選択できなかった最高の贅沢
母の施設に面会に行ってきました。同じ県内ではありますが片道1時間半ぐらいかかるので正直なかなかいけません。今回面会に行くきっかけは知人からメイバランス(高齢者向け栄養補助食品)を大量にいただいたこともありました。この方のお母様もわたしの母と同じような状況だったのですが先日亡くなってしまいました。いっぱい用意したのに必要なくなってしまったのでうちの母にあげてほしいとのことでした。
その思いと共に母に渡してきました。施設に到着するとロビーの階段には豪華なお雛様が飾られていました。明るいロビーからは綺麗な風景も見られます。この風景もこの施設に決めた理由のひとつでした。

母の部屋に入ると今日も寝ていました。昼間なのにカーテンは閉められたままでした。声をかけても起きません。しばらくそのまま部屋にいましたが全く起きる気配がないので手を握って声をかけると目を開けました。「あー今日は日曜日だったね」とわたしの顔を見ながら言いました。相変わらず頭はしっかりしているようです。
しかしこの前来た時よりもさらに痩せていました。自力で起き上がることも難しいようでした。
食事は1口2口は食べているようですがとにかく体を動かすと眩暈や吐き気がするためほぼ寝たきりの状態。頸椎を保護するためのネックサポーターは終始着けていないといけません。そんな状況でも頭はしっかりしていて嚥下機能はそこまで衰えていない。母の生命力の強さを感じました。
しかし本人にとってはそれが辛いのです。「なかなか死ねないのね。どうしてこんな目にあうのかしら」
と口にします。もう観念しているのか少し前によく口に出した「地獄だ」は今回聞きませんでした。
人生は選択することがいっぱいあります。進学、就職、結婚、日ごろの買い物だって選択ばかりです。
母は遠くに旅行することもなく、ブランド品にも興味がなく、高級な食事も好まず地道に生きてきました。これと言った贅沢もしていません。そんな母の一番の贅沢が今の有料老人ホームではないでしょうか。たしかにホテルのようにきれいな建物で食事も豪華なようです。でも動けず食事も摂れないならどこでも同じだと時々口にします。自分で選択したわけでない贅沢な空間。母にとっても私たちにとっても想定外のことです。

面会中に職員さんがオムツ交換にきました。わたしはその間部屋から出ていました。その場にいることはわたしにはできませんでした。交換終えて出てきた職員さんが「排便もされていました」とごみ袋をつまむように持っていきました。部屋にいなくて良かったと思ってしまいました。
そろそろ帰ろうと思った時に母が「悪いけど足を拭いてくれない」と言うので履いていた靴下を脱がせました。指は拘縮しているし爪の厚みはすごいことになっていました。爪水虫かと思いましたが歩けない高齢者には多い症状のようです。足先からのなんとも言い難い匂いでもう以前の母ではないということをつくづく感じました。臭いわけではないのですがその匂いが帰りの車を運転しながらずっと鼻から消えませんでした。
最初で最後の贅沢かもしれない有料老人ホーム、確かに高い。だけど今のわたしには母の身の回りの世話はできないとつくづく感じてしまいました。
もしかしたらマメオ君に対してならできるかも?しれない。文句いいながら、愚痴こぼしながら。
母に対しては文句も愚痴も言いづらいからお世話できない。母との思い出を汚したくないから。
さて、マメオ君は相変わらずわがままに過ごしています。わたしは毎日愚痴っています。毎日愚痴れることもある意味しあわせなのかもしれません。