我、極意を体得せり:レンチンぶり
先週は母岳の大噴火について話しましたが…
案の定、翌日の母は自分があれだけの噴火をしたことなど
ケロッと忘れていました。
まぁ、本物の火山のように火山灰をまき散らすわけでもなく、
本人の記憶から消えてしまえば噴火の跡など何もなくなるのですから。
ケロっと忘れた上に、いつもよりご機嫌な母。
憑き物が落ちたとはまさにこのこと。
とはいえ、やはり私は心中穏やかではありません。
<バーカ、バーカ!>
ああ、ショートステイを今日からにしてもらって良かった。
でなければ、私は今日一日、機嫌のいい母を相手に苛立ち、
その苛立ちが母に伝染し、また昨日のような修羅場になる。
※『認知症の方は、介護者の鏡』
あと10分程でお迎えのスタッフがやって来るという時、
母が「今日は私がやるわ」と言って洗濯物を干し始めました。
今日に限ってこのエネルギーは何だ?
昨日大暴れしたことで、澱(おり)のようなものをすべて
吐き出してすっきりとしてしまったのだろうか…
てなことを考えていると
「あら、誰かの車が来たわよ!」と母。
慌てて玄関へ飛んで行って扉を開けると、
いつものスタッフが車に荷物を積み込んで下さっているところでした。
※大荷物を見ると母が「泊まるの?」と言って怒り出すので
いつもお泊りの荷物は玄関の外に置いておきます。
スタッフはそれを車に積み込んでから呼び鈴を押してくれます。
挨拶をしてから部屋へ戻ると、
洗濯物を干し終えた母はテレビの前に座っていました。
そして、私の口から思いがけない言葉が出ました。
「お母さんゴメン。今日リハビリの日だったの忘れてた。
お迎えが来ちゃった。どうしよう」
母を送り出す時、こんなことを言ったことはありません。
なぜかこの日は自然に口をついて出ました。
すると母は「あら大変!コートを出して。バッグにハンカチは入ってる?」
と、そそくさと動き出しました。
そして、待たせちゃ悪いと言わんばかりに小走りに玄関へ向かい、
あっという間に出かけていきました。
なぜだ?
いつもは、リハビリのお迎えが来たと言うと
「そんなこと聞いてないわよ!どうして勝手に決めちゃうの?!
絶対に行かない!」と怒るのに。
母が出かけて30分程すると、ケアマネージャーさんが
来てくれました。
昨日の噴火の様子を説明し、これからのことなどを話した後に
ふと、今日は怒らずに出かけて行ったことを話しました。
ケアマネさんは少し考えて
「今日リハビリだということを忘れたのは娘さんで、
自分じゃなかったからじゃないですか?」
え?
確かに、いつもは母が忘れてしまう事を利用して
「お母さん、リハビリのお迎え来たわよ」
「そんなこと聞いてないわよ」
「朝、言ったわよ」(嘘だから、ちょっと小さくごまかすように)
「知らない!勝手に決めないでよ!」
と送り出していました。
でも今日は、同じ嘘でも、悪いのは私。
忘れたのは私。
「お母さんは色々な瞬間に自分が物忘れをするということを
実感せざるを得ないんですよ。
きっとその度に傷ついたり、怖くなったり、
腹が立ったりしているんでしょう。
そして、その不安が娘さんに対する暴言や悪態になる。
ても今日は自分ではなく、娘さんの失敗で突然お迎えが来てしまった。
だから、怒らずに出かけて行けたのではないですか?」
とケアマネさん。
ずっと解けなかった難しい問題が一瞬にして解けた、
そんな思いでした。
その後二度ショートステイがありましたが、
二度とも「お母さんゴメン!」作戦で、母はおとなしく出かけて行きました。
ああ、介護にも技というものがあったのか。
これがずっと上手くいき続けるとは限らないし、
誰にでも使えるものではないだろうけど、
少なくとも今はこれが母の気持ちにうまく沿えるテクニックの一つ。
介護に限らず、それを上手くこなすための極意が何事にもあるのだと思います。
決して手抜きではなく、簡単にいい結果が出せるのなら
こんなに素晴らしいことはないでしょ?
