見知りというと、初対面の人に話しかけられないとか、緊張してうまくしゃべれないとか、そういうやつだ。
それに関しては、私はぜんぜん平気である。緊張やだが、研修などで初対面の人と会っても、ちゃんと話せる。むしろ自分で言うのもなんだが感じのいい人のほうだと言えるだろう。
みんながもじもじしているところで、最初に言葉を発して場を和ませることすらできるくらいだ。それって人見知りなのかよ。
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だって、初対面ってかんたんだ。初めて会った人と話すことって、限られているではないか。名前、場合によっては所属、どこに住んでるか、天気の話、そしてその邂逅の趣旨にふさわしいちょっとした会話と個人情報。これで1日は「感じのいいOさん」で乗り切れる。
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問題はその先である。えっと何を話すの?
もちろん、ほんとうに気が合って仲良くなる人もいる。基本的に、私はたいていの人間は好きだ。若い時には、大人数は嫌いなんて思っていたけれど、年をとってきたせいか、ある程度の人数のなかでわいわいやっているのはとても楽しい。その中では、私は決して寡黙なほうではないかもしれない。
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しかし一対一となったとき、人と人とは、基本どのようなことを話すのか。
そこそこ仲良くなった相手と、当たり障りのない会話をし尽くしてしまったあとに試される人間力。世間話から友人としての会話に移行するその糸口が見つからない。この人、わたしといて楽しいのかな。居心地悪いんじゃないだろうか。
数人で話していても、誰かがトイレに立ったりして、ふと二人きりになる瞬間がこわい。仲のよいグループで、同じように気が合うと思っていて、同じように好きなのに、ふたりきりになれる人となれない人がいるのだ。
しかし誤解ないように言っておくと、緊張する相手も好きなのである。
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同様に、お店などでちょっと顔見知りになったりすると、嬉しいのにそのあとこわくて足が遠のく。行く毎に、舞い上がって挙動不審になり、しばしば出過ぎたふるまいをしてしまう自分が嫌すぎる。常連なんて夢のまた夢である。
礼節と、ほどよい親密さを合わせもった適切な会話、時に気安く踏み込んでしまっても、それが新たな「ほんとうの」関係につながるような人間的魅力、それを意識もせずやすやすとやっているように見えるキラキラとした人々よ…。
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他力本願にもほどがあるのを承知でいうと、相手が何か話してくれたら、それに連想される自身のエピソードなり、知っている話などを返すことができる。しかし自分から、たとえば相手の知らない自分の職場などで、我が身に起こった出来事を、職場の状況や登場人物の説明などを交えつつ面白く話すということがなによりできない。話そうとすればするほど、話がとっちらかり、相手が飽きていないかと恐れるあまりあせって説明を雑にはしょり、かえってますます飽きさせるということになるのだ。だって、私のそんな話興味ある?
しかし、相手からはそういう話が面白いし聞きたいのである。おまえ、めんどくさいんだよ!
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どれもこれも、自意識過剰のなせるわざだと思う。わかってるのだ。自分が思っているより、人は自分のことなんか見ちゃいないし、べつに面白さも求めてない。
嫌われたかもなどとくよくよしても、じっさいは嫌われるほど興味を持たれていないという場合がほとんどだよ。
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自分が楽しいかより、相手が自分といて楽しいかどうかが気になるというのは、小・中学時代、なにかと「おミソ」ポジションだったことが大きいのかもしれないなあ。いまひとつどのグループの正式メンバー(?)にもなれず、積極的にいじめられるわけでもないけれど、みんなの話に入れず常にまごまごしていた。
だからといってみんなの話題についていけるよういそしむこともしなければ、ひとりでもいいや、と思えるほど泰然としてもいなかったという文字通りのまごまごぶりである。
クラスで二人一組になったりするときに、自分と組むことになった子が、なんかびんぼうくじ引いたなあみたいに思っているのがわかって、ひそかに傷ついたりしていた。
