第36回 機動戦士ガンダム THE ORIGIN
全六編からなる映画『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(以下ジ・オリジンという)のアニメーション制作は、SUNRISE。ロボットアニメといえばこの社名があがる。安彦良和が、『機動戦士ガンダム』(1979‐80、富野由悠季監督、以下ファーストガンダムという)に過去編を自ら加えてコミカライズした同名漫画を原作としている。
ガンダムを見たことがない方も「赤い彗星」という言葉を聞いたことがあるだろう。ファースト ガンダムに出てくるシャア・アズナブルの戦場での呼称だ。ジ・オリジンでは、原作漫画の過去編を中心に、シャア・アズナブルの生い立ちから、ジオン公国軍に入隊したあたりまでを描いている。安彦が本作の総監督を務めている。
シャアは本名ではない。地球からのコロニー独立運動を指導する大学教授ジオン・ズム・ダイクンの子、キャスバルだ。見上げるほど高いプライドとキレッキレの頭脳を持つ、家族思いの少年だ。父親が急死し遺児となった直後から、ダイクンを支えてきたザビ家とラル家の政争に巻き込まれ、ある人物の手引きで妹アルテイシア(のちのセイラ)とともにスペースコロニーを脱出する。
怒りに燃えるとこんなにも可愛げがなくなるのか!と思わせる強いまなざしの少年が、やがて、どんな環境でも機会を逃さない抜け目のなさと、目的のために手段をえらばない冷徹さを持つ青年へと成長する。キャスバルがシャアと名乗り、ジオン公国軍のモビルスーツを駆るパイロットとなるまでの青年期は、まるでサイコパスのイメージだが、エースパイロットになったシャアは、しかし、なんだか、クールでかっこいい。
同期して語られるザビ家の話がまた複雑で、ファーストガンダムと通してみるとザビ家の物語でもある。武人一家ゆえ、ドロドロが殺伐として苛烈。 戦国時代のようだ。
ファーストガンダムをリアルタイムで見ていない私は、のちに教養の一片として三部作に再編集された映画を見た。アニメが教養というとおかしいだろうか。しかし、セリフや象徴的な呼称やメカデザインが社会に浸透し、ビジネス書から枝豆風味の豆腐にまで幅広くネタを提供しているさまは、さながら参考文献のようだ。ならば、原典を見ておきたい。
ファースト ガンダムは大人向けの話だろう。少年アムロ・レイが主人公とはいえ、魅力的な脇役らが陰謀や信条により次々と命を落とすストーリー、連邦軍幹部の政治的なかけひきや若手が操るホワイトベースでの恋愛模様を見ると、連邦軍ジオン軍を問わずキャラクターらの間に交差する複雑な思惑と感情を、ロボット玩具で遊ぶ年齢の子らが理解できるとは思えない。当時は子ども向けとして夕方に放送されていたというが、今だと深夜枠だと思う。
ジ・オリジンの映画は素晴らしい。映画も面白いが、長いと感じる人は、安彦良和の原作漫画を見て欲しい。コマを目で追うだけで時間が流れ、空間を移動し、静寂や衝撃、困惑や緊張、髪の動きや匂い、息遣いや場の空気までも伝わる生きた画というか。(語彙が乏しくて言い表せない)肉感を拾った人物の立体感、コマ割りや構図が、シビアなストーリーと相まって、すさまじい訴求力を持つ。つまりは安彦良和の漫画は「絶品」なのだ。(個人の感想です)もとより私は漫画を読んで、これがアニメになるとどうなるのだ!?と気になって映画をみた。カラーで読めるウェブサイトがあるが、スマホの小さな画面で見てはもったいないです。個人的にはモノクロが好きです。
ジ・オリジンの映画制作については公式HPの「SPECIAL>インタビュー」 に詳しい。安彦の画をアニメーションにしようと、どれほど皆が力を入れていたかが分かる。
===
昨年『ガンダム誕生秘話 完全保存版』(NHK)を見た。主要関係者へのインタビューで構成されていて、へえ、そうだったのかと驚く話が飛び出す。のちに名を上げる若きクリエイターらの情熱と誇り、アニメをめぐる先駆的な試みなど、若者らが新しいことを始めるエピソードは胸アツだ。ガンダムファンでなくとも、機会があればぜひ見てほしい。
