第44回 デルタの羊
いやいやタイトルと画像が違うでしょと思ったあなた、大正解。キャッチ画像は1月に紹介した「映像研には手を出すな!」の電撃三人娘です。先日New York TimesのベストTV番組2020/ベストTV番組(海外部門)2020と、The New Yorkerの2020年ベストTV番組に選出されたとのニュース! 原作で描かれる創作の楽しさ苦しさは万国共通。それがアニメーションで世界に届き、共感を得たのですね。オープニング曲も含めて、すんばらしい!
「映像研~」をかわきりに、興行収入300億円を超え今なお勢いとどまることを知らぬ「鬼滅の刃」まで、今年ほど日本でアニメの力、そしてアニメーションを作る力が注目された年はないのではないでしょうか。
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とはいえ、なぜかアニメ見ないのよねぇという方が大勢いらっしゃるのも事実。そんな皆さまに、今回はアニメをつくる人々を描いた小説をご紹介いたします。
「デルタの羊」は塩田武士著。現在上映中の「罪の声」の原作者です。アニメ業界の人々に取材に取材を重ねた本作の初出は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2019年4月号~11月号。単行本は当初2020年6月刊行でしたが、アニメの放送延期を強いられるなどコロナ禍での様子をリモート取材&改稿するため、予定を4か月伸ばし、この10月KADOKAWAより発刊。作中の登場人物たちのものづくりへの情熱に胸を熱くする私ですが、新聞記者だった作家自身の創作のこだわりにも感動します。
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この作品があればこそ!この世界観を守りたい!という偏愛作品のひとつやふたつ、誰にでも心当たりがあるのではないでしょうか?本作はそんな偏愛作品がキーとなっています。
ピュアな心で作品を愛するアニメ・プロデューサー。神アニメーターの下で絵が描けるなら待遇は二の次で構わないという、これまたピュアなアニメーターたち。キャリアの途中で、実際の作業工程で、彼らは悩む。
私の手元にアニメ業界特集を組んだ2017年度初めの経済週刊誌があります。本作はおそらく同時期からその後の取材と思われます。海外市場、SNS、テクノロジーなど業界の仕組みと課題、そしてアニメ制作の工程が、細部にわたってリアリティーをもって描かれていて臨場感たっぷり。映像に込められた思いや技術が、作家によって言語化され、さらに読者の脳内で映像化される面白さ!
ときどき挟まれる、TPOを選んだおとなのオタク会話が楽しい。(どの趣味の世界でも符丁のような、共通言語のようなものはありますでしょう?)後半、舞台を四国の某市に移します。私は行ったことが無いのですが、街の描写がまるで自分が歩いているかのようで、実に良いのですよ、これが! 商店街入り口の足湯と鉄道を見下ろす観覧車。地方都市のプラネタリウムの全天周映画。ああ、分かる…!
悪人のいないサスペンスは資金ショートが絡むだけに胸が痛む。そのあらすじ等々については、KADOKAWAの書籍紹介サイトをどうぞ。(節操がなく申し訳ありません。でも執筆動機などもあって、面白いですよ!)
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かつて、アニメや漫画が好きなことを小声で話す四十路半ばの私に、イラスト投稿を趣味とする10ほど年下の女性がこともなげに言いました。「漫画を読みアニメを見るのは、読書や美術鑑賞と同じですよ。」―― 同志よ!導師よ!――この「デルタの羊」を得て、私はさらに解放されました。
あるインタビュー記事によと、本作を書くまで見たアニメはジブリくらいという作者は、今では大のアニメファンだそうです。
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小説をもう一冊。辻村深月著「ハケンアニメ!」
2012年から2014年にかけて『an・an』に掲載されました。2014年単行本、2017年文庫本が出ています。こちらの作者はこどもの頃からアニメ好き。上記作品と比べ、登場人物の年齢層が10歳くらい若くて、トキメキ成分が多めです。アニメ監督との対談の入った文庫版がおすすめです。
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年末年始はどのようにお過ごしですか?私は十中八九シリーズアニメのいっき見でしょう。そして1月は「働く細胞 BLACK」を見て身を引き締めます。
それでは皆様、マスク着用、手洗い、消毒、努々おこたりなきようお過ごしください。
来年も「OIRAKUのアニメ」をどうぞよろしくお願い申し上げます。