第106回 夏目友人帳
「夏目友人帳」の新シリーズ「夏目友人帳 漆(しち)」がこの秋始まります。7年ぶりの新作で今年の秋アニメで一番楽しみにしている作品です。
緑川ゆきによる原作漫画は2003年が初出、今も「月刊LaLa」にて連載中という息の長い人気作品です。アニメは2008年に始まり、昨年、15周年記念PVが配信されています。(リンク先は音が出ます)全6シリーズ(各13話)+OVA2話+「劇場版夏目友人帳~うつせみに結ぶ」そして「夏目友人帳 石起こしと怪しき来訪者」。すべてNetflixで配信中。長編ですし、少し振り返っておさらいを。
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夏目貴志はときどき「へんなもの」が見える人間です。へんなものとはおそらく妖怪と呼ばれるものの類。
子供の頃から「窓の外に女の人がいる」と言ったり、一人で誰かに話しかけていたりしていて、見えない人たちにはその様子が奇異に映り、嘘つき呼ばわりされ、気味が悪いと遠ざけられてきました。早くに両親を亡くしたため親戚の家を転々とし、寂しさゆえに他人の気を引こうとしていると誤解されることもありました。本当のことを言っているだけなのに。
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縁あって祖母レイコが若い頃いた町に住む藤原夫妻のもとに身を置くことになった夏目。ある日高校の通学路で妖怪から逃げる途中、小さな祠を囲む縄を切ってしまいます。
結界が切れたと嬉しそうに出てきたのは招き猫を依り代とする大妖怪「斑(まだら)」。斑はレイコと顔馴染みのようで、「友人帳」を持つ夏目の用心棒として同居することになります。
「友人帳」とは妖怪の名を書いた紙を綴じたもので、レイコの遺品です。夏目よりも妖力が強いレイコは、妖怪たちと勝負をして勝つと彼らの名前を紙にかいてもらっていました。名を呼べばいつでも従えることができるという契約です。
そうして、夏目をレイコと間違え「名を返してくれ」と願う妖怪たちが次々と現れるのですが…。
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ずっと一人で寂しい思いを抱えてきた夏目は、妖怪とも人間とも距離を置こうとしますが、周りが近づいてきます。そのたびに相手の気持ちと自分の気持ちになんとか折り合いをつけ対応していくのですが、寂しい思いをしてきた分、彼は果てしなく優しい。
睡眠時間を削って名を返す術式を行い寝不足になったり、数日を費やして妖怪や人間の探しものを一緒に探してあげたり、人を不安に陥れる妖怪を退けたりするのです。その途中、自分自身に危険が及ぶことも少なくないし、力を使い果たしたり、とりつかれたりして熱をだし寝込むこともしばしばです。
のちに「見えているなにか」について話ができる友人も現れ孤独感は少し薄らぐのですが、見ることができない友達や藤原夫妻を危険な目に合わせたくない、この温かい関係から離れたくないと、あらたな葛藤を抱えます。
数多のエピソードで、夏目と妖怪/夏目と周囲の人間/妖怪と妖怪/人間と人間の関係を、もう会えない者もふくめた関係の在り方を繰り返し見せてくれます。夏目を通して、他者への心配だったり、幸いあれかしと願う気持ちだったり、交流を深めることへの逡巡だったり、大掴みですが「他者を思いやる」とはどういうことかを、常に問われている気がしてきます。
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とかなんとか、それらしいことを書きましたが。
アニメの肝はあやかし、つまり妖怪なのです!
特に、猫の姿で顕現し日頃はニャンコ先生と呼ばれている斑さま。大酒飲みで甘いもの好きの、しばしば狸と間違われるぽよんぽよんした猫が、ここぞという時に白犬だか白狐だかの大妖怪に戻ると、めっぽう強くて美しくてかっこいい! あるいは逆に、優美な大妖怪がニャンコ先生になると、ちょっとぶさいくで可笑しくてめちゃくちゃ可愛いくなるのです。一度見たら「ギャップ萌え」は避けて通れません。
そのほか、夏目組・犬の会と自称し、名前を返してもらうことなく自ら夏目のしもべとなっているユニークで愛すべき妖怪たちにも注目です。暇つぶしに面白そうだからとうそぶきながら、ときどき夏目を助けたり、楽し気な宴に誘ったりして、距離が縮まっていく様子も良き。
彼らや、夏目のもとに困りごとを持ち込んでくる時に寂しく時に健気な妖怪たちが、夏目の手助けで気を落ち着かせて消えていくのを見ていると、案外「見える」のも悪くないかもしれないと思えてくるから不思議です。(ただし恐ろしい妖怪を除く)
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このシリーズは緑深い地域を風景画のように描いており、見ていて癒されます。高精細のリアルな背景画も良いけれど、作品によって適した密度ってあるよね、うん。携帯電話がなかったり、レイコの遺品が行李におさめられていたりするのも、今みるとホッとします。ノスタルジーでしょうか、それとも一種のデジタルデトックスでしょうか。
不思議な森や石組みのアーチ橋がある舞台は、熊本県は人吉・球磨地域だそう。いずれ訪れて、私も茜色のマジックアワーに浸りたい。
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話は変わりますが、ただいまNetflixで「北極百貨店のコンシェルジュさん」が配信中です。楽しいので見てね!
kokomo
SHOJIさん、一昨日ネトフリで劇場版を見たばかりだったので、この記事とてもうれしいです。見ていない方へのネタバレになるので詳しくは避けますが、劇場版ではニャンコ先生がかわいさ三倍になっていて私の頬も緩みまくりでした。
舞台になった場所が実際に存在するのですね。我が家から少し車を走らせたところに、それこそ「まんが日本昔ばなし」の舞台になっていそうな場所があるのですが、「夏目…」の風景はそれとはまた違うノスタルジックな風景だったのでどの辺を参考にしたのかしら?と思っていたところでした。SHOJIさんも書かれているように舞台もストーリーも絵のタッチもやさしくて、残暑で疲れ気味の身体にじんわり効きました。新シリーズが始まるのは知りませんでした。楽しみ!
SHOJI Post author
kokomoさん
舞台は人吉・球磨地域が正しいようです。本文も訂正しておきました。
私も岩手、岐阜、島根辺りかと予想していたのですが違いました。
「夏目友人帳」×熊本県のスペシャルサイトがあって、コラボ動画があります。ゆかりの地探訪のタクシープランもあるんですって!
劇場版をご覧になったのですね。ニャンコ先生はほんと最高ですよね!私はニャンコ先生のダメさ加減が可笑しくて、第1期の第11話「ニャンコ徒然帳」を繰り返し見ています。