番組の情報によれば、ファースト ガンダム制作に携わっていたのは、ほとんどが20代・30代。富野由悠季監督が37歳で最年長クラスだ。ネタバレは避けたいので詳しくは書かないが、作画監督だった安彦や駆け出しアニメーターだった板野一郎が、人手も資本も少ない小規模スタジオゆえの過酷な仕事ぶりと、強気に出られない当時の悔しさを口にした時は、胸が詰まる思いだった。(できれば今年10月予定の「動くガンダム」お披露目前後には再放送してほしいです。)
===
ロボットアニメ『機動戦士ガンダム』は、言うまでもなく日本のアニメの源流のひとつです。本作については、保留にしていました。青森県立美術館での(ファースト ガンダム監督である)『富野由悠季の世界』展が延期になったからです。東北は花の季節の開催だったのに残念でした。ようやく美術館などの再開準備がなされるところまでこぎつけた今、コロナ禍がこのまま沈静化することを切に願います。
(以上敬称略)
===
キャッチ画像と動画は当該作品の公式HPよりお借りしています。
ゆみる
SHOJIさま
機動戦士ガンダムはリアルタイムでアニメを見たり、
ノベライズを読んで楽しんでいたので懐かしいのですが、
「THE ORIGIN]はキレイすぎて何かもう別物ですね。
現代のガンダムって感じ。
「ザク豆腐」も懐かしい~^^
あのころ食べた後の空のザク容器を飼いネコにかぶせて
写真を撮るのが猫飼いの間で流行っていました。
うちの星になったじーさん猫は意地でも被ってくれなかったけど^^;
何もかもがなつかしい・・・ってアニメが違いますねw
そんなわけでガンダムを見てうっかり成人してしまったせいで、
40過ぎても「ガンダム SEED DESTINY」を見てサントラCD
https://www.amazon.co.jp/機動戦士ガンダム-DESTINY-第4クール-EDテーマ-君は僕に似ている/dp/B0009S2PKQ/ref=sr_1_28?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&crid=1ZTSDAGUS8GX7&dchild=1&keywords=see+saw&qid=1592548867&s=music&sprefix=SEE+saw%2Caps%2C256&sr=1-28
を購入したり、
「鉄血のオルフェンズ」を任侠っぽくて先祖返りだと思いながら
うっかり全部リアルタイムで見ちゃってます。
アニメに詳しくない私でもこんな感じなのですから、
相当なファンが野には潜んでいることでしょう。
久しぶりにサントラCD聴きたくなりました^^
SHOJI Post author
ゆみるさん コメントありがとうございます!
リアタイ視聴組がおられるだろうなあとは想定していましたが、ゆみるさんが全ガンダムリアタイだとは思わなかったです!
『映像研』のロボ研のアニメ、さぞかし楽しかったのではないでしょうか?笑
私は、ファーストとジ・オリジンしか見ていないので、ちょちょいとご紹介のEDテーマを検索してみましたよ。
作曲、『魔法少女まどか☆マギカ』の人か!曲調が、なるほど!
ファーストでは有名になる前の鷲巣詩郎(エヴァンゲリオン)や久石譲(ジブリ作品)がBGMに参加していたのですってね。
ガンダムのBGM集が売れまくったとか(byガンダム誕生秘話 完全保存版)
今のアニメを見慣れているので、ジ・オリジンに違和感はないのですが、そうですか別物ですか。
リアタイ組の皆さんはそれぞれのアニメに深い思いを抱いていらっしゃるのですね。
ずっとサンライズ作品を取り上げたいと考えていました。
以前に東映動画系の記事を書いてしまった以上、虫プロの流れを汲むサンライズについても、誰かがこれをやらねばならぬ♪と。(アニメが違う)
薄っすい感想でお恥ずかしい限りですが、ロボットが出てくるアニメが大好きなので、そのオリジンとして最高のリスペクトを込めて書かせていただきましたので、野に潜んでおられる皆さまお許しくださいね。
猫がかぶっていたとは知りませんでしたが、ザク豆腐、よく考えましたよね(笑)
しかも公認だし。