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その後順調に「ひとり大好き」に育ち、今はそういう意味でまごまごすることは(あまり)ないけれど、日々の割れ目にちょくちょく、昔のじぶんがのぞいて、「お前、うまくやってると思ってるかもしんないけど、それ化けの皮だかんな。」と言ってくるので油断がならない。
それはわかったから、化けの皮でもやさしくしてほしいのでひとつよろしくお願いします。
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by はらぷ
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※「なんかすごい。」は、毎月第3木曜の更新です。
※はらぷさんが、お祖父さんの作ったものをアップするTwitterのアカウントはこちら。
Jane
はらぷさん。タイトルが傑作で、はらぷさんらしく、大変うけました。写真も記事の内容にぴったり。
私もちょうどこのところ、今日もですが、どのくらいの距離感だと私は人見知りなんだろうと考えていました。
私は初対面の人と1対1で話すのも、大勢の人の前で話すのも、平気です。
よく知っている人とプライベートでおしゃべりする時には、いつも相手よりずっと、早い段階で自分を正直に開示するので、相手が驚いている気がするのもしばしばです。自分でお喋りなのを自覚しているので、「私が今長くしゃべったから相手にしゃべらせないと」とどこかで冷静にカウントしています。
その中間の距離の人に対してはとても人見知りです。相手が通りかかってこちらに気が付いていることが分かっても、気が付かなかったふりをしてしまうこともざらです。もはや挙動不審で感じ悪い?そして私にとっては、このゾーンに属する人の数が一番多いんです。
私も「クラスで二人一組になったりするときに、自分と組むことになった子が、なんかびんぼうくじ引いたなあみたいに思っているのがわかって」いました。というか、クラスが奇数だったら、殆どの場合余ってひとりでした。
パピコ
はじめまして。
いつも楽しみにしています。
私も全く同じ部類で、おおよその人からは人見知りと認識されていない。本当は人が苦手だから人見知りを悟られないようにペラペラ喋って滑稽な役を演じていることが多いのです。
疲れ果てて帰宅して、何回もその滑稽な会話を反芻して身悶えしたり。
自意識過剰なのはわかっているけど、この呪縛からいつになったら解き放たれるのか…。
でも、ふと、はらぷさんもそうなんだもの、社交的なあの人もおしゃべり上手なあの人も、もしかしたら心の奥底では同じなのかも…と思ったり。
黙っていても心地よい関係を本当は求めているのかもしれないけど、それは黙っていたら伝わらない。
人間関係は、難しいものですね。
Jane
はらぷさん、図書館で働いていらっしゃるくらいだから、きっと子供の頃から図書館が好きだったんですよね?
私は小学校では図書室が保健室代わりで、休み時間はずっと図書室にいっていました。本を開けば一人の世界で、周りに誰がいるかも目に入ってなかったんですけど、司書の先生には私が見えていたようで、「よく図書室に来ているけど、少しはクラスで友達と遊んだほうがいいんじゃない?」と言われたことがありました。
その方の顔も覚えていないし話したこともなかったと思いますが、そう言われたことだけは忘れていません。真実がばれちゃったような気がしたからだろうなー。
はらぷ Post author
Janeさん
こんばんは!いつも嬉しいコメントありがとうございます。
Janeさんは人前で話すのも大丈夫なんですね!うらやましいー。私はそれは緊張しちゃって苦手です。
中間の距離の相手と話すのが苦手、というのが、まさにまさにそうなんです!
初対面のときには自分からとてもフレンドリーに接したに違いないのに、「あっお久しぶりです」みたいな状況になると、なぜかスッと目をそらす…(笑)
会いたくないわけでも、話せばたいてい嬉しい気持ちになるのもわかっているのに、勝手に反射神経でそうなる感じです。
まあ、だいたいぼんやりしているので気付かないことも多々ありますが…(そして人の顔も覚えられない)
小・中と、遠足や修学旅行など、グループ行動の機会が苦手でしたねえ。あぶれる予感ではらはらするから(笑)
いつも事前にわるい想像をしておいて、それよりはましだったなとか思っていました。
私の通っていた小学校は、図書室が、休み時間にひとりでふらっといけるような場所ではなかったような気がします。授業やクラス単位で利用した記憶しかないのですよね。。地元の公共図書館にはよく行っていました。
でも、「少しは友達と〜」と言われても、「たまには友達とでも遊ぶか」ってできるもんじゃないですよね。本の世界に行きたいから来ているんだよ。その先生は図書室にいるくせにわかってないな。
はらぷ Post author
パピコさん
こんばんは、はじめまして!わー、コメントありがとうございます!
「疲れ果てて帰宅して、何回もその滑稽な会話を反芻して身悶えしたり。」
そう、そう、そうなんです!!!
