60代、男はゆっくりご乱心

カフェでお見合い。

いつものように、いつものカフェで仕事をしていた。いつものカフェなんだけれども、いつもよりもほんの少し混んでいて、店の奥の席に追いやられるように座っていた。その席はちょっと特殊で、僕の目の前に二人がけのテーブルが5つくらい縦に並んでいて、位置的には僕が酋長のようにお誕生日席に座っているようになっているのだった。そうはいっても、席は独立しているので仕事をするのに支障はない。僕は粛々と書き仕事をしていたのである。

そこへ、スーツを着た若者と、これまたスーツを着た父親らしき人。そして、ちょっと高そうな皺の入った(たぶん、ISSEY MIYAKEふう)服を着た母親らしき人の三人が僕の目の前にあった席に座った。見た感じは、大学の卒業式に家族で出席したような感じなのだが、卒業式シーズンではない。でも、結婚式だとネクタイはだいたい白いしなあ。そんな感じで眺めていると、彼らは小さな二人がけのテーブルをくっつけはじめて、6人掛けのテーブルを即席で作り上げたのだった。

ほほう、誰かくるのかね、と思っていたら、やってきた。今度はお上品なスカート姿の娘さんとスーツ姿のお父さん、そして、シックに決めたお母さんである。二組の家族は互いに「はじめまして」と声を掛け合い、立ち上がって挨拶をする。「○○さんにはいつもお世話になっていまして」「いやあ、私もです」と誰かが間をつないでいるような気配。しかし、この妙な緊張感というか、かしこまった感じはなんだろう。なんですか?どういうことですか?と僕はしばらく思っていたのだが、わかった。見合いである。誰かの紹介で、若い男女を引き合わせ、あれこれ話して、結婚するかどうかを決める、あれである。

それにしては、仲人さんがいないのか、とは思ったけれど、6人が席に着いた直後に父親の一人が言った「いまどきは、こういうカジュアルなほうがいいのかもしれませんね」という一言で、仲人がいない理由もわかった気がした。

僕自身はお見合いをしたことがないし、というかこう見えて劇的な駆け落ち組だし、お見合いの現場を体験したこともなかったので、急にお見合いを目の当たりにすることになり、もう仕事どころじゃない。

お互いの挨拶が済むと、男性側のお母様が仕切り始める。こういうときに、朗らかで人当たりのいい人がいると場が和む。あれこれ話しながら、相手の家庭の事情を聞き出していく術はなかなかの手管である。ここから聞き取れる範囲では、男性側は男兄弟ばかりの次男である。そして、女性側は二人姉妹の妹。姉の方はもうすでに結婚して家を出ているらしい。

「それはお寂しかったでしょうね」と男性側の母親が言うと、女性側の母親が「もう、最初は結婚式の写真ばかり眺めていてねえ」と笑いつつ「でも、いいお家に嫁いだので安心しています」と、なにげに、おたくもうちの娘を幸せにしてくれるんでしょね、と牽制球。次男だから関係ないんじゃないの、同居じゃないんだしと僕が思っていると、男性側の母親が、「長男がアメリカに留学したまま帰らずに向こうで仕事をし始めたので、長男が向こうで結婚でもしたら、この子に家を住んでもらってもいいとは思っているんです」と言う。

なるほど、なかなか複雑というか、いい話なのか、邪魔くさい話しなのかわかりにくい展開。それでも、互いにニコニコしながら話しが進み、意外にこの組み合わせは悪くないのかも知れないぞと僕が思い始めた頃に、若い二人は二人だけでどこかへお出かけ。カフェでカジュアルに話しているんだから、今さらと思わないではないが、ドラマの中のセリフのような「では、若い者同士で話してらっしゃい」という言葉に送り出されて、二人は出て行く。

二人が出ていくと、両家の両親は「もしご縁があれば」とか「二人がよければ」という大前提付きで、どこに住むのか、将来のキャリアプランは、という話しを続け、「なるほどなるほど」とうなずきあっている。

そうか、こういうふうに結婚というのは決まっていくのか。あとは、本当に二人の相性というか、気持ち次第だなあ。しかし、二人がなかなか帰ってこない。もう、両家の両親は会話のネタ切れである。互いのスマホを取り出して、子どものころの写真などを見せ合っている。

僕も少し膠着した状況にあきて、ほんのちょっと仕事に戻り、パソコンの画面に目を落とした。その時である。ふいに甘い香りが鼻をくすぐるのである。二人が帰ってきたのだ。え?こんなに甘い匂いをまき散らしながら?そういうこと?二人の恋はもう花盛りなのかい?

「お帰りなさい」「いろいろお話できた?」両家の両親に迎えられて、二人は満面も笑みである。

「あら、いいにおい」「ほんと、甘い香り」そう言われて、若い二人は顔を見合わせて笑う。
「やっぱり、さっきのお店の匂いかしら」
「そうですね」
「どういうこと」
「さっき、入ったお店が、ワッフルが人気みたいで」
「二人で話しているあいだ、ずっと店内に甘い香りがしてたんです」
「あらそうなの」
「そりゃいい、あなたたちにぴったりじゃない」

もう、両家6人、まるで結婚式当日みたいな満面も笑みである。これで、結婚しないお見合いなんてあるんだろうか。そんな、土曜日の午後である。

ということで、2024年最後の『60代、男はゆっくりご乱心』はいつものカフェ小景特別編みたいな内容でした。今年も1年間、ありがとうございます。来年もよろしくお願いします。


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植松事務所

植松雅登(うえまつまさと): 1962年生。映画学校を卒業して映像業界で仕事をした後、なぜか広告業界へ。制作会社を経営しながら映画学校の講師などを経験。現在はフリーランスのコピーライター、クリエイティブディレクターとして、コピーライティング、ネーミングやブランディングの開発、映像制作などを行っています。

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コメント、ありがとー!

  • kokomo

    植松さん、今日を首を長ーくして待っておりました。
    植松さんの実況中継でハラハラしていたお見合いですが、いい感じで終了したようで部外者ながらもほっとしました。私もお見合い経験がないのですが、お見合いってドラマでかつて見たようにホテルでというイメージがあったので、今どきは普通の喫茶店なの?と驚きました。そのうち「スタバお見合い」とか「ドトールお見合い」とかも出てくるのかしら?

    昨日久しぶりに社会人の娘に会ったのですが、このお見合いのことがふと頭をよぎり、「将来お見合い相手や結婚相手のご家族に会ったときに、相手を持ち上げつつ、相手の家庭環境や時には経済状況を探って、さらに自分の子供を謙遜しつつプッシュする、なんていう高度なこと、私は無理だよー。」と愚痴ってしまいました。「相手も予定もないのに気が早すぎ」と笑われてしまいましたが、そういう場になったら絶対何かやらかしそう。

    植松さんの描写が素晴らしく、お見合いの様子が目の前に浮かぶようです。そして、植松さんのご結婚が「劇的な駆け落ち」という新たな情報でまた仕事に手がつかなくなりましたよ。

    喫茶店シリーズは「カフェ小景」という洒落たタイトルだったのですね。私は勝手に「The喫茶店・植松雅登は見た」シリーズと名付けていました。来年も楽しい記事お待ちしています。

  • uematsu Post author

    kokomoさん

    劇的駆け落ちの話は、また今度ということで(笑)。
    僕もお見合いの現場に立ち会ったのが初めてだったので、こんなところで?!という感じでした。

    でも、それなりの緊張感があって面白かったです。

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