〈 晴れ 時々やさぐれ日記 〉 ああ、オムライス。融合と分離のあいだ。①
――— 46歳主婦 サヴァランがつづる 晴れ ときどき やさぐれ日記 ―――
10才の息子は今、休日になると台所に入り込み、あやしげな料理をはじめます。写真は彼が先日作った「スペイン風ライスオムレツ」(?)。 お肉とジャガイモが少々入った前夜のラタトゥイユ(この時点ですでにあやしい)にお冷のご飯を加え、卵でまとめて(?)焼いています。(お見苦しくてすみません)
春休みに奈良へ行きました。そのとき泊まったホテルの朝食には、「プレーンオムレツ」のほかに「パセリオムレツ」というメニューがありました。黄色と緑。わたしはにわかに、長年の懸案だった「オムレツ」→「オムライス」の発生の道筋を理解しました。そうか!そうだったのか!
むかしよく母と東京へ行きました。実家の名古屋から東京へは新幹線で2時間。朝は早起きして7時台の新幹線に乗り、最初に向かうのは日本橋高島屋。日本橋でウオーミングアップを済ませたデパート狂母娘は、そのあと上野や青山の美術館へ行き、夕方銀座へ立ち寄って有楽町から東京駅へという日帰りコースが定番でした。
銀座は文字通りの「銀ブラ」ののち、わたしたち定番中の定番の「煉瓦亭」の夕食へ。徹底した定番好きのわたしたちは、そこで注文するお料理もそれぞれ定番通りなのですが、あるときわたしはメニューにある「元祖オムライス」なるものに目がとまりました。
メニューには「元祖オムライス」のほかに「オムライス」という卵料理が。「元祖オムライスとは?」とわたしがした質問に、古風なお店にいかにも似つかわしい、白い小さな襞がたくさんたたまれたエプロンをしたウエートレスさんは、「はい、ごはんと野菜と鶏肉などの具材を卵でまとめたものでございます」と説明してくれました。???
「では、この元祖でない方のオムライスは?」と再度聞いてみると「こちらはふつうのオムライスでございます」とにこやかなお返事。
「元祖の方は、卵でこうくるっとひとつにまとめております」。ウエートレスさんはものわかりの悪いお客のために、「くるっ」のジェスチャーつきで説明してくれました。それでもわたしにはわかりません。「煉瓦亭」の「元祖オムライス」と「(ふつうの)オムライス」の違い。
わからないものは頼んでみるしかない。数分後、わたしの前に運ばれてきたものは、そう、構造的には先日息子が作ったスペイン風ライスオムレツ(ただし煉瓦亭のものはちゃんとオムライス型。そして当然のことながらちゃんと美しいひと皿)。「卵でまとめる」「卵で包む」、この表現の違いに翻弄された銀座の一夜でございました。
煉瓦亭はいつ伺っても、にこやかで折り目正しい高齢のご主人がお店の入り口に立って、恭しくお客を迎えておられ、お父様にそっくりな佇まいの息子さんが立たれていることもありました。この地でこのお店を長年続けていらっしゃるご苦労も自負もことの他と拝察しますが、何しろこのお二人の姿勢は謙虚そのもの。糊のかかったリネンのごとき質実さと謙虚さが、このお店の魅力といっても過言ではない気がしました。
そんな「謙虚な」気風のお店ですから、メニューにある「元祖オムライス」が、日本の洋食界をいかにけん引し、その後の「オムライス」ブームへといかに道を開いたかというような、「元祖」の「元祖」たる由縁をことさら強調するような説明は、店内のどこにも見当たらない光景なのでした。
Wikipediaの「オムライス」の説明はこうです。
オムライス は、日本で生まれた米飯料理である。ケチャップで味付けしたチキンライス(またはバターライス)を卵焼きでオムレツのように包んだ料理である。日本独自の洋食に分類される。オムライスという名称はフランス語のomeletteと英語のriceを組み合わせた和製外来語である(煉瓦亭では「rice omlet」と訳されている)。
「オムライス発祥の店」を自称する店はいくつかあるが、中でも有名であり有力とされるのは東京銀座の「煉瓦亭」、大阪心斎橋の「北極星」である。 「煉瓦亭のオムライス」は、明治33(1900)年に賄い食として、卵に白飯や具を混ぜて焼いたものが作られた。時期は不明ではあるが、これを客が食べたいと所望したため「ライスオムレツ」として供されるようになった。現在はこれを「元祖オムライス」という名前で提供しているが、ライスを卵で包んでいないほぼ具入りの卵焼きと言える製法など、現在一般的に認知されているオムライスとは別物である。その後、このライスオムレツ以外にも、一般的なオムライス(マッシュルームに、ひき肉、グリーンピースとお米が入っている)も提供をおこなっている。
このWikipediaの説明に 「タンポポ オムライス」なるものを発見。そーだ、そーだ、このオムレツがふわりと崩れるオムライスに一時期うちでも凝った時期があったっけ。あの崩れるオムライスの「元祖」が、『女たちよ!』の伊丹十三氏のアイディアだったとは。
映画「タンポポ」で有名になった作り方として、皿に盛ったチキンライスの上に中が半熟のプレーンオムレツをのせ、食卓でオムレツに切れ目を入れて全体を包み込むように開くという方法がある。これは伊丹十三がアイディアを出し、東京日本橋にある洋食屋の老舗たいめいけんがつくりだしたもので、現在「タンポポオムライス(伊丹十三風)」という名前で供され、店の名物の一つである。(以上 Wikipediaより )
なんか、いろいろ思い当たるぞ。この「オムレツ」から「タンポポオムライス」に至る歴史的文脈。
オムレツ(プレーン)→アレンジされたオムレツ(パセリオムレツ、ホワイトオムレツ、マッシュルームオムレツ スペイン風オムレツetc )→オムレツ + チキンライス → オムライス → チキンライス + オムレツ
もともとプレーンだったものが、様々なアレンジを生み、とりどりのものを内包しはじめる(例:「煉瓦亭」の「元祖オムライス」)。そのうち、「あんパン」的和魂洋才の発想がいわゆる「ふつうのオムライス( 大阪 北極星風 )」を生み、その後多種多様なバリエーションの果てに、再度「たいめいけん風タンポポオムライス」のような、「別々」あるいは「のっけ」のかたちに分離変遷し、気づけば「原点回帰」していく。こういう変遷をたどるものって、他にもいろいろある気がするぞ。
そもそも、わたしがかつて「元祖オムライス」のなんたるかが理解できなかった理由には、どうかすると「プレーンオムレツ」からイメージをスタートできず、「オムライス」にイメージを牛耳られていたからに他ならない気がする。降順と昇順の情報整理の違い?
もとのかたち。そこから生まれるとりどりのバリエーション。華々しいバリエーションの陰で、ちょっと忘れかけられてしまうもとのかたち。これって、「オムレツ→オムライス」バリエだけじゃない気がする。。。
ほほー。考えてみましょ。一週間かけて。くだらないけど。 ( 次週に引っ張るツモリです。)
ほら きみきみ、 お料理のあとはちゃんとお台所を元通りにね。おいしいとこどりはゆるしまへんえー。
☆ 「晴れときどきやさぐれ日記」の他の記事はこちらへどうぞ → ★