よその子に泣く。
カフェ小景というか、ファミレス小景である。
東京の最寄りの駅の近くにあるファミレスで、ときどき仕事をする。最近のファミレスはなんだか安っぽくなって、テーブルごとにタブレットがあり、なんならオーダーした料理がロボットで運ばれてきたりする。僕が行くファミレスはロボットまで導入できないくらいに、あまり流行っていないファミレス。その流行ってなさが、仕事にちょうど良いときがある。あと、ちょうど良いコーヒーのまずさね。なんだこの仕事と思っているときに、あんまり美味しいコーヒーが出てくると、なんでオレはいまこんな美味しいコーヒーを飲みながら、こんな仕事をしているんだろうと泣きそうになってしまうから。
さて、今日も今日とて、そんなファミレスの片隅で仕事をしていた。すると、妙なことに混み始めた。不思議だ。いままで、こんな中途半端な時間に、中途半端に混むことなんてなかったのに。そう思っていたのだが、隣の席に親子連れが座った。といっても、子どもは、まだ生まればかり。おそらく生後数ヵ月という赤ん坊だ。この赤ちゃんがよく泣く。まるでテレビドラマの音効さんがライブラリーの中から選んで付けたみたいな、絵に描いたような泣き声だ。
僕はそんな泣き声を聞きながら、自分の子どもたちが赤ん坊の頃を思い出して懐かしくなる。思わず、ヘッドフォンを外して、仕事をしながら赤ん坊の声を楽しんでしまう。いいねえ、赤ん坊。子どもたちが小さかった頃も、こんなことがあったねえ。あんなこともあったねえ。という感じで、眺めていたのだが、お母さんがコートを着だした。どうやら、赤ん坊の泣き声が迷惑がられているんじゃないかと、赤ん坊をあやしに外へ出ようということらしい。
いやいや、大丈夫ですよ。と僕は声をかける。だってさ、子どもと年寄りは国の宝もんだよ。「僕のことなら気にしなくていいですよ。僕らも子どもが小さかったとき、困ったことはあったもん」と伝えると、旦那さんが「ありがとうございます。そう言ってもらえるだけで、ありがたい。なかには迷惑そうにする人もいるんです」と。「そいつだって、赤ん坊のころは泣いてたくせにねえ」と思わず言葉を返す。すると、旦那さん「本当にありがたい」と涙を流さんばかり。どうしたの、なんか辛いことでもあったの?と思ったけれど、これ以上踏み込むのもなあ、と軽く微笑んで、仕事に戻るのであった。そのすぐ後、店員さんが来て「あちらの角のボックス席が空いたので、あちらでどうですか」と案内され、赤ん坊を抱えた夫婦はそちらへ。
なんだか、自分の子どもが小さかった時のことを思い出しちゃって、泣いちゃったよ。なんで、僕が泣くのかわからないけど。
で、それから小一時間、仕事をしてたら、さっきの赤ん坊を抱えた夫婦の旦那さんが、僕のほうに小走りでやってくる。「さっきはありがとうございました」って挨拶しにきてくれてさ。なんか知らないけど、またないちゃったよ。
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植松事務所
植松雅登(うえまつまさと): 1962年生。映画学校を卒業して映像業界で仕事をした後、なぜか広告業界へ。制作会社を経営しながら映画学校の講師などを経験。現在はフリーランスのコピーライター、クリエイティブディレクターとして、コピーライティング、ネーミングやブランディングの開発、映像制作などを行っています。