プラスチックの髪飾り
人はどうして嘘を吐くのだろう。人はなぜ人を信じられないのだろう。そんなことばかりを考える日々が続いたことで、自分でも嫌になるほど思考が陰鬱になったと感じていた。もしかしたら、それが原因で患ってしまうのではないかと思うほど。けれど、ここで負けてなるものか、という意地のようなものが僕を支えている。
意地を張るという言葉がある。どうして、意地は張るのだろう。怒りはぶつける。喜びは爆発させたり噛み締めたりする。でも、意地は張る。他に張るものはあるだろうかと考えたけれど、肩肘くらいしか思い浮かばなかった。
大きな商業施設のフードコートも平日の遅めの午後は空いている。食べ損なった昼ごはんを食べようと、大きな鉢に入ったラーメンを小さなテーブルに運ぶ。周囲には、母親と子どもという組み合わせが多い。母親がまだベビーカーに乗っている下の子にスプーンでご飯を食べさせている。その周りでヤキモチを焼いたお姉ちゃんが走り回ったりしている。
「ほら、これ好きでしょ。食べていいのよ」と母親が言うのだけれど、お姉ちゃんは「好きじゃないもん。嫌いだもん」と駄々をこねる(そうか、駄々はこねるのか)。「うそよ。昨日もたくさん食べてたじゃない」「大嫌いだもん」とこねていた駄々が、だんだん意地になってくる。
お姉ちゃんが嘘を吐くのは、自分を見て欲しいからだ。自分を見て欲しくて、必死で嘘を吐く。その必死さが子どもだと可愛らしく思えてくる。大人だと可愛らしいなんて思えないのに。そんなことを考えながら、僕はラーメンを食べ終えて、ラーメン鉢を返却口に戻す。さて、どこかでコーヒーでも飲むかと、ふいに足元を見るとさっきの女の子が付けていた赤いプラスチックの髪飾りが落ちている。
それを拾って、どうしようかと思っていると、向こうのほうからパタパタと軽い足音が聞こえてきた。大好きな髪飾りが見当たらなくなって焦った女の子は、さっきまで必死で張っていた意地なんてかなぐり捨てて走ってくる。僕がひょいと髪飾りをつまんで見せると、女の子はとたんに満面の笑みになる。たぶん、僕も笑っている。
植松さんのウェブサイトはこちらです。お問合せやご依頼は下記からどうぞ。
植松事務所
植松雅登(うえまつまさと): 1962年生。映画学校を卒業して映像業界で仕事をした後、なぜか広告業界へ。制作会社を経営しながら映画学校の講師などを経験。現在はフリーランスのコピーライター、クリエイティブディレクターとして、コピーライティング、ネーミングやブランディングの開発、映像制作などを行っています。