会話のひとつひとつを思い出して、あー、なんであんなことを…!とか、だまってにこにこしてりゃよかったのに…!とかしょっちゅうジタバタしています。
きっと相手は忘れてるような些細なことだったりするのにですね…。
自分のなかに、こんなふうに見られたいという気持ちがひそんでいて、その自意識がそうさせるのかもしれません。
なまじ人としゃべれないわけではないので、そのときは勢いで乗り切ってしまってあとで疲れる→その次会うのがおっくうになるという悪循環…(笑)
でも、パピコさんのおっしゃるとおり、ほんとうはみんなそういう気持ちを奥底に持っていて、一人一派閥(←つまみさん語録)じゃないですけど、千差万別いろんな人見知りがあったりするのかな。なんかチャートがつくれそう(笑)
黙っていてもわかりあえる関係を作るには、やっぱり言葉は必要、ほんとうにそうですね。
Jane
はらぷさん
そうなんです。反射神経みたいなものなんです。先日、娘と散歩の途中の交差点待ちで、交差点のところにある知り合いの家の前に、知り合いの母子が立っているのが見えました。毎回通りかかるたびに、「〇〇、いればいいのにー」と娘にしょっちゅう言っていた人です。道越しに、何度も手を振りましたが、手を振り返してこないので「マスクで私たちが誰だか分からないんだね」と、無視されたような、でもちょっとほっとした気持ちで、青信号を渡ったところ、いきなり旦那さん(何度か話したこともある)まで出てきました。それで左へ行くつもりだった私は回れ右したら、娘に服をつかまれて引き戻されました。向こうが私に気づいて近づいてきたそうで、私の不自然な方向転換はすごくあからさまだったそうです。それで、しどろもどろに近況尋ねあいをした後、向こうが「池へ散歩に行くの?」「そう」「僕たちも行くところだったんだよ」「ああ….」長い沈黙。一緒に行こうって言うべきだよね、でもこの気まずさを池一周引きずって歩く?私の葛藤を見てとってか、「それじゃあ」と言って、彼らは家の中に戻っていきました。決して彼らが嫌いじゃないのに…。
遠足の前に、「一緒に見て回ろうね」と椅子取りゲームのごとく、子供達がパパっと約束するのが嫌でしたねー。その約束は絶対で、破ったら裏切り。あの束縛感が嫌でしたね。一人でも嫌なんだけど。
Jane
しばらく前にポッドキャストではらぷさんをゲストにリクエストしたけれど、この「私は人見知り」がお答えなのかしら~、分かりました~、と思っていたので、栄えある10週記念にはらぷさんが出て下さって大感激!初めの、つまみさんには「招かざる客で」という言葉遣いでもうはらぷさんだって分かりました!声も、イラストのお顔も、初々しくて、小さなカタバミの葉のようにかわいい!
竹中直人は、「秀吉」ですごく演技力のある人だなーと思って以来ご無沙汰していましたが、半年ほど前でしょうか、ネットフリックスで「野武士のグルメ」に出会い、シリーズ全部見てしまうほど、おじいさんになった彼の魅力とおいしそうな料理にやられました(このお話を野武士にくっつける必要があるのかは分かりませんでしたが)。
自意識こじらせ系は、自分のことを他人の眼で観察していることや、他人の自意識にも敏感なことなど、いや本当にそうだよなーと思いました。
はらぷ Post author
Janeさん
なんと!そんなリクエストをしてくださっていたとは知りませんでした!
ミカスさんとつまみさんめ、さては私がさらに緊張すると思ってかくしていたな(笑)
聞いてくださって、そして身悶えするほどのお言葉をありがとうございます!
人見知りと自意識過剰のこじらせ話に共感してくださってうれしい(笑)
しかし自分の声ってあまり聞く機会がないので、なんだこの声?とびっくりしました。
聞き取りづらいところも多々あって反省です。
でも、ミカスさんとつまみさんの、あの流れるような雑談力と面白がりにより、とても楽しいひとときでした。
お二人とも違う声質の持ち主なのに、どちらもとてもわかりやすくて聞きとりやすくて、脱帽!ほんとうに録りっぱなしですぐUPなんですよー。すごいです。
「野武士のグルメ」、知りませんでした!竹中情報をありがとうございます。
つまみさんがおすすめしてくれた「スウィングガールズ」と共に要チェックです!
そしていっこまえにいただいたコメント、なんだか映像が目に浮かぶようでした(笑)
ほんとにねえ。。自分がやっかい。
お嬢さんに見透かされたJaneさんがなんだかかわいくて、おかしいやら共感するやらです。
AЯKO
みんなの話に入れず常にまごまごしている、小中学生時代のあなた!めちゃ目に浮かびます。
私もそうでした。音楽も映画も本もテレビもほぼ周りの子の興味とずれていました、、。今自分の子達は、自然にK-POPとか鬼滅の刃とか流行のものが好きで、友達も多く、楽しく喋っているのを見ると、「これが私との違いかー。」と思い知るのです。
そういえば一緒に働いていた頃、日韓ワールドカップで日本中が大騒ぎの中、私が試合の話をあなたに振ったら、「ワールドカップってどこでやってるの?」と返してきて、「この人この騒ぎに気付かないなんて、只者ではない!」と感心した記憶があります(笑)。
お互い企業のOLじゃなくて図書館員になって、良かったんじゃないでしょうか。
はらぷ Post author
AЯKOさん
こんばんは!
あなたもですか!ってそうでしょうね(笑)光ゲンジとかファミコンとか(何が流行ってたっけ?)でキャッキャしてるあなたなんて想像ができません。
わたしたち、同じ学校だったらよかったね。
でも、あんがいその当時はおたがいに気がつかなかったかもしれませんね(笑)
AЯKOさんのお子さんたちは、今を楽しんでいるのだなあ、その違いはどこから来るのだ。
ワールドカップ!そうだっけ!?
なんかサッカーがやっているのは知っていたような気がするけど、まさか国内で行われているなんてねえ。。。
でも今はツイッターとかがあるから、もうちょっとましになっていると思う(笑)
図書館員で働いていると、そのあたりのズレに気がつかない。
私たち、いい仕事見つけましたね(薄給だけど)