ということで、今日の料理は『レンチンぶり』。
実はこのレシピ、私が考案したのではなく、
ショッピングセンターの鮮魚売り場にいた、ぶりを養殖する会社の
おじさまに教わったもの。
簡単で、でもとっても美味しい素晴らしい一品です。
照り焼きよりは大分さっぱりしていますが、
身がふんわりと仕上がりますよ。
『レンチンぶり』
- 長ねぎを細めの斜め切りにします。
- 大根をおろします。
- お皿に1のねぎをたっぷり敷き詰め、その上にぶりの切り身を置く。
- 2の大根おろしの水気を軽く絞り、3のぶりの上にのせます。
- 4 のお皿にふんわりとラップをかけて、レンジに入れ
600ワットで4 分半加熱します。 - ポン酢醬油をかけて召し上がれ。
※仕上がりが白いので本当に火が通っているか心配になるかもしれませんが
よほど分厚いぶりじゃなければ上記の時間でしっかり火が通ります。
加熱しすぎると身がぎゅっと固くなりますので要注意。
母がおとなしく出かけて行くことをケアマネさんに報告すると
「これからも一緒に色々作戦を練りましょう!」
という返事が返ってきました。
その言い方が何だかちょっと楽しくて、あの大噴火のショックも
薄れたような気がします。ミカスでした。
いまねえ
ミカスさん、こんばんは。
ああ、、良かったなあと思いました。
先週の記事を読んで思い出したのが、
最初の子を産んだ後
初めての土地、初めての育児、顔見知りは近くに住む
連れ合いの両親だけという環境で
誰とも一日話すことのない無味乾燥とした時間を
赤子と共に抱いて過ごしていた、
ほぼ育児ノイローゼだったような
その時の気持ちでした。
夜昼問わずぐずってなく赤子、
どうしてよいかわからなくなり次第に
理性も失われていくようで、怖かったです。
今ではすっかり忘れてしまった思いですが
もし今なら、必死にスマホかPCで発信したかもしれません。
そういう場があると一息つけますものね。
だけど子どもはやがて成長する、
でも老いた親は若い頃に戻ることはないのですよね。。
ケアマネさんって重要な存在だなと改めて思いました。
寄り添ってくれる一言が有り難いと思いました。
今回のレンチンぶり、私はぶりがちょっと苦手なので
他のお魚でやってみようと思います。
大根おろしにポン酢醤油って相性良いですね。
ミカス Post author
いまねえさん
ありがとうございます。
いまねえさんの辛かったお話に、介護に限らず、逃げ場も助けも見つからずに途方に暮れている人たちの存在を思いました。
辛さのもとを全て無しにすることはできないけれど、伸ばした手を掴んでくれる人、あげた声に耳を傾けてくれる人の存在があれば、少しでも救われるんじゃないかと思うのですが。
どうしたらいいのでしょうね。
ぶりが苦手でしたら、タラやかじきでも美味しいかな?
ねぎをたっぷり敷き詰めて、ちょっとだけ高級なポン酢でお召し上がりください!
カミュエラ
先週の「母岳大噴火」を読んでからいろんな事を考えています。
以前にもコメントさせていただいたのですが、私には自閉症の息子がいます。
高機能自閉症なので、今は言葉もしゃべれますし勉強も普通にできますが、いまだに衝動的に自傷行為をするときがあって、壁にぼこぼこ穴が開くほど頭を打ち付けたりするのを見るたび、いつも体がさーっと冷たくなってしまいます。何も感じないようにするので精一杯です。
大事な人が自分を傷つけてるのを見るのはほんとにつらいことです。
ミカスさんもどんなにか悲しくお辛いだろうかと・・・・・
ミカスさんのような悩みを抱えた方が少しでも楽になる方法はないだろうかと、色々考えていました。
今私はアメリカに住んでいるのですが、義母が遠くで一人暮らしをしていて心配なので、何かあったときのために「モーションセンサー」のついたネックレスのようなものを付けてもらっているのです。それは彼女の体の動きを読んで、転倒等と判断した時にはすぐに安否確認をしてくれるようになっているものです。
それ以外にも急に気分が悪くなった時などには、ネックレスについているボタンを押すと係りの人と連絡が取れ、状況に応じて救急車や消防車などを呼んでくれたりもします。
24時間対応ですが、一年に数回使うか使わないかなので、保険のような感じで一カ月5000円ほどの料金でこのサービスが受けられます。
