11月22日はカレー記念日

カレー記念日

落ちてゆく 枯葉のごとし 抜け毛かな

11月22日はカレー記念日

Jane

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カレー記念日とは?

加齢を実感したら、それはカレー記念日。
抗ったり笑い飛ばしたりしながら、毎日華麗に加齢していきましょう。

あなたのカレー記念日も、教えてください。
五七五七七形式で、下の句は「○月○日はカレー記念日」なので
上の句の五七五だけ送ってね!

日付は掲載日に変えさせていただきます。

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なんかすごい。

幻影の住む家さがし

 9月の2週目、イギリスのオットの様子を見に行ってきた。
出発数日前に、あちらでは女王が死に大騒ぎである。
何もいま死なんでも。

 こちらでニュースを見ていると、イギリス全土喪中に突入という勢いで、おいおいおいおいと思っていたが、義母も向こうの友人も皆、「さほど影響はないはずよ」と言う。あ、そうなの?
そして異口同音に、「日本とは違うかもしれないけど」と言うのだった。
ええ?昭和天皇のときのことを言ってるのか?それとも今話題の、元総理大臣の国葬問題?
私がこっちで「わー、女王崩御はんぱねえ」と思っていたように、向こうの報道も、日本全国総喪中!って感じだったんだろうか。

 出発一週間前に、出入国のコロナ検疫が緩和されて、ワクチンを打っている人は日本入国(帰国)時にPCR検査をしなくてもよくなった。
航空券は血の気が引くほど高く、ふだんの3倍以上である。総額の半分近くが燃料費。この数年で、世界はずいぶん遠くなってしまった。

 今回あちらに行ったのは、8ヶ月ぶりにオットに会いにというのももちろんあるが、向こうで住む家を見つけたかったからだった。
ビザの申請をするのに、住む場所を明示しなくてはいけない。そこには、ベッドルームのほかに部屋はいくつあるか、ということなども書かなければいけないのだ。

 夏頃に家を探し始めたオットが直面したことには、イギリスは家賃が高い!
イギリスはここ数年すごい不動産バブルで、2、3年前と比べても、不動産価格は2割ほど高騰している。若者やお金がない人は家を買えずに、高い賃料を払い続けなければならず、ますます格差が広がるという、住宅クライシスなのである。
オットが今働いている町は、北部の地方都市なのだが、観光地でもあるため、町の徒歩圏に住むなんて無理オブ無理である。といって、離れたところに住むと交通費がかさむ。「えっ職場で交通費支給されないの?」と聞いたら、イギリスではそういうのはないらしいです。えー!そうなのか!

 町に近いところの高くて狭い家に住むか、ちょっと離れたところで、あてにならない(イギリスの交通機関はほんとうにあてにならないしそれに高い!)電車やバスを利用するか…しかし一番の問題は、なんとか払えそうだという物件を見つけて速攻申し込んでも、「もう内見予約がいっぱいで…」と断られるという超売り手市場なのだった。


イギリスの不動産情報も、日本と同じでネットに賃貸サイトがあり、条件にあった物件を探して内見を申し込む。
当初オットは、問い合わせた物件がダメでも、担当者と話して、「そんじゃこういう物件があるよ」とか、「ちょっと条件とは外れるけど、こんな場所はどう?」というやりとりができると思っていたらしい。私もそう思っていた。
ところが、イギリスはコロナ以降特に、猛烈な勢いでネット社会になっており、まず第一に、生身の担当者に会えなかった。
物件は全部ネットに載せているから、条件を登録しておけば新情報のお知らせが来る、それを見て申し込め、以上、というわけなのである。つまり、賃貸市場は入れ食い状態なので、売り手側は工夫して顧客を得る必要がないのだ。
そうなると、土地勘のないわたしたちはとても不利である。
しかしそうも言っていられないので、地図をみながら、周辺の村の名前をピックアップ、そこから町までのアクセスをネットでせっせと調べてメモをとる。

 そうやって、内見まではこぎつけた家が一つあった。町までバスで15分ほどの小さな村で、小さなスーパーと小さな図書館がある。家は多少ぼろだがペット可。
オットはここはいける!と勇んで申し込んだが、残念ながら先客がいて、契約手続きが進んでいると言われた。
「でも、案内してくれた人とは話があって、その人も本当は、人対人で仕事がしたいって言ってた。彼の名前はアリ。」
こんどその人のオフィスに行って話す約束をしたらしい。「その村では黒猫にも会ったから、幸先がいいと思う」とも言っていた。黒猫に!そうですか!

 それが9月の初め、その後他の物件には振られ続け、なんの進展もないまま、私がイギリスにやってきたというわけである。
一週間の滞在中、そればっかりしていたわけではないが、居住可能と思われる周辺の町や村のいくつかを訪ねていった。半分遠足気分だけれど。

 町の構成要素は、どこも似ている。中心に英国国教会の教会があり、目抜き通りがある。デリを売るカフェ、パン屋、肉屋、薬局、不動産屋、さまざまなチャリティ・ショップ、インド料理屋、中華のテイクアウト。通りの裏には、駐車場を持つ大型スーパーがある。中心部を抜けると、小さなテラスハウスが連なり、車のディーラーや内装業の店、ちょっとした工場など。

