三つ子のたましい
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年をとったらこわいものがなくなって、いろいろ楽になるのかと思っていたら、緊張やのくせはまったくなくならないことがわかった。
図書館で働いていると、意外にも人前で何かする機会がけっこう多い。
日々のおはなし会はともかくとして、季節毎の行事や、学校に出向いてクラス単位で行うブックトークなど、児童図書館員にとっては基本の業務なのだが、いちいち、いちいち緊張する。
いったんはじまってしまえば楽しいし、まあまあちゃんとできる(と思う)。
しかし始まる前のドキドキといったらどうだ。まるで発表会で出番を待つ子どもである。そこに慣れとか成熟という名の堆積はないのだろうか。
といって、なるたけやりたくないというわけではない。依頼がくれば、はいはーい!と言ってでかけていく。そのうえ、研修や勉強会にも参加して、そっちは、大人相手にブックトークの実演だの、お話(ストーリーテリング)だのをやるので、なおさら緊張するのである。
肝っ玉の小さいやりたがりというのは、ひとことでいうとばかなんじゃないだろうか。
面白かったー!といって終わった後に残るのは、緊張性頭痛のみ…。
そう、40歳を過ぎたあたりから、緊張がわかりやすく身体の不調としてあらわれるようになってきた。
それをはっきりと自覚したのは7年前、今の職場に採用されたときである。
4月1日、緊張して初出勤した私は、うっかり頭痛薬を忘れた。その結果、頭痛が過ぎて吐き気をもよおし、休憩時間にこっそりトイレで吐いていた。
それまでは、緊張していても、体力と高揚感で乗り切っていたものが、年をとってきて体内に保ちきれなくなったのだな、と実感した。たかが転職でどんだけ緊張してんだよと思うが、そこはどうかほうっておいてほしい。
そして、40代後半にさしかかろうとする今、あらたに自覚したことは、わたし、緊張すると咳が出る!
先日は、研修でおはなしを語ったさい、急に声がガラガラになって出にくくなり、そのまま乗り切ったが往生した。本番(研修だけど)でそういうことになったのは初めてだったのでおののいた。
ストレスを感じると、胸のあたりがつまったような感じになって、空咳がでる。
そのことに思い当たってみると、研修期間中、自分に発表の機会があって、順番に当てられるときなど、確かに、わたしひんぱんに咳をしている!わー!
後日、この発見を職場の先輩に話したところ、
「えー、気づいてなかったの。はらぷよく咳してるよ。最初の頃からそう思ってたよ。」
とあっさり言われた。
えーーー!そうだったのか!なくて七癖、新たな自分を発見した。
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思いおこせば、子どもの頃、ピアノコンサートなどに連れていってもらうと、演奏中に必ず咳がでるのが悩みだった。
これは空咳じゃなくて、喉のへんなほうにつばが流れてむせて苦しいあれである。
あんまりなんども起こるので、そのうち自分で症状を分析して、右側に入った場合、早期に対処(こまかく定期的につばを飲み込む等)すると、苦しくて涙はでるが、あまり周りに迷惑をかけず収束するが、左側に入った場合は、対処の甲斐なく見苦しくむせてえずく結果となるので、できれば早々に席を立つべしと学んだ。これは高校生くらいまで続いた気がする。
そして、関連して記憶がよびおこされたのは、小学5年生のときに起きたできごとである。
その日は、当時仲のよかったAちゃんの家で、もうひとりの友だちMちゃんと3人で遊んでいた。
Aちゃんの家は共働きで、昼間家には大人がいなかったので、私たちはよくAちゃんの家を遊び場にしていた。こっそりお父さんの本棚にある『ゴルゴ13』のエッチなシーンをめくって背徳を味わったりしていた。
そして、その日はどういうわけか、歌合戦をしようということになったのだった。
居間のテーブルをステージにして、ひとりずつ一曲歌うこと、となった。
私は、とんと歌謡曲にうとい子どもで、当時流行っていた光ゲンジの歌など、なんとなく周りに合わせて口ずさんだりしていたが、ほんとうは一曲まるまる知っている歌などひとつもなかった。いやだ、やりたくないと一応異議申し立てをしてみたが、何かとおミソな子どもだったのでその意見は一蹴された。
まずAちゃんが歌い、Mちゃんが歌った。そして、私の番がやってきた。
私は、往生際悪くステージ(テーブルだ)に上がるのを拒んだが、「順番だからね」「みんなやったんだから」「ひとりだけやらないなんてずるい」(←どういう論理…)と押し切られ、しぶしぶステージ(テーブルです)に上がった。
ステージは高く、立つと足がすくんだ。
わたしは膝を曲げ気味に、歌い出しとサビの部分はかろうじて知っている「ガラスの十代」を仕方なく歌い出したのだが、なんと、声がしゃがれて全然でないのだった。
歌い続けようとすると、むせて咳が出てしまう。
AちゃんとMちゃんには「そんなふりしたってだめだからね」「ちゃんと歌って」とおこられたが、それまでは普通にしゃべっていたのだからまあ無理ない話だ、しかし出ないものは出ない。
いたたまれない時間が過ぎて、AちゃんとMちゃんは興ざめし、そのまま歌合戦はうやむやに終わった。声はそのうち元に戻った。
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ときどき思い出しては、あれなんだったんだろうと思っていたことも思い出した。
そうか、昔からそういう兆候はあったのだ。
大きくなったらカラオケとかもちゃんとできるようになったから、すっかり忘れていた。
ノミの心臓だましいおそるべし。
緊張やストレスがのどにきやすい体質ということだったのか。
記憶が線でつながって、よかったような、知りたくなかったような…。
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総合すると、うまくできないかも…と思うとそうなりがちなので、解決策は、なるたけ練習するといいということになる。
あと、大きくなって、いざとなりゃ「あらー。ごめん。水のむね。」とか言って臨機応変に場をつなげることができるようになったので、これは大人になってよかったことと思う。
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byはらぷ
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※「なんかすごい。」は、毎月第3木曜の更新です。
※はらぷさんが、お祖父さんの作ったものをアップするTwitterのアカウントはこちら。
AЯKO
私はそういう場であなたを見たことがないせいか(会うの休みの日だし)、咳は気づかなかったよー。小5の歌合戦の思い出、聞くだけで緊張するわ、、、。
でも年とっても緊張に慣れないというのは私も同じで、妙に早口になってしまうし、その場に行く前の動悸が最近凄いんです。布団の中でも考え出すとドキドキが止まらない。
人が一生に打つ心臓の鼓動は決まってるというから、寿命縮んでるんじゃないかと心配になったり。
舞台に立つのが仕事の人とか、フィギュアスケートの選手とか本当凄いよね!
はらぷ Post author
AЯKOさん
こんばんは!あわわ、お返事が遅くなりました!
コメントをいただいたお知らせがここ数ヶ月メールで来ないなあ、と思っていたら、いつのまにか迷惑メールに振り分けられていたことが判明、ちょこちょこチェックしようと思っていたのにまたうっかりしてしまいました。
そうだよね、AЯKOさんと働いていたときはそういう業務はしてなかったし、今は楽しい遊びのときしか会ってない(笑)
しかし子どもってときどきほんとうに残酷ですよね…大人の社会やさしくてありがたいよ…。
AЯKOさんでも緊張するのかー。なんだか安心します。
ほんと、何年分寿命が減っていることか…。
でも、昔やっていたピアノや声楽はほんとうにダメだったので、今の仕事は緊張しても楽しめるだけ、少しは向いているのかな、と思うようにしています(笑)