日本ではまだこのような会社はないのかもしれませんが、このサービスの内容を変えれば、きっとミカスさんのような方の力になるのではと・・・・
もちろん簡単にできることではありませんが、一つのアイディアとして考えました。
お住いの街に、ミカスさんと同じようにつらい思いを抱えている方たちがいると思うのです。
最初は互助会的に少しずつ持ち寄り知恵を出し合い、本当に必要なものを行政に要求してもいいと思います。
話は前後しますが、今17歳の息子が現在普通に学校に通えているのは、ある家族のおかげでもあるのです。息子は2歳の時に自閉症と診断されたのですが、診断の翌週にはセラピストが自宅に通い始め、学校に入ってからは学校にいる間つきっきりでセラピストがサポートしてくれました。おそらくその時点ではアメリカで受けられる最高のサービスだったと思います。
このサービスは、同じように自閉症の子供を持つある家族が州を訴えて勝ち取ったものでした。
闘うなんてしたくありませんが、でも「苦しいから助けて!」と声を上げないと分かってもらえないのも事実です。ミカスさんはすでにここでその声を上げていますよね。
近くに住んでいたならほんとにすぐに何か一緒に行動を起こしたい、そんな気持ちです。
でもプレッシャーになっていたらほんとにごめんなさい。応援しています!
ミカス Post author
カミュエラさん
息子さんのお話をしてくださって本当にありがとうございます。
カミュエラさんはじめ、前回の記事とこの記事へのコメントにご自身の経験や置かれている状況を書き込んでくださった皆さんには本当に感謝しています。
もしかしたら書くことで辛いことを反すうしてしまうのではないかと心配ですが、書いてくださったコメントを読むことで「他にも頑張っている人がいる」と勇気付けられた人がたくさんいたはずです。
もちろん、私も。
お義母さまのネックレスや、息子さんへのセラピストシステム、素晴らしいですね。
もしかしたら、日本でもそういうサービスを実施している地域があるのかもしれません。
そして、カミュエラさんの地域でそうだったように、日本のそのサービスの裏にも思い切って声をあげた人の存在があるのかもしれませんね。
確かに「闘う」なんて、ちょっと違うような気もしますね。闘わなきゃいけないの?って。
でも、状況を知ってもらわなきゃ、変えることはできないですよね。
私に何ができるのか、まだ模索している状態ですが、少しずつ行動に移せたらと思っています。
住む場所は離れているけれど、いつかカミュエラさんにもパワーをお借りするかもしれません。
プレッシャーなんてとんでもない!
応援してください!(笑)
アンジェラ
こんにちは
親に優しくするのって、親が歳をとった事を認める事かな、と思います。以前は厳しく接した事もあったけど、最近は自然に優しくできるのは親がものすごく弱ってきた証拠とも思い、すこし淋しくなります。
でも親は親で、もうじゅうぶん子供に世話をされる立場なのに、いつまでも子供の事を心配しますよね。
だからミカスさんのお母様もミカスさんの失敗?をカバーしなくちゃ、という気持ちがそうさせるのではないかな、と思ってしまいました。
カミュエラさんのお義母さまのペンダントのようなもの、日本でもあります。
モーションセンサーはあるかわからないのですが、首から下げるタイプのボタンを押すものは大手警備会社が提供しています。
私も親のどちらかが一人暮らしになったら契約しようと思っています。
将来、自分がおひとりさまとなった時も役立ちますよね。
ミカス Post author
アンジェラさん
親が年を取ったことを認めること。
私はそれができていないのかもしれません。
恐らく、年を取ることによって生じる親の変化が、私が予想していたものと実際の母のそれとではあまりに違い過ぎたからだと思います。
「殺す」と口走りながら向かって来る母と取っ組み合わなければならないとは思っていなかった。
でも、それも現実なんですよね。
だとしたら、それとどう向き合うかを考えるけとはもちろん、他の人にもこの実状を伝えていくことが必要だな、と思います。
ペンダント、日本にもあるんですね。
情報ありがとうございます!
母方の伯母が80歳を超えて一人暮らしなので、日々そちらも気になっています。
確かに、自分の将来にも必要ですよね。
色々調べてみます。
そんな情報も「ミカ料」の中で少しずつご紹介できればと思います。