 自分がこの町に住んで、ここで買い物したりするのかな。すれちがう人々と自分がご近所さんになることを想像してみる。実感がない。

 ネットに載っていた物件のいくつかを探し当てて、外観をながめた。駅やバス停からの道はどんなふうか、通りの雰囲気は、隣の家の手入れ具合、ゴミ箱の使い方。イギリスは、階級社会だな、と思う。
ここは、いけるか?と思われた物件に問い合わせてみたが、案の定先約あり。

 日曜日には、もうせんオットが約束していた不動産屋のアリに会いに行った。
彼の仕事場は、町中のコワーキングオフィスにあって、がらんとしたオフィスにパソコンが2台、さまざまな資料や荷物が散らかっている。

 アリは、年は40代くらい、わりとワーカホリックタイプの人で、オットのいうとおり感じがよかった。今は半分フリーで、仲介業をしている。それで人脈重視ということなのかもしれない。アドバイスは的確、いくつか穴場だという町の名前も教えてくれた。オットはこの国でのクレジットヒストリーがないので、その懸念を伝えると、「問題ない、ぼくは人で判断するから」と言う。「ネットのマッチングは、条件から一ミリでも外れたらヒットしないし、失格になる。そういうのはいやなんだ。」

私たちには夢のような話だが、なんだか話がうますぎやしないか。

 オットが内見した件の家についても、その後どうなった?と聞くと、「実は、借り手の都合でペンディング状態だ。普通の不動産屋ならそれでアウトだけれど、僕はもう少し待つよ。」と言うのである。不動産屋の天使かなんかか?

 しかし実際、物件を提示してくれるわけではなかった。いくつかの、これから出そうな物件、季節的な展望。条件の半分でもマッチしそうなところが出たら、まずは電話するよ、Good Luck。
天使すぎてもはやあやしみである。
具体的な進展はなにもなかったが、いたずらに希望だけ得てオフィスを出る。


「どう思った?」と歩き始めるなりオットが聞くので、
「いい人だね。」と答えると、オットも
「そうなんだよ。いい人すぎる。」とすぐに言った。

「でも、手付金払わされるわけじゃなし、何かにサインさせられるわけじゃなし、第一ただの賃貸だし、詐欺の要素はない気がする。」

確かに。まあ、彼に期待しつつ、これからも地道に探そうよ、いい情報もらったし、ということになった。
オットはその後も、「もしかしてさ、何もかもが幻なんじゃないかな。次にオフィスを訪ねたらもう誰もいなくて…」とか、「それか、ぜんぶ彼の幻想なのかもしれない、不動産屋だってことも、彼の顧客たちのストーリーも、彼の頭の中だけの。」と妄想を繰り広げていた。どっちが幻想なんだかわからない。


そんなふうにして、一週間はあっという間に過ぎた。帰る前日は国葬の日で、この日ばかりは町中の店は休んだ、らしい。というのは、国葬が行われた時間帯、部屋で中継を見ていたからだ。滞在中どの店を見ても、「国葬の日は休みます」という貼り紙が貼ってあったから、きっと町は静かだっただろう。

 それまでは、王政に批判的な若者にインタビューしたり、ウェールズの人々の、新皇太子(プリンス・オブ・ウェールズ)に対する複雑な気持ちを報道したりもしていたBBCも、この日は愛国一辺倒で、ときおり挿入される「各国を訪問するエリザベス女王と、歓喜を持って迎えるコモンウェルスの人々」という、ザ・植民地主義みたいなメモリアル映像には、ううむ…とうなる。

 ウェストミンスターから、ウィンザー城に向けて棺が出発する際、最後の「God Save the Queen」が演奏されて、それを見送るチャールズの横顔が映ったところが、全国民の涙腺ポイントだったらしい(オット調べ)

 行列を映しながら、番組進行役の男性が「こんなことを言うのは変かもしれないけれど、女王の死によって、本当の意味で戦後が終わったという気がする。これからは、新しい国王のもとで、何もかも新しい時代に進んでいくんですね。」というようなことを言った。
そこには不思議と、イギリスの未来への輝かしい展望のようなものは、感じられなかった。夢から覚めた人のような、諦観すら感じさせる声だった、と思うのは、私の幻想だったろうか。

 そして帰国後一週間、なんとアリが電話をしてきて、「件の家が借りられることになったが、まだ興味はあるか」と告げたのだった。
えーーーー!まさか!

 彼がオットに説明したところによると、先客が、3度めの契約延期をするに及んで、とうとう時間切れとなったらしい。
本当に大丈夫なのか、今度こそだまされているのでは。
ともかく、話を進める前に契約同意書をチェックしろ、もう一度家を見に行け、事前に払う金額は?
 あきらめていたところに先約がポシャって、こちらに順番が回ってくるって、今の家を買ったときと同じ状況だ。こういうことって、不動産界ではよくあることなのか、それとも、国を超えて、客に言う常套手段?
しかし騙されたところで6ヶ月契約の賃貸である。私たちは家が欲しい。契約をした。

 先週、オットは今まで借りていた職場のフラットを引き払い、件の家の住人となった。
今のところ問題は起きていない。
窓際に、前の住人の置いていった小石が並べてある、これはいいサインだと嬉しそうに報告してきた。小石!!そうですね!!

これも追悼の一種なのだろうか。イギリス人の愛情って屈折している。

byはらぷ

※「なんかすごい。」は、毎月第3木曜の更新です。

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